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第3章 スケジュール、埋まってます編

028 待っててくれてたのね

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「亮平くん、手伝ってくれる?」

 澪だ。澪はいつもこういう班長のようなリーダー役には立候補している。 

「いいけど。どういう場面のセリフ?」

 生徒代表の言葉を言うときなのか、学年集会で言う言葉なのかで全然言うことが違ってくる。

「えーっと、泊まるホテルの人へのお礼の言葉」

(めんどくさそうなやつか……)

 学年集会で言う言葉なら、最悪即興で考えてもいいが、お礼の言葉はそうは行かない。

「あ、やっぱりいらないかも。だいたい出来上がりそう」

(どっちなんだよ!)

 書くのに困ってから呼んでほしい。亮平達点呼の役割は暇なのは認めるが。

 数分して、全員が書き終わったらしく、担任が前に立つ。

「全員提出できたようなので、今日は終わりにする。修正箇所がある人はまた後日呼ぶから、その時に来るように。では、解散!」

 先輩は二、三時間かかったらしいが、なぜそんなに時間がかかったのだろうか。亮平には理解できなかった。

 亮平はすぐに走って帰ろうとする。澪に捕まるといろいろと厄介ごとに巻き込まれる可能性があるからだ。

 亮平は急いで自分のバックをしょって教室を出ようとした。がしかし、人が込み合っている方の教室の出口とは反対側の出口から出ようとした。そのため、教室を出る時間がわずかに遅れる。その「わずかな時間」が命取りとなる。

「ちょっと……」

 澪に腕をつかまれる。未帆とは違うので振りほどいて逃げる事もできるが、後々厄介になる。後で事情を説明しろと言われたときに返答に困るのだ。

「用事ないって言ってたでしょ? 走る必要あるの?」

 どうしようかと考えつつ窓の外を見て、思わず亮平は目を大きくさせた。

(ちょっと待ってくれ! なんで未帆が校門の前にいるんだよ!)

 未帆にはきちんと『二、三時間かかるかもしれない』と伝えていた。帰っていない事は亮平にとっては想定外であるとともに、大きな誤算だった。

 何が原因なのかは分からないが、未帆と澪の仲が不穏になっているのは亮平も分かっている。なので、ゴールデンウィーク前のような巻き込まれ事故は避けたい。巻き込まれると、身動きが取れなくなる。

 しかし澪は気付いていないため、そんなことお構いなしに亮平はお持ち帰りされた。

「あ、酒井さん」
「西森さん!? なんでここに?」
「亮平が嘘ついてないか気になって、一応二十分ぐらいは待っておこうと思ってて」

(嘘じゃなくて、今までのやり方が悪かっただけなんだよなぁ)

 もちろん、こちらの事情が未帆に伝わっているはずもなく、未帆からの視線が突き刺さる。

「亮平、あれって嘘だったの?」
「去年先輩から聞いた時はそう聞いたんだって!」

 しばらくやりとりが続いて未帆の誤解を解いたとき、もう亮平に何かをする体力もしようとする気力も残ってはいなかった。






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(気力が無くなったせいでテスト勉強できない……)

 テスト勉強が出来なかったのは、今日の放課後の出来事のせいだということにした亮平であった。 
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