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第六章

我慢の限界

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『……ほぉ……!』

露わになった俺の姿に、黒い手にある『一つ目』が感嘆の声を上げて大きく見開かれる。

改めて見ると、中々にグロいフォルムだよな。『三つ頭』の目の色は、紫がかった深い朱なのか。完全体だったら、きっとベル同様に人外級の美貌なんだろうけど……。

『これは、なんと美しい……!!姿形も素晴らしいが、魂は桁違いな輝きだねぇ。永劫の中、これ程のモノに巡り会ったのはソロモンだけだよ……!』

覚悟はしていたが、舐め回されて視姦されてる感が凄い。まさにガン見だ。
息が詰まって全身鳥肌が否応なく立ってしまった。

『ふぅむ……。伯爵位…いや、公爵位の悪魔でも足元にも及ばない美貌……まだ未成熟な芳しき肢体は、堪らなく食指を動かされるよ……』

想像できるだろうか。ぶつぶつと呟く巨大な一つ目によって、ねっとりじっくり吟味される気持ちが。まごう事なく性的虐待セクハラ人外バージョンだよ!!

ああ…。ベルから噴き出る怒気で背中がめっちゃ熱い。『堪えて!抑えて!』と念話しつつ、俺はできるだけ感情を落ち着かせ、目の前の卑猥な視線と膨大な圧迫感をやり過ごす事に専念する。

『一点に集中し過ぎないで、視線をずらして……ん?』

ふと目に留まったのは、絶賛俺をガン見中の黒い手と繋がってる鴉のヒナ…もといラウルだった。

ピクリとも動いてない、俺の手の平よりも小さい黒ぽぁが手羽投げ出して倒れてる姿って、ちょっとかわいそ……いやいや!余計なこと考えるな、『無』になれ自分!と気を引き締める。

『あぁ……!最初君を目にした時も劣情を煽られたが、まさかここまでとは……!『無価値』、つくづくお前に召喚を邪魔されたのが恨めしいよ……』

ううう……!『目』だけなのに、舌なめずりが聞こえそうな声音に怖気が走る。流石はラウルの主、ヤツの上を遥かにいく淫猥さだよ!もうこの時点で俺のライフはゼロを通り越してマイナスだ。…というより、気力体力既に尽きかけていたりするんだけどね。

あの時、姿を見せると同意したのを、今少しだけ後悔している自分がいる。……もしかしなくても、こうなるからベルは俺を見せたくなかったんだろうか?…多分そうだな。だってこいつとは超絶永い付き合いだろうし。

『ふふ…。これならば納得だ。お前が召喚者を殺さず契約を結んだのも、この子が狂ったのも』

「満足したか?ならさっさと帰れクソ頭!」

ベルの辛辣な突っ込みも何のその。さらっと無視してガン見は継続していく。

あと僅かな時間だから我慢だ……!と己に言い聞かせ耐えていると、更にとんでもない言葉が俺を襲った。

『……で?過去誰にも使役を赦さなかったお前だ。望んだ対価は……察するに魂と純潔かい?その執着ぶりだ、彼の身体は余程美味しかったのだろうねぇ?』

「は…はぁ!?」

投下された直球の卑猥発言。狼狽え思わず赤面してしまった俺を、愉悦を滲ませた赤紫の目がねっとりと見つめてくる。

『ふふふ……初心な反応も可愛らしい。どうやら『無価値』の手管は余程快かったみたいだねぇ。瑞々しい唇を吸えば、さぞかし甘露なのだろう……私も味わいたいものだ』

「……っ!」

ゾワッと総毛立つも、勝手に勘違いしてどんどん話を進めていく『三つ頭』に俺は引き攣るしかない。ベルの怒気もどんどん高まって、まさに一触即発状態だ。

ここで馬鹿正直に「ベルとは仮契約中で、普段は蛇の姿。今までの対価は血と飯とキス数回」……なんて言おうものなら、どんな結果になるのやら。

しかし、どうやら傍若無人は七代君主共通の専売特許らしいな……。ってか、きっと『三つ頭』が空間を停止させてるから、体感時間が狂ってるに違いない…って自分に思い込ませてたけどさ……。

俺を見たんならもう帰って欲しい!現存タイムリミットって、一体何時までなんだよ!?帰る帰る詐欺かよ!!誰か、ここに犯罪者がいると通報して欲しい。通報先は…天界でいいのだろうか?

『ねぇ麗しい人。私とも契約しないかい?そうすれば無限の力と快楽を与えてあげるよ。それこそ『無価値』よりも…ね』

「はい……?」

アホな事を敢えて考えながら、荒ぶりそうになる感情を必死に抑えているというのに、『三つ頭』は魔界に帰るどころか俺を口説き始めた。一瞬気が遠くなった後、イラッと平常心がぐらついてしまう。

「勘弁してくれ!人外で雄に迫られるのはベルで間に合ってるから!」……と、怒鳴りそうになるのを何とか堪えるも、言いたい放題な魔界の一柱は止まる事を知らないらしい。

『召喚したければ、私の『真名』を教えてあげよう。破格の申し出だろう?粗暴かつ雑で、己の欲を率先する『無価値』と違って、私は優しいよ?確実に満足させてあげられるからねぇ……?』

「テメェ…!!イイ加減にしろよ、腐れた目玉を焼かれてぇか……!?」

青筋を幾つも浮かべたベルが大翼を広げ、地の底を這うかのごとくな威嚇を始めた時、セクハラに耐えかねた俺の忍耐力も遂に限界を超えた。

「俺が貴方を召喚する事は絶対ない!勝手に話を進めるなっ!!」

俺は高ぶる感情のまま一つ目……『三つ頭』を睨みつけ、はっきりと拒絶を叩きつけた。

「あ、お前!」と珍しく焦ったベルの声が聞こえたが、構わず苛立ちのまま、お返しとばかりに「とある爆弾」を投下したのだった。

「姿を見せたのだから、約束通りお帰り願います。魔界の王『アスモデウス』!」

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