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第五章

俺は、どうしたい?

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『俺は…こいつサラマンダーをどうしたい…?』

使役しなきゃ、でもどうやればいいかと「頭」で必死に考えていたけれど、ベルに言われた事によって俺の中で変化が起きる。

心から願い、自分がどうしたいか。そう模索しながら火竜サラマンダーをじっと見つめていたら、じわりと「何か」が染み込み伝わってきたのだ。

『苦しい…不快…苛つき…?これ、ボス火竜サラマンダーの感情…なのかな?』

俺から受ける圧に対するもの、とかじゃなさそうだ。強いて言えば、縛られていて窮屈だとか、そういう不快感っぽい。

ベルの言った通り、この火竜サラマンダーを呪術者は魅了し切れず、呪いを被せて強制的に使役させられたのか。そしてそれをコイツは根底で嫌がっている…?

「お前…苦しいのか?」

俺は無意識に、足を一歩踏み出していた。すると、ボス火竜サラマンダーが一際大きく唸り声を上げ、剥き出していた牙をガチンと鳴らす。

「?!黒の魅了師どの….っ!!」

焦りを含むザビア将軍の叫び声が微かに聞こえてきたが、構わずまた一歩、一歩と火竜サラマンダーに近づいていく。

そんな俺に、火竜サラマンダー…いや火竜サラマンダー達が一斉に唸り牙を鳴らし出した。
大きな火竜サラマンダーの群れに近づく人間など、側から見ればなんとも恐ろしい光景だろう。

けれど攻撃されるかも、と言う考えは俺の頭から抜け落ちていた。ただ目と鼻の先にいる火竜こいつを見つめながら、こう願ったのだ。

『開放してやりたい』と。

その、時だった。

パキィ……ン!と。砕けるような甲高い音が響いたのは脳裏なのか、それとも鼓膜なのか。

「うわっ!」

次いでボス火竜サラマンダーが苦しむように目を瞑り、空に向かって咆哮をあげた。
と同時に、黒い霧のような『モノ』がブワッと鱗から噴き上がり、四散したように見えた。

「え….っと。これ…」

『どうやら成功したようだな、ユキヤ』

「へ?成功?」

満足そうなベルの声に、俺は仮面の内でぱちくりと目を瞬かせる。

目の前の火竜サラマンダーは、鬱陶しいものを振り払うかのように頭をブルブルと振った後、再び俺と見つめ合った。

「! あ、目の色…!」

さっきまで真っ黒だった白目?の部分が赤くなってる!『呪い』の嫌な感じとかも全然しないし、火竜こいつからも不快だっていう感情が届かない。

「…もう、苦しくないか?」

言葉が通じるかわからないまま問いかけてみた俺に、火竜サラマンダーは顔をグッと近づける。パカっと開けた口から覗く鋭利な牙に、一瞬「噛まれる?」と怯んだ俺だったが。

「わぷっ…!」

べろっと先端の割れた舌が、俺の顔(正確には仮面)を舐め上げたのだ。

突如の事で思わずよろめいてしまったけど、咄嗟に杖を砂に突き立て引っくり返る無様は免れた。

俺をひと舐めした火竜サラマンダーは縦割れの目を細め、グルグルと喉奥を鳴らす。さっきの音とは明らかに違う、えっと…猫?のそれを爆音にしたらこんな感じかも。

ほけっとしてたら、鼻面を軽く擦り付けてきたので条件反射で撫でてやったら、喉のゴロゴロは益々大きくなった。うん、見た目はゴツいが可愛いか…な?

『ユキヤ、コイツに命令してみろ。そうだな、這いつくばれとでもな』

ベルの愉快そうな声に従い、「伏せ」と言ってみたら素直に腹這いになった!

唸るのを止め成り行きを見ていた群れも、ボス火竜サラマンダーに続き一斉に伏せの状態になる。その光景は圧巻で、思わず「おお…!」と感嘆の声が漏れた。

「あれ?でも俺、使役したいとか願ってなかったけど…魅了出来たってこと?」

って言ったら『今更何言ってやがる、バカかお前は』と、心底呆れた声がベルから返ってきた。あ、そう言えば火竜サラマンダーって人馴れは絶対しないんだったっけ。うん、なら火竜サラマンダー達は安全だなと安堵の息を吐き出す。

『さぁて、ここから先は俺が引き継いでやる。きちんと動けよユキヤ』

かなり上機嫌なベルに指示されるまま、俺は「黒の魅了師俺様バージョン」となるべく後方のラシャド達へ向き直った。
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