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第六章

感謝を捧ぐ

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「シェンナ……ザビア。其方らも息災で何よりだ。我の為に苦労をかけたな」

「聖獣様……!」

シェンナ姫は感極まってグリフォンの胸に飛び込み顔を埋め、声もなく泣き出した。

「いいえ、いいえ!!苦労など……!我々は不甲斐なくも、魅了師殿とベル様に護られてばかりでした」

「そうか……」

グリフォンは震える小さな身体を優しく抱きしめ、もう片方の手で目を潤ませるザビア将軍の頭を優しく撫でる。
二人を写す黄金の双眼は、慈愛に満ち溢れていた。

永い時を生きてきた幻獣グリフォン。

カルカンヌの王女によって召喚され番となり、それ以来ずっと護り愛してきた掛け替えのない『家族』に向ける眼差しも、その愛情の深さも、見ているだけで痛いぐらいに伝わってくる。

『良かった。彼らを助けられて……』

思わず目頭が熱くなりながら、胸に広がる安堵にほっとため息をつく。

俺がポンコツなばかりに割りかしヤバい時もあったけど、なんとか万事解決となったみたいだ。

カルカンヌを訪れた時は、まさかこんな事態に巻き込まれるとは思ってなかったけど。それでもって、ベルにめっちゃ借りを作ってしまったのが痛恨だけど。

……そう考えると、俺自身は、失うものが割とあったな。

ふふ……まあ、皆の命と幸せがかかっていたからな。うん、悔いはない。……いや、正直言えばちょっとこの後が恐い。

『まあでも、大円団を迎えられたんだから!巻き込まれた甲斐があったってもんだな、うん』

なんて自分を納得させていた俺だったが、シェンナ姫やザビア将軍と再会の喜びをかわしていたグリフォンが、姫を将軍に託して俺達の方へと向き直る。そしてなんと、片膝を突いて首を垂れたのだった。

「え?え!?」

「『黒の魅了師』、そして魔界の『王』よ。我を呪いから解き放ってくれた事。そして、我が愛し子達への守護……重ねて礼を申す」

「魅了師さま、ベルさま……。本当に、ありがとうございました!」

「お二方に、最大の感謝と敬意をお捧げいたします」

グリフォンに続き、シェンナ姫とザビア将軍も膝をついて頭を垂れる。

戸惑っていると周囲の空気がざあぁ……と揺れ、気づけばオンタリオ国王と王太子、家臣達が一斉に膝をつき、俺達へ礼をとっていた。

「感謝申し上げる、黒き麗人達よ」

「我々の未来を救ってくださった御二方を、未来永劫語り継がせていただきます」

「ちょ、ちょっと!グリフォンも国王さま達も、止めてくださ……」

「そうだな。せいぜい感謝して崇め奉れ」

「ベルっ!!」

なにこの状況!?に慌てふためく俺だったけど、ベルは腕を組み当然とばかりに尊大全開である。

ふざけた事を言いながら、ふんぞり返っているバカ蛇に、『ちょっと黙ってろ!』と睨んだ後、必死に「もう十分誠意は受け取りましたから!」と言って立ち上がらせようとしても、一向に顔を上げようとしない皆さんに困り果ててしまった。

参った。暫くはこのままなのかな……。ってか考えてみれば、俺は黒の魅了師の偽者なのに、うっかり顔出ししちゃったよ。どうしたらいいのかな……。

ちょっと遠い目になりながら、現実逃避に思いを馳せていた俺だったが、ふと何かの気配を感じて足元を見下ろしてみる。

すると……。

『あ!』

なんと、脱ぎ捨てたウォレンさんの仮面が落ちているではないか!

確かさっきまでは無かったような……?と不思議に思いながら拾い上げた途端、ベルのまなじりがつり上がった。

「……そういう事か、あんのクソエルフ……!次に会ったらぶっ殺す!!」

呪詛みたいな唸り声を吐くベルに首を傾げるが、そう言えば仮面からウォレンさんの声が聞こえたんだったと思い出す。

そういえばあの人、俺の事を、盗み見聞きしてたって言ってたな……。

「ああ、成程。だからお前、怒っているんだー」

「……おい、クソユキヤ。多分間違いなく、今お前が思っている事、間違ってやがるからな!?」

「はぁ?」

忌々し気に吐き捨てるベルに、俺は首を傾げた。

その後、てっきりストーカー行為で怒ってると思っていたベルが、実は『縛り』をまた掛け直されていたと気づいて怒っていたと分かるのは、もう少し後になってからだった。
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