気付けば、僧!

オダハラ モミジ

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見舞う者の気持ちとは…

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先に続く道は闇ばかり

あたり一面が闇に覆われた地下道だった。
壁も地面も石で作られたこの通路は、永久に感じられるほど長く作られている。

地下にある特性上ここには、ある問題が生じていた。それは、湿気である。
そのせいで、結露し石造りの壁もこの石畳も一年通して濡れていて、
この世の最下層にあるとされるニヴルヘイムを彷彿させる寒さを作り出していた。

ここは、人やそれに通づる者たちを避けるように出来ている。

何故か?
その理由を知る者が今、背後に闇を連れて歩いている。

彼は本当の名前はあれど、それを口にするのは信仰者が多いために嫌い、
沢山の呼び名がついていた。
星の数ほどある中、彼が好んで使う名は【知恵者】

そう
彼=【知恵者】こそは、かの300年以上に続く神々たちの戦を止めた
偉大な神であった。

その神は今、足取り早く暗闇の中歩いている。

湿った床をカツカツと一定の音を立て、時折思い出したかのように
左手に持つ大杖の底を地面に叩きつけながら目的の地を目指していた。

ふと歩みが緩まり、歩幅を大きめに取りながら進むと、
風が足元を抜けてきた。

【知恵者】は一度立ち止まり、大杖を使って壁を撫でると途端に、左側から
新たな道が出現し、闇の中から灯りがまるで誘うようについていた。

新しい通路に着くと、歩幅を戻しまた進む。
また、進むにつれて耳元を掠める風が強くなり、先ほどまでの道の冷たさと
温風が混じり、生暖かい風がこの地下道のとある場所から吹いていた。

偉大なる神が足を止めたかと思うと、目の前に現れた座りこむ男に向かって
𠮟り飛ばした。

「何を…何をしたテュールよ‼」

「そう――怒鳴らで下さい…ハァ」

疲れきったように息を吐くこの者の名は【テュール】同じく神であって
今は、みすぼらしい布切れを羽織り、跪くように拘束されている。

この地下道の正体とはつまり、神を幽閉するための監獄であった。

怒りをその形相にあらわした【知恵者】を前に、顔を上げぬまま話を続けた。

「あなた様が来た理由については、皆目見当つかないのですが、さしずめ神たちの間でまた争いでも始まったのですか?」

「ここまで来た理由がそれではない事を、テュールよお前は分かっているはずだ」

テュール神は地面に向かってフッと笑みをこぼす。
【知恵者】その反応を見逃さなかった。

「その抜けた笑い声、認めたと言って違いないな――
何故この期に及んで巡礼者を作った?この場に繋がれている限り力を蓄えても無意味なのだぞ」

それ以降どのような質問にもテュール神は、動きを見せるようなことはなかった。




太陽が沈み始め、地平線の先から見事な夕焼けが神殿を射す。
大理石の柱を、9本囲むようにあり、
その上に何の装飾も施されてない屋根が置かれいた。

神殿と語るにはいささか貧相だが、今はこの国において一番目立つ場所であろう。
というのもこの場には、名立たる神々が揃い、ある者の帰還を待っていたからだ。

柱たちが同時に揺れ、共鳴するかのように地面も震えだした。
全員の視線が下に降りる。

するとそこには、大きな穴が開いており、なかから杖の先端らしきものが見える。

「主神殿よ、いかがであったか?」
慎重な語り口で神々の一人が聞いてきた。

答えるのは地下道から出てきたばかりの【知恵者】だ。
「テュールがやった事に間違いないだろう。しかし今、この神の行いに対する
裁断はまだするべきではないだろう」

なぜです!、奴は幽閉の身ながらあんな事を!、今すぐ罰せなければ!、
不和が生じ、どよめきが走る。

神々も冷静さを欠くことはある、しかしこの場合彼らの中には恐怖心を
持つ者もいた。それこそがテュール神の強さを示していた。

「罰を受けさせる事には変わりない――
だが現在、新たな巡礼者が生まれた、これは今すぐに取り組むべき問題である」

一同、動揺を隠せないままいると、また口々に不満を漏らした。
【知恵者】は静かになるまで、神々の言葉に耳を傾けた。

「では、会議に移りたいが…立ち尽くしながら話すのも限界があろう。
従ってこの議題は私の宮殿にて続けたいと思う」

「それでは皆の者、馬車の準備を――」



宮殿に向かう途中、テュールの行動について考えていた。
巡礼者を生み出したわけとは、どうしてそれを命をかけてまで秘匿にしようとした?

事実、この神は神託を授けた時からバレないよう、自身の力を抑制し続けていた。
発覚したその時には、何もかもが遅かった。

私だけでは、特定することは困難なために、ほかの神々に伝え協力を仰ぐ時を今日に合わせて、テュールのことを見舞ったのだ。

本来ならば、定期的に様子を見るだけでいいものの、
自ら問い詰める他なかったのは、大変心苦しかった。だが当分の間はこのように接するほかないだろう。



頭の中によぎるは若かりし頃のテュール。軍神として君臨していた時、
その気骨の強さに感銘を受けて、次々と戦が起こる度に、
彼と互いの信仰者を率いて戦場を駆け回った。

だがしかし、魔物たちが出現し始めたころ。私の名をもってしても、償うことができない程の大罪を彼はしてしまう。

それから戦争が終わり、マーケへイス変革の時を経て今日に至るまで、
幽閉されたままだ。

主神としては情けないが、次第に落ちてゆく太陽を見ながらふと思ってしまう。

「テュールよ、この太陽を見なくなって何年になる?お前にまた見せたいものだ。
だがしかし、軍神にとっては辛いものがあるかもしれないな…」

気付けば、思ったことが口から出ていた。
一度、御者のほうを向き、「他言無用」と伝え、頷いたのを確認し。

また大杖を握りしめて、馬車を降り宮殿へと歩っていった。
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