黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

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第一章

黒の麗人【テオ視点】

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「あ…兄上!無茶です!!」

思わず血の気が引き、兄に思い止まる様に進言するが、兄の決意は覆らなかった。

外套を脱ぎ去って自分に手渡し、下がっているように命じる。兄の礼服姿を見た周囲からは称賛混じりの溜息がこぼれるが、正直俺はそれどころではない。

「おのれ!我らと我が主君を侮辱してくれた報い、その身に受けさせてくれる!参る!」

再度挑発され、激高した生徒会長を務める伯爵家の息子が兄へと襲い掛かった。

どうやら速度強化の魔法を使ったようだが、兄にアッサリかわされ、逆にその速度を利用した一撃を喰らって撃沈する。

怯んだ親衛隊は、今度は兄の忠告通り、複数人で襲い掛かってきた。

魔法と剣術の連携での攻撃に怯むことなく、兄はまず剣で切りかかってきた相手の得物を折ると、風魔法を詠唱し空中に躍り出る。そして敵の位置を確認し、地上に降りるや、光の速さで親衛隊達を叩き潰したのだった。

距離を取り、決闘の様子を見守っていた周囲の見学者達から、その鮮やかな戦いぶりへの称賛の声が次々と上がる。
声もなく兄の戦いに魅入っていた俺も、俺を押さえつけていたエイトールらも、安堵と感嘆の溜息をつく。

「おい、テオ!ユキヤの奴、魔力操作できんじゃん!きっとウェズレイ公爵がしっかり教えて下さったんだな!」

「ああ…。そうだな」

エイトールの言葉に頷き、心の中で父に感謝する。…が、疑問も残った。

母のセオドアと兄の実母であるベハティ様が直に教えても習得出来なかった魔力操作を、いくら父とは言え、はたして一週間という短い期間で教える事が出来るのだろうか。

そうこうしている間にも、兄が自身の冷たい美貌を残る親衛隊の連中に向け、次は誰かと問いかける。

対する親衛隊の方はと言えば、ほぼ全員が戦意喪失してしまっているようだ。それはそうだろう。あの戦いっぷりを見せられて、自分が勝てるなんて思える身の程知らずはいない筈だ。

先程までの優越感に満ちた表情はどこへやら。顔色悪く、尻ごみをしている者までいる。

自分の取り巻き達の不甲斐なさに、ローレンス王子が激高する。
気持ちは分かるが、仮にも自分の為に戦った相手をザコ呼ばわりは酷いと思う。

そうしてローレンス王子が詠唱を唱え、自分の従魔を召喚した。

白銀の鬣を持つ巨大な狼に、黒い岩の様な恐ろしい熊が出現した。名前から推測するに、氷属性と土属性の魔獣だろう。

それらの攻撃を、兄は防御結界を展開して退ける。そして火魔法である紅蓮の矢クリムゾンアローで、狼の眉間を貫いて破砕した。

次のロックベアーだが、兄は土魔法は殆ど使えない為、その特性をろくに勉強していなかったと記憶していた。だから土属性のあの魔獣をどうやって倒すのだろうかと心配していたのだが、火魔法と氷魔法のセットで、見事撃墜した。

土は火に強い。だから炎魔法は通じないと思っていたが…。まさか急激な放射冷却を利用し、倒してしまうとは…。

『黒の麗人』の名に恥じぬ美しさと強さに、周囲から先程よりも大きな歓声と溜息が上がった。その中には「あの冷たい顔を歪ませ、屈服させたい……!」という、どうしようもないものもあったが。

次に王子が召喚したのは、死霊騎士デスナイトだった。

流石に肩で息をしていた兄が、嫌そうに顔を歪めている。何故なら死霊騎士デスナイトは力こそは魔獣より劣るものの、倒してもすぐに復活する不死性が最大の武器だからだ。

案の定、兄が倒した死霊騎士デスナイトは一瞬で復活してしまう。

こうして倒しても倒しても復活する相手と戦うことにより疲弊し、遂には命を落としてしまうのが死霊系の恐ろしい所だ。
それゆえ、死霊系魔物を討伐する際には、聖属性を持つ者の同行が欠かせない。

だが、聖魔法の属性を持つ者は大抵が聖職者である。そして兄に聖魔法属性があるとは聞いた事が無い。

「ちくしょー!!ベル!そもそもお前が従魔の役目を果たさねーから!!」

何やら喚きながら、兄が五体の死霊騎士デスナイト達を次々と破壊していく。

だが、壊された死霊騎士デスナイト達は次々と復活していく。一体兄は何をしているのだろう。あれでは無駄に体力を削るだけなのに。

『生命の輝きを宿し宝珠。その清浄な光もて、冥府に蠢く邪悪を浄化したまえ“光の加護シャイングレイス”』

兄が何かを天にかざし、叫んだ次の瞬間、まばゆい光が死霊騎士デスナイト達を包み込み、消滅させた。

「あれは…聖魔法!?」

「きっとそうだ!死霊騎士デスナイトが浄化されたのだから!」

誰かが興奮気味に叫んだ。

そう、死霊系を浄化させるなんて、聖魔法以外有り得ない。ローレンス王子も呆然としている。それはそうだ。まさか顔だけと侮っていた相手が自分の信奉者達のみならず、従魔すらをも次々と倒し、聖魔法すら使える実力者だったのだから。

ああ…。俺の兄は、なんて凄い人なんだろう。

何やら一人で何かと話している様子の兄を、誇らしさと憧れを持って見つめる。

だがそんな中、兄の制止する声とローレンス王子の悲鳴にも似た詠唱が響き渡った。

「ダメだ!それを使うな、ローレンス王子!」

何故か兄が王子に向かい、顔面蒼白になって叫ぶ。

『我が名と魂において命ずる。何でもいい!僕に勝利をもたらす者よ、この場に顕現しろ!』

見れば、五芒星のペンタクルが空間に出現していた。しかもローレンス王子の詠唱を皮切りに、ペンタクルが金色の粒子へと姿を変える。

そして浮かび上がっては消える、様々な模様の魔法陣。その中でひと際大きな魔法陣が光を放ち、そこから『何か』が現れたのだった。
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