超常心理学~心理と呪いの境界線~

新帯 繭

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超常心理学・入門編~呪いと心の関係性~

初依頼・『ストーカーと藁人形と御札』

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2014年12月18日(木)
何ということだろう。
あまりに暇すぎて、業務日誌を書くのを忘れてしまっていた。
日記方式で書いているから、かなり面倒臭いと言えば本音で、それでも書かなくてはいけないのが真実。
こんなことをしていたら、査察か何かが入ったときに叱られてしまうだろう。
まあ、そんな冗談はさて置き、これまではと言うと、二日目に依頼の電話が一件入って、相談日と訪問が、本日で調査開始となった。
それまでは、3日目以降はずっと、電話も依頼もなく、唯々暇で、河方君に絡んで、雑談と業務導入をしていた。
それ故に、時間を忘れて話し込んだり、テキストを使って講義をしたりするばかりで、日誌や仕事のことをすっかりと忘れていたのだ。
なので、4日目以降の記憶が殆ど無い。
さて、以来というのが、初めからややこしいものだった。

「何もない、誰もいないところから、常に不快な視線を感じるんです。」

更に付け加えれば、胸を打ち付けられたみたいに苦しく痛むときがあるというのだ。
依頼者は二十代前半の女性で、ストーカー被害に過去に遭っている。
名前は向上涼香、容姿は可愛らしい感じで大人しそうな見た目で、服装も薄いパステルカラーを好むようでシャボンカラーのスカートとカーディガンと言った、所謂清楚系の服装を好むという。
以前に大学前ですれ違っただけの四十代前半の男性にナンパ紛いの交際を迫られ、断ったところストーカーに遭い始めたらしく、男性は警察に接近禁止令を出されたが、あまり効力を為していないらしく、何度も自宅前ですれ違い、日によればぶつかるふりをして体を触られるという。
この頃は、職場に事情を説明して、他の女性従業員と一緒に出勤して対策しているらしいが、その頃から変な視線と胸の苦しみに遭い始めたらしい。
警察や病院では、相談しても取り合ってもらえなくなっていて、憔悴しきっているらしく、近場に研究センターができたからカウンセリングを目的に依頼したというのだ。

「えーと……視線のイメージを具体的に説明できますか?」
「うーんと……変態みたいにじっとりとした視線ですかね……?」
「まあ……見えないものですし、説明ったって難しいでしょうから、今のでも大丈夫ですよ。」
「はい……。」
「最近は、その男の人の姿が夢に出てきたり、目を覚ませば10秒ぐらい目の前にいて、スーッと消えたりするんです。」
私は、この時点で少し違和感を覚えたが、敢えて強くは意識していない様に、気付かない素振りをする。
この違和感については、記録すると長くなるので後日説明しよう。
「はあ……それについて、素直な感想をいただけますか?」
「怖いです。」
「うん……その現象は個人的に率直に言うと何だと感じますか?」
「呪いみたいな……まるでホラー映画にいるみたいな気分です。」
「呪い……か……強ち間違いじゃないかもしれませんね。」
「まるで藁人形みたい……。」
やはり『藁人形』ときたか……と、このときには思った。
麦わらに人形とは、知っての通り、日本に伝わる古い民間の呪法の一種で、藁で作った人型を釘に打ち付けたり、向かって呪詛を唱えたりして、対象の人間を呪うというものだ。
近年だと、相手の顔写真など、ある程度呪う相手を特定できるようにして使われることが多く、大体は恨みや憎しみなどの、憎悪のマイナス感情から行われることが多い。
しかしながら、『呪い』とは本来、強い執着から来る願いを叶えるために行われるものであって、例えば、略奪愛などで、どうしても叶えたい恋愛感情を叶えるために儀式的に行うなどの、所謂祈禱のようなものも含んでいる。
ところが、こういったものは例え効力を為したとして、その通りに働きかける訳ではない。
寧ろ、マイナスイメージが強いことから分かるように、対象や第三者を苦しめることの方が多い。
『人を呪わば穴二つ』というが、素人が民間で行うような雑なものに限っては、真面な行いではないのだ。
それを、事もあろうか口に出せた彼女という存在に、先程よりも大きな違和感を覚えた。
「『藁人形』?……だと、何故感じるのでしょう?」
「映画や本で見るのと、丸っきり同じだからです。」
「考え過ぎではないでしょうか?」
「はい……。」
「兎に角、調べてみますし、調査は抜かりなくやるつもりです。」
「……よろしくお願いします。」
それほど多く質問したわけでも、問い詰めたわけでも無いが、聞けば聞くほど語気と声色が弱まっていくのが、不可解で仕方がなかった。
「はい……他に話したいことはございますか?」
「あの……失礼ですが、ここって心理学や脳の研究施設ですよね?」
「なんで『呪い』なんていうオカルティズムのワードが出てくるんですか?」
私は決して、『呪い』と断定したわけでも、言葉を発した訳でも無い。
確かに相槌でオウム返しをしたのだが、彼女にはミラーニューロンが通じなかったのだろう。
尽々、心理状態が読めないことに、少し苛立ちを覚えた。
ただし、プロとして顔に出すことも声に表れることもできないので、上手く感情を受け入れて、表情を調えながら話を続けることにした。
「いや、ここではそういったものも心理学や脳科学の観点から研究・調査をすることも仕事にしているんです……といっても、遂先月に立ち上げたばかりですけどね。」
「なら……これも。」
彼女の手が差し出してきたもの。
それは3枚の御札だった。
「えーと……これは山姥から逃げるために和尚さんから貰ったものですか?」
「はい?」
「いや、冗談ですよ……『三枚の御札』という昔話に掛けただけですが、これはどうしたんですか?」
「実は、電話の2週間前に男から、接触ざまに渡されたんです。」
「どれどれ見せてください。」
「……どうぞ。」
この『三枚の御札』を見たときに、変な感覚を覚えた。
これは神主の家系に生まれて、家に日常的に御札があった自分だからこその感覚だ。
実家は御祓いもやっているような、生粋の神道を稼業とした家系だったりもする。
その所為で、自分も神道の祈祷や呪法の知識も叩き込まれているのだ。
「うーん……成程ね。」
「どうですか?」
見れば見る程、護符も素人が書いた如何にもテキトーな、お粗末なものだった。
逆に言えば、使えないもので、使えたとしても目的外の利益が起きるような御札だった。
例えるなら、小学生や中学生が見様見真似から悪ふざけで作ったような、少し幼稚な見た目で酷く中途半端に本物っぽく作られたようなものだ。
問題は、『何の目的で作られたか』ではなく、『作った目的が何か』なのだろうということは、少し考えれば直感で分かる。
「うーん…暫く、これはお預かりしておきますね。」
「はあ……。」
私は、直感的にストーカーが作ったものではないと考えた。
これが、解決の鍵になるピースの一部なのは明白だった。
「では、また後日調査が終わり次第、お電話差し上げます。」
「では……。」
まだ、何か求めるような目を送ってきたが、ここは敢えて無視することにした。
「はい…今日はお帰りになって大丈夫ですよ。」
「では、よろしくお願いします。」
平常心を装っていることは、明らかにわかった。
だが、解決のためには追及してはいけないのだ。
少し彼女を日常から観察する必要がありそうだ。
「凰稀君……今日から初仕事だ。」
「何でしょう?」
無言で書記を終わらせて、マニュアルを只管読み込んでいた若い助手に声を掛けた。
驚いたような表情を見せたが、声からして無感情に感じる返事が返ってきた。
「今出て行った依頼人の女性は覚えているよな?」
「ええ……知り合いというか、よく知っています。」
「?……どういうことだい?」
思わぬ回答が返ってきたので、興味が湧いて訊いてみた。
「実は…高校時代にストーカー疑惑を掛けられたことがありまして……高校側にも連絡が行って、1か月停学になって現場検証と事情聴取を受けたんですが、その際に彼女の自宅を知ったのですが、ここから10㎞ほど離れた地域にあって、抑々僕は生活圏内にないので冤罪を簡単に証明できたのですが、やたらと近辺で接触があったようで、不気味に感じたので記憶に鮮明に覚えています。」
「何だと?」
「高校での同級生でも何人か被害に遭っていたり、本人じゃなくても親や親戚が被害に遭っていたりもしたので、この辺りでは結構有名人ですよ。」
近年でも増えてきているストーカー冤罪っていう奴か?
立証しにくいし、相手が不快であると感じていて、無実を証明できる可能性が一番低い類のものだ。
しかし、現在のストーカーが虚言であるとは言い難いし、証拠も根拠も一切ない。
「それが、今回は本当にストーカーに遭っているかもしれないということか?」
「真実はどうでしょうね……んで、僕の初仕事は、今度は本当にストーカーをして来いっていうことですね?」
「態度が無礼だぞ?……心外だな、尾行だ!……び・こ・う!」
「すみませんでした……了解です、怪しまれない程度に窃視してきます。」
「言葉を考えろ……じゃあ、観察と記録を頼んだよ?」
「行ってきます。」
河方君は、この数日で私をイジることを覚えたらしい。
私は、これでも6歳年上で、仮にも上司だが、元々は天才で感情の読み取りやコミュニケーションが得意な筈の彼だけに、こういった軽口のやり取りは相手の感情に問わず、心地が良いのだろうと察しが付く。
しかし、舐められっぱなしも良くない。
どうしたものか、今後考えることにしよう。
河方君は、小型のキーホルダー型カメラとノートを持って、自分の財布とバッグと共に出掛けて行った。
「今日は直帰で良いぞ?」
「なら、明日の朝一でカメラをポストに入れておきます。」
「了解!」
「じゃあ、後ほど連絡いれますね!」
「よろしく!」
意気揚々と彼は出ていき、連絡があったのは夜の10時半ごろだった。
当然、タイムカードを残業扱いで打刻し、私は人件費について更に3時間頭を抱えて、自分はサービス残業で打刻した。
依頼料は後払いにしているので、早めに実績を上げなくては、給料が払えないという大緊急課題が浮上したのだった。
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