詩集『刺繡』

新帯 繭

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心の傷をつける心

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心の傷は治らない
心は怪我をしても
体のようには完治はしない
体の傷はケロイドを伴って
強化されて消えていく
攻撃を受けた事実だけを残して

心は簡単に傷がつく
まるで豆腐のようなものでも
簡単に砕けてしまう
この世で一番脆くて
宇宙一繊細で儚いもの
他人はキャンパスと例えるが
キャンパスのように
ベニヤ板のような強度はない

心は抱き枕のようなものだ
体が鎧になっても
心はふわふわとしていられる
心の固さを例えるなら
ゼラチンが足りないゼリー
肌触りは密度を無くした綿毛

心は心地が良い
体は鍛えるほどに硬度を増す
硬度を限界まで高められる
心は鍛えるほどに柔らかくなる
ゲルのような包容力が増すのだ
体で作る暴力よりも
心の朗らかさがずっと良い

そんな心に傷がつくのは
心の弱点を知っているからだ
心は心で傷がつく
自分の弱さの共食いだ
相手を傷つけるのは弱虫だ
弱虫だから体でしか示せない
自分が強いと虚栄を張る

本当に強いのは体が貧しくて
心が豊さと充実した賢さがある
そういう人間だろうか
今の私には物足りないな
そう思う今日この頃

傷つける心は情けがない
何処までもただ唯一に
情けというものがない
感情があるのかと
根本から疑うときすらある

ケンカというものは
互いに体を傷つけあっても
心は傷つけないようにする
心をぶつけ合うのだから
それ以上は自分も摩り減る
摩り減ればなくなるのだ
だから最後は手を取り合う
それ以上心を削らないために

イジメは心を消すものだ
摩り減るのは消耗で
自分がコントロールできる
消滅はコントロールが効かない
そのうち自分も無くなってしまう
イジメはただ無意味に破壊するだけ

それが分かっていても
人は攻撃を止められないのだろうか
差別もイジメも迫害も
何もコントロールができない
それでは本能の獣と変わりはない
これもまた獣の遠吠えだろうか

心は柔らかく繊細だ
自分が嫌いなら
自暴自棄になるがいい
それでも自愛があるのなら
他人を大事にするべきだ
ナルシストの何が悪い
いじめをするナルシストは
自分が嫌いなナルシストだ

自由を求めて何が悪い
不足があって何が悪い
人は大事にしあって
その大前提で生きていける
傷つける心は欠陥ではなく
病気のようなものだろう
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