Seeker at night

西崎 劉

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第一幕 終焉の物語と殉教者たち

二:⑧

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 遙の、ナイト・シーカー制作における、関わりを聞き終えて、その場に居た五人は顔を見合わせ深い深いため息をはいた。
「うわぁ・・・・・・」
と、顔をひきつらせたのは、純一だ。咲夜は、全員の顔色を伺いながら、最後に遙を見上げる。
「ハル姉、最初に戻るんだけど、何処いってたの! 俺、ハル姉も、皆のトコにいっちゃったんだと思って・・・・・・思って!」
 再び泣きそうになる咲夜を見下ろしながら、慰めるつもりで頭を撫でる。
「・・・・・・それに答える前に、他の人たちの事情を聞きたいんだけど。・・・・・・・だって、みんな、サクくんと変わらないくらい、目元が赤いし・・・。先ほどまで泣いていたって、言っても嘘に思えないよ」
遙に問われて、現実を思い出したのだろう。再びそれぞれの目が涙で潤む。代表して声を上げたのは、純一だった。
「全部が全部、無くなったんだぞ!・・・・・・友人も、家族も、故郷すら全部!!」
 握り拳を作って人差し指をつきつけながら。
「何故なのかはわからないけど、大事なものが“無くなった”のが判る」
 同意するように頷く裕樹は、他の三人へと視線を向けると、咲夜をはじめ、鏡子と姫子も同意するように頷いた。
 遙は深いため息を吐くと、そんな五人の傍らで、それぞれ寄り添いながら真剣な表情で遙の抱えている小さな苗木を凝視する、幼子たちに視線を向ける。五人は気づいていないようだった。ただ傍らの存在を懸命に守っているのだけは判る。けれども、幼くて弱々しいその存在は、時折点滅するように姿が掠れることがある。時間が無い事だけは判った。
遙は唾を一度意識して飲み込むと、最初に咲夜の側に居る掠れかかった幼児に視線を合わせた。
(“名付け”ることで存在を固定する事が先)
「・・・・・・サクくんの半身だから、“桜夜”!」
 幼児は驚いた表情を浮かべながら、顕現する。咲夜は突然自分の傍らに現れた年の頃四つほどの浴衣を着た幼児に驚いて変な声がこぼれた。
「へあっ?!」
 次に近い位置に居る純一の傍らの幼児へと視線を合わせる。
「京極くんの名前を一字貰って、“華一”」
 自分たちが顕現することを理解したのか、こぼれるような笑みを浮かべて、純一の側に現れた。純一は親しげな笑みを向けるその華一と名付けられた幼児を惚けたように見下ろす。
 三番目はと、遙はその後ろに居た、裕樹の傍らの幼児へと視線を合わせた。
「日比野くんの一字を貰って、“和樹”」
 照れくさそうにはにかんだその幼児はそっと裕樹を見上げる。裕樹は困惑した様子で、その幼児の笑みを受け止める。
 遙は次に姫子の傍らに居る幼女へと視線を合わせた。
「松岡さんから一字貰って、“姫果”」
 ふわりと、花弁が待って現れた幼女は、頬を朱に染めて笑う。最後に鏡子の隣に佇む、幼女へ視線を合わせた。
「芦屋さんの名前から一字貰って“鏡花”」
 遙は視線を戸惑う様な、困惑した様子を見せる五人に、説明をすることにする。
「この子たちはね、あなたたちを守ってきたのよ、わたしが名付けてしまったけど、あなたたちに見えるようにするには、名付けが一番だったからね。サクちゃんが、京極さんや芦屋さん、日比野さんに松岡さんがこの子たちと出会って、この子たちが世界を支える本体とも言えた世界樹から生命力を分けて貰ったから、あなたたちは体調が落ち着いたとでも言えるんだ。つまり、恩人!」
「・・・・・・恩人」
「そう。あなた達と、その子たちが出会った。・・・・・・覚えない?小さな苗木。それと出会って、普通の生活が出来るようになったはず」
 遙の指摘に、それぞれが過去の記憶を浚い、その後、確認するように問いかける。最初は純一だった。
「・・・・・・従兄弟の孝治兄さんが、アウトレットで買ってきた、山桜?」
 恐る恐るのその問いに、華一と名付けられたその幼子は、嬉しそうに笑うと、何度も頷いて、純一の手を握る。その横で、心持ち背を屈めて裕樹は和樹と名付けられた幼子に問いかける。
「・・・・・・姉さんが仕事帰りにスーパーで買ってきた、黒松?」
 和樹は満面の笑みを浮かべてゆっくりと頷いた。その様子を見ていた、姫子と鏡子は、それぞれの傍らに居て、一途に見上げてくる幼女を見下ろす。自分たち五人に、原因不明の虚弱体質がナイト・シーカーのファンである事以外にもあった事に驚く。それぞれが、それぞれ、傍らの幼女の前で屈むと、脳裏に浮かんだ苗木へと問いかける。
「・・・・・・ディスカウントショップの植木コーナーで売られていた、紅梅?」
 鏡子が問いかけると、満面の笑みで抱きついてきた。それを受け止める鏡子をちらりと伺って、姫子はじっと無垢な瞳をした幼女を見る。
「三月にお兄ちゃんが買ってきた、花桃?」
 姫果と名付けられた幼女は、姫子の手を取って、肯定するようにぎゅっと握りしめた。咲夜は一番最後だった。一心に見上げて見つめてくる幼児に、ぽつりと問いかける。
「トモ姉が、買ってきた、桜? あの、綺麗な臼黄緑色の花弁の?」
 桜夜と名付けられた幼児は満面の笑みを浮かべて頷く。
彼らは物言いたげな様子ながらも、それぞれの選んだ半身の側に寄り添いやっと意識して存在を認めてくれたことに、満足そうにしていたが、咲夜を含めた五人は、言葉を交わせない事が不満で、自然と遙へと視線を向ける。なにがいいたいのか判っていたから、思わず吹き出すが、遙は視線を五人から樹木の精霊であり、五人の守護者である幼児たちへと向けて、片腕に抱えていた、まだ若い苗木を心持ち前につきだした。幼児たちは驚いた様子で、それぞれの側から離れると、苗木の側に寄ってくる。遙が頷くと、一度だけそれぞれが守護していた者たちへと振り返り、じっくりと見つめた後、苗木へ手を翳した。
「・・・・・・あっ」
「えっ?!」
「どういうこと?!」
「どうして・・・・・・」
「ハル姉?」
 仄かに花の香りを残して掻き消える。その代わりに、遙の足下に、五つの植木鉢が残された。
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