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第1章 亮平回想編

017 水面下の進行

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 横瀬さんの家で集会をしてから一週間が過ぎ、亮平たちはまた横瀬さんの家に集まっていた。

 学校が始まって二週間。「交流タイム」は続いた。毎日悲惨な目にあった。

 しかし、日が進むごとに六年の態度が少しづつ軟化してきた。五年の中には『楽になった』と思って六年生に対する評価をあげる人も多かったが、亮平たち集会組と一部の人は六年が態度を軟化させたことを、五年を無抵抗にさせるための策だと分かっていた。

 亮平は、昨日横瀬さんの兄貴に言われた事を思い出す。

 六年は態度を軟化させると思うが、それは『前より楽になった』と五年に思わせ、無力化させようとする策だということ。

(まさか、本当に軟化させるとはなぁ)

 横瀬さんの兄貴が予知できたのは、兄貴自身の去年の経験から来ているという。

 去年も、六年が少しづつ軟化させたために、『六年に反抗しよう』と思っていた人が行動を起こせなくなったらしい。

(でも、兄貴からはもう一つ伝えられてたな)

 そう、横瀬さんの兄貴から亮平達はもう一つあることを伝えられていたのだ。

「でも六年が態度を軟化させると言うことは、逆に見れば『五年はもう抵抗してこないだろう』と六年が見ていると言うことだ。だから、六年の態度が軟化すればたくらみがバレる可能性は低くなる」

 六年の態度は、少しづつ軟化してきていた。それは、反抗作戦がバレる可能性が低くなったことを意味している。

(暴力の頻度も下がるから、一石二鳥だな)

「じゃ、今回も私が仕切りまーす」

 三岸さんが進行役に名乗り出る。他に誰もいなかったので、すんなり決まった。

 そして、練習時間中。

「そろそろ五年の人を少しづつ説得し始めた方がいいんじゃないかな。あまり長く放置してると、『六年にもう逆らいたくない』と思う人が増えちゃうと思うけど」

 その一言で、直ちに練習は中止になった。この場にいる大多数の人が、説得することの方が優先だと感じたのだろう。

「今説得した方が六年にひきずりこまれていない五年生が多いから今週からした方が……」
「いや、反抗作戦を伝えて、もし自分の保身のために六年に喋る人がいたら取り返しが付かなくなる!」 

 様々な意見が飛び交う中、横瀬さんの兄貴の

「放置していたら、どんどん六年に依存する人が増えるだけだぞ」

 という一言で全てが決まった。 

 説得は今週中にできるだけするが、明らかに六年生に依存している人には話さないという事に決まった。

 ついでに反抗作戦を実行する日も決めてしまおうと言うことで、議論がされた。

「来週は?」
「いや、それだと参加する人数に不安が……」

 結局、反抗作戦の実行はゴールデンウィーク前ということに決まった。

「俺・私たちはできる! オー!」

 亮平達は約一か月後の実行日に向けて、腕を組んで叫んだ。

 そして、また練習へと戻っていった。

 亮平たちの目には活力がみなぎっていた。それは、まるで学校で行われる「交流タイム」の惨劇を忘れさせるほどに。



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 次の週。亮平達はいつものように横瀬さんの家で攻撃練習をしていた。

 説得はかなりが成功し、五年の四分の三が参加することになった。

 しかし、さすがに五年生の四分の三が入るほど横瀬さんの家は大きくはないので、公園の目立たない場所で練習してもらっている。公園で練習する組を仕切っているのは、三岸さんだ。

(向こうの方は、うまくいっているのかなあ)

「おーい。君らに伝えたいことがあるんだけど」

 横瀬さんの兄貴が亮平達に声をかけたのは、練習が始まってまだあまり時間が経っていないころだった。

「なんですか?」
「練習の内容を変えようと思うんだ」
「別にいいですよ」
「そうか……。今から言う練習内容を聞いても、意見が変わらないようなら変更する」

 やけに横瀬さんの兄貴はもったいぶる。

「六年に勝てるなら、どんな練習でも」
「そうか。……確かに、この練習をすれば、確実に君らは強くなるだろう。この練習は、いわば俺の罪滅ぼしも兼ねている」

 亮平には、嫌な予感しかしなかった。亮平には、この言い方の先には何があるのかがなんとなく分かる。

(この感じは、兄貴が……)

「俺と実際に戦うという内容だ。手加減はしない。俺を倒せるようになったのなら、もう君らは六年と同じ、いやそれより上の実力が付いたといっていいだろう」

 横瀬さんの兄貴が言った練習内容は、兄貴自身を使っての実戦練習だった。
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