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告白
しおりを挟む姉さんを好きになったのは言葉を覚えてすぐのことだった。俺が拙い発音で「リンゴ」と言うだけで、手を叩いて喜んでくれた姉。
赤い髪が日に透けるさまが美しくて、いつもその髪に触れたかった。歳を経るとその欲求はどんどんと増した。
髪だけじゃない。あの蠱惑的なくちびるも、しなやかであたたかい身体も。全部、全部。
姉の結婚が決まって、もう手の届かないところに行くのだとわかって。
俺は我慢できなくなった。
――ソレは、俺のものなのに!
双子の半身はこんなところばかりよく似るようで、アニーは俺を愛していた。アニーはある種、究極のナルシシストだった。鏡合わせのような俺を見ては自己陶酔していた。それにはとっくの昔に気づいていたけど、見て見ぬふりをしていた。俺の方はアニーにはキョウダイ以上の情などなかったから。
こいつは姉さんの妹だということを利用して、俺に粉を掛けるどころか姉さんの婚約者であるダリオにも手を出していた。おおよそ全く振り返ることの無い俺に、悋気させようとかいう恐ろしくくだらない理由で。
愛しい姉さんはそんなことにも気づかずにダリオと結婚する意志を固めていたけど。
そんなこと許せるはずもなく姉さんを手に入れるために、俺は邪魔なふたりを利用することにした。
まずアニーを人気のない場所に呼び出して誘うふりして気絶薬を嗅がせ、そこにアニーが話したいことがあるとかなんとか言ってダリオを呼びふたりを引き合せる。
ダリオが意識のないアニーに気を取られてるうちに適当に気絶させて、ダリオに俺の服を着せた。そんでロープで縛って、重しをつけて川に流す。
オレはそのままダリオのふりして出奔して事故にあったユーラチカを迎えに行った。
ユーラチカが乗る馬車が脱輪事故を起こしたのは偶然なんかじゃない。俺がそうなるようにしていた。せいぜい車体が倒れるくらいで大した怪我はしないはずで、実際外傷は擦り傷くらいのものだった。
ユーラチカの記憶が混濁していたのはラッキーだった。じゃなきゃなりすましなんかが上手くいくわけない。ダリオと俺じゃ瞳の色が違うから。
ただ実家にはユーラチカが死んだと思わせるように獣の血をばらまいて事故現場を偽装した。ダリオの家へ向かう道には時たま野盗が出ることがあったから、ユーラチカもそれに襲われたと思われるように。
ユーラチカの荷物は服以外の金目のものやユーラチカが大切にしていたものだけ屋敷に運ばせてある。まだそのことを教えてはいないけど。姉さんは、きっと喜んでくれるだろう。
事故った馬車にその御者、そして新しい家も無愛想な神父も全部俺が用意したもの。
この家はいつか姉さんを手に入れた時、閉じ込めるためのもので、無愛想な神父は俺の悪事をする時の助手だ。もちろん本物の神父なんかじゃない。俺たちはキョウダイで神がこの結婚を祝福するはずなかった。
今は色ガラスを目に入れて色を変えている。姉さんが不思議そうに目を見つめてきた時はついにバレたのかと思ったけどそうじゃなかったようだ。
でもこんなのはすぐにでもバレるだろう。
現に姉さんは何を思っているのか、俺の名前を呼びながら眠っている。
「早く思い出して、姉さん」
ぼくたちは、全員が罪深い子どもなんだから。
姉さんだけが逃げられるわけないんだよ。
ダリオと結婚するのは俺への恋慕から逃げるための口実だったなんてことは、お見通しなんだから。
愛してるよ、姉さん。
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