大海原を見て。

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大海原を見て。

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 夏の夜の高原には、涼しい風が縦横無尽に駆け抜けていく。避暑地として選ばれるだけあって、その体感気温はおよそ適温の範囲に収まるものである。

「うへぇ、きれいだなぁー……」

 ブルーシートの上に寝転がっている大志(たいし)のすぐ隣で、満天の星空を緩んだ目でぼんやり見ているのは、美紀(みき)である。大志とは小学校からの長い付き合いで、今となっては生活の位置ピースにまでなっている。

「街の明かりであんまり星って見たことなかったけど、こんなにキラキラしてるんだぁー……」

 学校の授業やテレビ番組で夜の空を見かけたことが無い、ということはあり得ない。それは美紀も同じであろう。

 しかし、画面越しの映像と肉眼で見る実物は、隔たりが大きい。花火は、空気の震えと閃光を五感で直接感じ取るからこそ、美しく見えるものなのである。星空も、同類だ。

「大志は、こんなの見たことある?」
「テレビで見たことはあるんだけどな……。やっぱり、雲一つない空は初めてで、壮大過ぎる」

 そして、それは大志も同じ。一番星どころか百番星まで、無数の星たちが漆黒の空を埋め尽くしている。

 都会生まれ都会育ちの大志と美紀は、自然に触れる機会というもの自体が少なかった。レジャーで郊外に行くだけでも、新しい発見で胸がワクワクに包まれたものだ。

 ネオンサインや歓楽街の看板は、華やかさの象徴とされる。確かに、街中を歩いていると大抵目に留まるのはそれらであり、色とりどりの配色で見る者をあの手この手で引き寄せようとする。

 それでも、だ。緑豊かな山々の彩色は、人工物では表現することが極めて困難な者だ。例え科学技術が進歩しても、現物には及ばない。

 都会となると、星座どころか一等星も街灯りで消えてしまう。こうして、原っぱをベッドにして星空を天井にすると、自然の雄大さが読み取れる。

「……ちょっと寒くなって来たかも。大志、手、貸して?」

 ……これは、どうしたものだろうか。単に冷たかったからなのかもしれないが、大志には何か意図を含んだようにしか聞こえなかった。

 言われるがまま、美紀の方へ手を差し出した。

「……ありがと。大志の手、あったかいね」

 美紀が両手で、ぎっしりと大志の手を握りしめた。

 彼女の中心から発せられている温かみが、大志へとゆっくり入って来た。

 目を合わせているわけではないのに、面と向かって手を繋いでいるわけではないのに、動悸がする。美紀が、星空をバックグラウンドに大きく映った。

「大志、これからも、よろしく」

 一閃、涼風が辺り一帯を吹き抜けた。

 美紀の降ろされた真っ黒のカーブした後ろ髪が、風に流されて二人の繋がっている手と手にひらりと舞い降りた。
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