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第四章
ジョブチェンジもあり?
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「それは一体…」
「申し訳ありません。ここでは少々…」
そう言って、ザビアは周囲を伺う。成程、訳アリか。考えれば、堂々としてるべき役職の者が気配殺して人気のない場所で話しかけてきたんだもんな。
「黒の魅了師殿。どうか私と共に来て頂きたい」
――…う~ん。会ったばかりの全く人となりが分からない他人にホイホイついて行っていいものだろうか…。いや、良くないだろ普通は。
こういう時って大抵、罠だったりするんだよ。それで主人公が絶体絶命のピンチに陥る。少なくとも前世の映画やドラマなんかでこの流れって、まさにそういう王道ルートだった。
でも、俺だけじゃ姫様達の居場所、全く分からないしな。ここは一か八か、ついて行くべきだろうか。いざとなればベルやシルフィもいるしな…。あ、ベルは今のところただの蛇に成り下がってるから、期待は出来ないか。
そんな事をツラッと考えたら、何かを悟ったか、俺の首に巻きついていたベルの身体がキュッと締まった。「うぐっ」って思わず変な声が出てしまう。息詰まったぞ!おい、お前俺を殺す気か!
「会ったばかりの私の言う事を、疑わしいと感じられている事は重々承知しております。ですが事は一刻を争います。聖獣様と姫様のお命に関わる重要事態なのです。ですので、どうか…!」
うん、正直疑ってはいます。疑ってはいるんだけど…。なんだろう。やっぱり敵意や悪意は感じ無いんだよね。
いや、緊迫感は半端ないけど。でもそれだって、先程の王様達も滅茶苦茶緊張していたっぽかったし。やはり『黒の魅了師』は、それだけ畏れられている存在なんだろう。
そりゃあ、魔物でも人間でも魅了して従わせられる力を持っているってんだから、普通に考えたら恐ろしいよな。昔、討伐対象になったのも頷けるよ。
…今更だけど俺、そんな職業目指して本当に大丈夫なんだろうか…。
「分かりました」
俺の了解を得、ようやくザビア将軍からホッとしたような空気を感じた。思わずといった様に、額の汗を拭う彼を見て、ふと違和感を覚える。
元々浅黒い肌をしているのでよく分からなかったが、明らかに先程よりも顔色が悪い。そんなに緊張しなくてもいいのに。黒の魅了師って言ったって、どうせ偽物なんだし(とは言えないけど)…ってあれ?何か呼吸もちょっと荒い気がする。ひょっとして、本当に体調が思わしくないのかな。
「あの…。お身体、大丈夫ですか?」
俺の言葉に、ザビア将軍はハッとしたような顔をした。
「…なんの…事でしょうか?」
一気に硬質になってしまった顔と態度に、俺は慌てて謝罪を口にした。
「済みません、不躾な事を申し上げて!少し気になってしまいまして。…あの、私は治癒魔法も扱えますので、もしどこか具合が悪いのであれば、お役に立てる事もあるかと思います」
そう。実は俺、父のセオドアに習って治癒魔法が使えるのだ。
自慢じゃないが、父は治癒魔法の達人だったので、魔力コントロールが苦手だった俺もなんとか治癒魔法だけは安定して使いこなす事が出来るのだ。
あれ?まてよ?もしこの試験が失敗して魅了師の弟子になれなかったら、最終的に治療師になるという道もあるな。これぞ芸は身を助くってやつか。息子の人生の選択肢を増やしてくれて有難う、父よ。
『…魅了師になれなかったら治療師になればいい、とか考えてんだろうがな。そしたら母国にどう凱旋する気だ?』
ーーちょ、ちょっと考えただけだし!俺の仮面越しの表情見えてないくせに、考えてる事読むなよベル!
余談だが10歳になる前、なんでそんなに治癒魔法が得意なのかと聞いた事があるのだが、途端遠い目をしながら「必然だった」と呟いたっきり、会話はそこで終わった。今なら理解してるけど、あの時の自分は父の地雷を見事踏んづけてしまったようだ。
「…有難う御座います。ですが、本当に大丈夫ですので、お気遣いなく」
そう言うと、ザビア将軍は複雑そうな表情を浮かべながら俺を見つめた後、何かを恥じ入るように顔を背けたのだった。
「申し訳ありません。ここでは少々…」
そう言って、ザビアは周囲を伺う。成程、訳アリか。考えれば、堂々としてるべき役職の者が気配殺して人気のない場所で話しかけてきたんだもんな。
「黒の魅了師殿。どうか私と共に来て頂きたい」
――…う~ん。会ったばかりの全く人となりが分からない他人にホイホイついて行っていいものだろうか…。いや、良くないだろ普通は。
こういう時って大抵、罠だったりするんだよ。それで主人公が絶体絶命のピンチに陥る。少なくとも前世の映画やドラマなんかでこの流れって、まさにそういう王道ルートだった。
でも、俺だけじゃ姫様達の居場所、全く分からないしな。ここは一か八か、ついて行くべきだろうか。いざとなればベルやシルフィもいるしな…。あ、ベルは今のところただの蛇に成り下がってるから、期待は出来ないか。
そんな事をツラッと考えたら、何かを悟ったか、俺の首に巻きついていたベルの身体がキュッと締まった。「うぐっ」って思わず変な声が出てしまう。息詰まったぞ!おい、お前俺を殺す気か!
「会ったばかりの私の言う事を、疑わしいと感じられている事は重々承知しております。ですが事は一刻を争います。聖獣様と姫様のお命に関わる重要事態なのです。ですので、どうか…!」
うん、正直疑ってはいます。疑ってはいるんだけど…。なんだろう。やっぱり敵意や悪意は感じ無いんだよね。
いや、緊迫感は半端ないけど。でもそれだって、先程の王様達も滅茶苦茶緊張していたっぽかったし。やはり『黒の魅了師』は、それだけ畏れられている存在なんだろう。
そりゃあ、魔物でも人間でも魅了して従わせられる力を持っているってんだから、普通に考えたら恐ろしいよな。昔、討伐対象になったのも頷けるよ。
…今更だけど俺、そんな職業目指して本当に大丈夫なんだろうか…。
「分かりました」
俺の了解を得、ようやくザビア将軍からホッとしたような空気を感じた。思わずといった様に、額の汗を拭う彼を見て、ふと違和感を覚える。
元々浅黒い肌をしているのでよく分からなかったが、明らかに先程よりも顔色が悪い。そんなに緊張しなくてもいいのに。黒の魅了師って言ったって、どうせ偽物なんだし(とは言えないけど)…ってあれ?何か呼吸もちょっと荒い気がする。ひょっとして、本当に体調が思わしくないのかな。
「あの…。お身体、大丈夫ですか?」
俺の言葉に、ザビア将軍はハッとしたような顔をした。
「…なんの…事でしょうか?」
一気に硬質になってしまった顔と態度に、俺は慌てて謝罪を口にした。
「済みません、不躾な事を申し上げて!少し気になってしまいまして。…あの、私は治癒魔法も扱えますので、もしどこか具合が悪いのであれば、お役に立てる事もあるかと思います」
そう。実は俺、父のセオドアに習って治癒魔法が使えるのだ。
自慢じゃないが、父は治癒魔法の達人だったので、魔力コントロールが苦手だった俺もなんとか治癒魔法だけは安定して使いこなす事が出来るのだ。
あれ?まてよ?もしこの試験が失敗して魅了師の弟子になれなかったら、最終的に治療師になるという道もあるな。これぞ芸は身を助くってやつか。息子の人生の選択肢を増やしてくれて有難う、父よ。
『…魅了師になれなかったら治療師になればいい、とか考えてんだろうがな。そしたら母国にどう凱旋する気だ?』
ーーちょ、ちょっと考えただけだし!俺の仮面越しの表情見えてないくせに、考えてる事読むなよベル!
余談だが10歳になる前、なんでそんなに治癒魔法が得意なのかと聞いた事があるのだが、途端遠い目をしながら「必然だった」と呟いたっきり、会話はそこで終わった。今なら理解してるけど、あの時の自分は父の地雷を見事踏んづけてしまったようだ。
「…有難う御座います。ですが、本当に大丈夫ですので、お気遣いなく」
そう言うと、ザビア将軍は複雑そうな表情を浮かべながら俺を見つめた後、何かを恥じ入るように顔を背けたのだった。
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