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第二章
出発
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――え!?あれ?俺がこの人の代わりに依頼を請けるっての、決まっちゃったの?
仮面を被ったままの俺に、ウォレンは「はい、これ着て。あとこれ持って!」と、自分の服とお揃いのローブと、魔導士が持つような杖を手渡してきた。
ワタワタとローブを着込み、言われた通りに杖を持ってから、ふと疑問が湧く。
「あの…この杖って、どう使うんですか?」
「ん?あーそれ?ただのポーズ。そういうの持ってると、何かソレっぽくていいじゃない?」
ソレっぽくていいじゃない…って、何だそれ?!あれか?威厳的格好つけって事?ソレともTPOってヤツ?!
「一応説明しておく。君がこれから向かうのはカルカンヌ王国。依頼は、誘拐された神獣の奪還。君の目で、君の頭で最善かつ速やかに解決を図りたまえ。では、健闘を祈る…っと、これ忘れちゃいけないね!」
そう言うと、ウォレンはユキヤの腕に絡まっているベルに人差し指を向ける。するとベルの首元に細い金色の輪が出現した。
…あれ?これって、どこかで見た事があるような…?
『――ッ!貴様…!』
「さあ、これで君は変化の術を解く事も魔力を使う事も出来なくなった。これはユキヤの資質を見る為の試験だからね。君の手助けは邪魔なんだよ。大丈夫、いよいよもって危なくなったら、ちゃんと解けるから。だから君は普通の蛇していてね」
まるで屈託なく笑うウォレンを見て思い出した。これはランスロット王子が使った、魅了による『力』だ。
確か彼はあの時『魅了のスキルは、ただ持っているだけでは宝の持ち腐れ。磨けばこうして相手を縛ったり封じ込めたりする事も可能なんだよ』って言っていた。
そうか…。こういう風に相手の力を封じ込めたり出来るのか。
「さあ、門を開くから仮面を着けて。…それじゃあ、行ってらっしゃい!」
そう言うなり、俺の立っている床に魔法陣が広がり、視界が白く染まっていく。
…って、早ッ!慌てて仮面を装着し直したわずか数秒の内に、音も遮断されてしまった。
せめてもうちょっと、これから行く国とか依頼内容の詳しい説明してくれよ!急過ぎて母さんに挨拶とかも出来なかったし!
そんな愚痴を心の中で吐き出している間にも、周囲は白一色に染まっていった。
「…さて、行ったねぇ」
「ウォレン。貴様、何を考えている?!説明も碌にしないで、いきなりお前の代わりに依頼をこなせって!無謀にも程があるだろう!」
「うんそうだね。でも、君は反対しなかったろう?」
「それは…」
ベハティは口をつぐみ、心の中で『反対出来る訳ないだろう!』と叫んだ。尤も、モノクル越しの金眼には苦渋を煮詰めた己の顔が写っていたが。
この数千年の間、この男が弟子を取った回数など、本当に数える程しかなく、その中で最後までウォレンに耐えられた者などたった一人だけ。皆、この男の破天荒っぷりは元より、スパルタぶりに堪えられずに去って行くのだ。
そりゃあ「君、才能無いから諦めたら?」と、邪気の無い笑顔で言わてしまえば、誰だって心が折れるだろう。
正直、ウォレンがユキヤを弟子にしてくれるかどうかの確率は、五分五分といったところだった。いや、むしろ五分もあれば良い方だと思っていた。
ウォレンに対する最初で最大の関門。それは「彼の興味を引く」という事。
これに関してはユキヤ自身も界渡りの異世界人という事で、ウォレン程ではないが相当変わっている事から難なくクリアした。
しかも、初見で容姿に難癖つけて無知を邪気なくディスったが、滅多に他者を褒めない彼の口から『素質がある』という言葉を引き出せたのだ。これはかなりの偉業だと言える。
あと一歩で弟子にしてくれるかもしれないのに、異を唱える事など出来ようはずがない。この男、絶対それを分かってる。本当に質が悪い。
だが今まで、ウォレンは才能があって興味を持った相手をとりあえず弟子に取る事はあっても、わざわざ試験を行った事は無い。それなのに何故…?
「ベハティ。僕はね、無能が嫌いだけど、『馬鹿』はもっと嫌いだ。もし彼を弟子に取るとしたら、彼がどういう人物なのかをちゃんと見極めたいんだ。…多分彼は、僕の最後の弟子になると思うから」
ほんの一瞬だけ。いつもの飄々とした様子を引っ込め、静かな表情を浮かべたウォレンに、ベハティは息を飲んだ。そんな彼女に、ウォレンはいつもの掴み所のない笑顔を向ける。
「…なんてね。ひょっとして僕の寿命の事でも考えた?でも大丈夫、これでも僕は人間と上級精霊との混血だからね。混ざりもの故に、魂の寿命は無限に等しい。…君を置いては逝かないよ」
「…そんな事、心配しておらんわ」
プイッと顔を背けるその仕草は、いつもの凛とした彼女にしては妙に幼いものだった。ウォレンはそんな彼女を優し気に見つめながら、ポツリと呟いた。
「さあ、頑張ってくれよ弟子未満。無事に僕の老後の楽しみになれるようにね」
仮面を被ったままの俺に、ウォレンは「はい、これ着て。あとこれ持って!」と、自分の服とお揃いのローブと、魔導士が持つような杖を手渡してきた。
ワタワタとローブを着込み、言われた通りに杖を持ってから、ふと疑問が湧く。
「あの…この杖って、どう使うんですか?」
「ん?あーそれ?ただのポーズ。そういうの持ってると、何かソレっぽくていいじゃない?」
ソレっぽくていいじゃない…って、何だそれ?!あれか?威厳的格好つけって事?ソレともTPOってヤツ?!
「一応説明しておく。君がこれから向かうのはカルカンヌ王国。依頼は、誘拐された神獣の奪還。君の目で、君の頭で最善かつ速やかに解決を図りたまえ。では、健闘を祈る…っと、これ忘れちゃいけないね!」
そう言うと、ウォレンはユキヤの腕に絡まっているベルに人差し指を向ける。するとベルの首元に細い金色の輪が出現した。
…あれ?これって、どこかで見た事があるような…?
『――ッ!貴様…!』
「さあ、これで君は変化の術を解く事も魔力を使う事も出来なくなった。これはユキヤの資質を見る為の試験だからね。君の手助けは邪魔なんだよ。大丈夫、いよいよもって危なくなったら、ちゃんと解けるから。だから君は普通の蛇していてね」
まるで屈託なく笑うウォレンを見て思い出した。これはランスロット王子が使った、魅了による『力』だ。
確か彼はあの時『魅了のスキルは、ただ持っているだけでは宝の持ち腐れ。磨けばこうして相手を縛ったり封じ込めたりする事も可能なんだよ』って言っていた。
そうか…。こういう風に相手の力を封じ込めたり出来るのか。
「さあ、門を開くから仮面を着けて。…それじゃあ、行ってらっしゃい!」
そう言うなり、俺の立っている床に魔法陣が広がり、視界が白く染まっていく。
…って、早ッ!慌てて仮面を装着し直したわずか数秒の内に、音も遮断されてしまった。
せめてもうちょっと、これから行く国とか依頼内容の詳しい説明してくれよ!急過ぎて母さんに挨拶とかも出来なかったし!
そんな愚痴を心の中で吐き出している間にも、周囲は白一色に染まっていった。
「…さて、行ったねぇ」
「ウォレン。貴様、何を考えている?!説明も碌にしないで、いきなりお前の代わりに依頼をこなせって!無謀にも程があるだろう!」
「うんそうだね。でも、君は反対しなかったろう?」
「それは…」
ベハティは口をつぐみ、心の中で『反対出来る訳ないだろう!』と叫んだ。尤も、モノクル越しの金眼には苦渋を煮詰めた己の顔が写っていたが。
この数千年の間、この男が弟子を取った回数など、本当に数える程しかなく、その中で最後までウォレンに耐えられた者などたった一人だけ。皆、この男の破天荒っぷりは元より、スパルタぶりに堪えられずに去って行くのだ。
そりゃあ「君、才能無いから諦めたら?」と、邪気の無い笑顔で言わてしまえば、誰だって心が折れるだろう。
正直、ウォレンがユキヤを弟子にしてくれるかどうかの確率は、五分五分といったところだった。いや、むしろ五分もあれば良い方だと思っていた。
ウォレンに対する最初で最大の関門。それは「彼の興味を引く」という事。
これに関してはユキヤ自身も界渡りの異世界人という事で、ウォレン程ではないが相当変わっている事から難なくクリアした。
しかも、初見で容姿に難癖つけて無知を邪気なくディスったが、滅多に他者を褒めない彼の口から『素質がある』という言葉を引き出せたのだ。これはかなりの偉業だと言える。
あと一歩で弟子にしてくれるかもしれないのに、異を唱える事など出来ようはずがない。この男、絶対それを分かってる。本当に質が悪い。
だが今まで、ウォレンは才能があって興味を持った相手をとりあえず弟子に取る事はあっても、わざわざ試験を行った事は無い。それなのに何故…?
「ベハティ。僕はね、無能が嫌いだけど、『馬鹿』はもっと嫌いだ。もし彼を弟子に取るとしたら、彼がどういう人物なのかをちゃんと見極めたいんだ。…多分彼は、僕の最後の弟子になると思うから」
ほんの一瞬だけ。いつもの飄々とした様子を引っ込め、静かな表情を浮かべたウォレンに、ベハティは息を飲んだ。そんな彼女に、ウォレンはいつもの掴み所のない笑顔を向ける。
「…なんてね。ひょっとして僕の寿命の事でも考えた?でも大丈夫、これでも僕は人間と上級精霊との混血だからね。混ざりもの故に、魂の寿命は無限に等しい。…君を置いては逝かないよ」
「…そんな事、心配しておらんわ」
プイッと顔を背けるその仕草は、いつもの凛とした彼女にしては妙に幼いものだった。ウォレンはそんな彼女を優し気に見つめながら、ポツリと呟いた。
「さあ、頑張ってくれよ弟子未満。無事に僕の老後の楽しみになれるようにね」
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