吾等文学ニテ事件ヲ解決ス

新帯 繭

文字の大きさ
26 / 31
序章

1話 予定外の悦び

しおりを挟む
~『犬宮もこ奈』と『赤塚清世』の邂逅~

「こんにちは……家の近くで、どうしたんですか?」

『赤塚』さんの妹らしい高学年が、駆け寄ってきて、話しかけてきた。
マズい……これでは完全に不審者で、怖い中学生だ。
これは詰んだな。
そう感じていると、思わぬ声がかかる。

「まさか、お姉ちゃんの友達?」
「お姉ちゃん……?」
「うん、『芽衣』のこと。」

成程、『赤塚』さんの妹で間違いないようだ。
しかも、自分の姉の友人だと勘違いしてくれている。
これは好都合だ。
私は、嘘をつくことにした。

「ああ……うん、そうだよ?」
「へえ……意外だなー。」
「何で?」
「だって、お姉ちゃんは、結構ヤンキーみたいな人が、嫌いなんだもん。」

無邪気に人を傷つける物言いに、私は少々打ちひしがれた。
それと同時に、「やっぱり」と思った。
この状況が無ければ、詰んでいたかもしれない。
ここは、嘘がバレないように、細心の注意を払って時間を稼ごう。

「そうなんだよ~……不思議だよね?」
「……ということは、あなたは、きっといい人だね!」
「そうかな……ありがとう。」

『いい人』と言われるのは、何時ぶりだろうか。
胸の奥が締め付けられて、心地良い苦しさが、私を満たしていく。

「でも、なんで一緒にいないの?」
「うーん……途中まで一緒だったんだけど、少し休憩してから帰るよ。」
「じゃあさ……あなたも一緒に遊ぼう?」
「え……?」
「お名前は何ていうの?」

私は、相手が高学年だと思って、流石に舐めていた。
こんなにも、思春期真っ盛りで、こんなにも無垢で無邪気で天真爛漫な女の子は、正直初めての体験だ。
ペースに嵌まり込んで、どんどん流されていく。

「えーと……『もこ奈』。」
「『もこ奈』ちゃん?」
「うん……私の名前だよ。」
「へえ……可愛い名前だね!」
「君は?」
「清世!」

一瞬、聞き慣れない名前だった。
私は聞き取れずに、聞き返した。

「きよ……何て?」
「き・よ・ぜ‼」
「『きよぜ』ちゃんって言うの?」
「うん……誰も真面に読んでくれないんだ。」

目の前の、『清世』という少女は、少し寂しそうな顔をした。
睫毛の長い円らな瞳を、俯かせて口をとがらせて、拗ねた顔を決め込んだ。
私は、不覚にも胸が高鳴ってしまった。

「じゃあ……私は間違えない様に、『ぜっちゃん』って呼ぶね?」
「え~……何か嫌だけど、別に良いよ。」
「なら、私のことは、『もこ』で良いよ!」
「……なら『もこちゃん』ね?」
「うん、よろしくね!」

私は、この少女を、『赤塚芽衣の妹』としてではなく、一人の女の子として、強く惹かれていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...