幸せの形

野良猫

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第2章 来訪者・桜の話

第4話 来訪者・桜

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暫くの間、桜の泣き声が店内に響いていた。

桜は後悔していたのだ。

自分の行いで、自分の発言で、愛娘を追い詰めていた事に。

聞くに絶えない程、嗚咽しながら泣き崩れる桜を、幸は眺めていた。

その表情からは何も読み取れない、冷たい視線だけを向けていた。

幸は何を考えているのか、まるで見下すような目で桜を見続けた。

暫くして、ようやく落ち着いたのか、桜が再び口を開く。

桜「・・・私は幸せだった頃の記憶を忘れたいです。」

その言葉に対して、幸は感情のない声で聞き返した。

まるで機械かのように冷たい声で。

幸「・・・桜様の幸せの形は、当店で買取を致します。ただし、貴女様の不幸の形だけはお受けできません。」

桜はその話を聞き、驚いた表情をしながら幸を問いつめた。

桜「なぜ?どうして?ここのお店は不幸だった記憶も買ってくれるんでしょう!?どうしてダメなの・・・。」

桜はそう言うと、またうなだれるようにして、頭を下げてしまった。

それに対して幸は冷たい言葉を投げかける。

幸「桜様の不幸の形は、貴女様が亡くなるその日まで、抱え続けていく必要があります。ですので、当店ではお受けできません。」

幸は淡々とした口調で続けた。

幸「この不幸の形は自ら作り上げたものです。当店には価値のないものでございます。ですので、お受けすることができないのです。」

その言葉を聞いて、桜は頭を抱えながら、うなだれていた。

桜「・・・そう・・・ですよね。・・・私があの子を追い詰めたから・・・これは私が背負わないと行けない罪・・・。」

幸「はい。桜様の場合、不幸の形ではなく、罪です。」

幸は相変わらず冷たい視線を向けながら、淡々と話した。

桜「・・・分かりました。では、幸せだった記憶だけを買い取ってください・・・。」

桜は観念したかのように言うと、テーブルに置かれたカップを手に取ると、一気に飲み干した。

幸「それでは目をつぶり、ソファーに横になって楽にしてください。直ぐに終わりますので、ご安心ください。」

桜「はい。」

桜は大人しく言うことを聞き、ソファーに横になり目を瞑った。

先程まで大人しくしていた猫が二本足で立ち上がり、横になった桜の側まで寄る。

幸「さぁ、福。お願いしますね。」

幸がそう言うと、福と呼ばれた猫は、ふぅっと息を桜に吹きかけた。

すると、桜から桜の花びらの形をしたものが出てきて、福はそれを拾うと、瓶の中に詰めて、隣室へと移動した。

幸「桜様、これで完了致しました。」

幸は優しい口調で桜に声をかける。

桜はゆっくりと目を開けると、ソファーから立ち上がり、幸に深くお辞儀をした。

桜「もし・・・、もし、あの子が、雪がここに来たら、優しくしてあげてください。」

幸「勿論、そのつもりでございます。」

桜「ありがとうございました・・・。」

再び桜は深くお辞儀をすると、ドアノブに手をかけ、扉を開いた。

幸「またのご来店をお待ちしております。」

幸はそう言うと、深くお辞儀をした。
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