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第4章 修学旅行編
040 ホテルにて その2
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「まあ、冊子の話は置いといて、何かしないか?テレビは他の奴に乗っ取られてるし」
(テレビ使っていいのかよ。というかあったのかよ)
両隣の部屋からは音はしていなかったので、亮平は気づかなかった。
冊子にテレビのことについては書かれてはいない。亮平からは何も言えない。考えてみれば、ホテルの部屋にテレビが備え付けていない方がおかしい。
何を見ているのかが気になって頭と頭のスキマからのぞいてみると、クイズを解いている芸能人の姿が映っていた。
クイズ番組で放送時間が短いものはほとんどない。自分も見たい気持ちがあるが、『どいてくれ』といったところでどいてくれるとは思ってはいない。
「俺が持ってきてる物といえば、トランプ……」
亮平は『トランプ』という言葉に、敏感に反応した。表情が瞬間的に疲れた表情に変わる。
「ストップ! トランプはやめてくれ!」
「俺も霧嶋に賛成。トランプは飛行機の中で散々やったからな」
次いで、横岳も亮平の意見に賛同した。亮平と同じことを思っていたとしか思えない。
休憩時間を除いても、すでに三時間ぐらいは飛行機の中でトランプをしていた。これ以上は、トランプのマークを見るだけで頭が壊れる。
トランプがカードゲームの定番なのはわかる。だが、他のカードゲームもたくさんあるはずだ。なぜこんなに、トランプしか持ってきていない人が多いのだろうか。
外は太陽がまだ高い位置にあるが、時間は五時半。しかし、まだ夕食の時間までにはあと一時間ほどある。寝てもいいらしいのだが、起きなくなりそうで怖いのであまりしたくはない。目覚ましがあっても起きないのだから。
かといって、暇を持て余してしまうのも嫌だ。ゴロゴロしておくというのも、飽きてしまうだろう。暇ではなくなるのなら、なんでもいい。
「そんなに暇なら、いっそ筋トレでもするか?」
横岳が割と珍しく真面目な顔になっている。
「それはちょっと……」
訂正。なんでもいいわけではない。ホテルにまで来て筋トレはしたくない。
しかし、他の方法も見つからない。女子ならおしゃべりだけで乗り切れるのだろうが、あいにく亮平達は女子ではなく男子。五分しのぐのが精いっぱいだ。
「……いいんじゃない、暇じゃなくなるなら……」
(みーなーとー、お前もか)
暇では無くなれば何でもいいというわけでもなかろうに。そう思っても、湊には伝わらない。
このままでは、間違いなく筋トレに決まる。三人しかいないので、味方を増やしようがない。
(ほかの部屋に行く?)
亮平の頭の中に、その言葉が再生される。表情がほのかに明るくなる。
「ごめん、俺他の部屋に行く約束してたんだ。後は二人でどうぞ」
言い終わらないうちに、亮平は部屋の出口に向かって出ていく。
(簡単な事じゃないか!)
最初からこうすればよかったのだ。適当に他の部屋にいれば、退屈することもないだろう。
と、左腕に強烈な力がかかった。体が前に進まない。そのまま部屋の中に引き戻される。
振り返ると、腕をつかんでいたのは横岳ではなく、湊だった。
「……演技、下手。……ず何号室にいくつもりなんだ……?」
亮平の動きがぎこちなくなる。まさか、湊が止めてくるとは。
隣の部屋なら、大丈夫なはず。番号さえ間違えなければ、大丈夫なはずだ。
「隣の部屋だよ。303号室」
湊は表情を変えない。そして、意外なことを提案した。『暇だから一緒についていく』と。
拒否すると余計に疑われる。それに、無理やり約束していることにすれば大丈夫だ。若干嫌な予感はしたが、しぶしぶ湊の提案を呑んだ。
そのまま303号室の目の前まで来る。静かなのは亮平と横岳が302号室に来た時から変わっていない。全員どこかの部屋にでも行ってしまったのだろう。中で静かに何かをしていると考えるのは、不自然だ。
「ガチャガチャ」
ドアノブを下にしようとするが、鍵がかかっていて開かない。鍵をかけて全員で他の部屋に行ったという可能性は考えられなくもないが、可能性はかなり低い。それに、もし本当にそうなら、亮平が嘘をついたのがバレてしまう。すでにバレている可能性は高いが。
部屋の扉を必死にノックする。しかし、一向に誰かが来る気配はなかった。
「くくっ」
後ろで横岳が口を押さえて笑っていた。笑いをこらえているのが亮平でも分かる。
湊が、冊子のあるページを開いて、亮平の目の前に突き出した。部屋の割り振りのページだ。
(まさか……)
すぐに『3階』と書かれた欄を確認する。303には、誰の名前も入っていなかった。つまり、空室だ。
「霧嶋、お前面白かったぞ。必死にノックし続けているところはお笑いみたいだったぞ。『冊子をきちんと見ろ』っていってたのは誰だよ」
特大ブーメランが、亮平の心に突き刺さる。湊が無言でうなずいているのも、さらに亮平の心に突き刺さる。
「霧嶋君は罰ゲームで筋トレをするように」
反論はできない。しても意味がない。強引にやらされるだけだ。
亮平は別に運動不足というわけではない。が、それでも筋トレはキツイ。
----------この出来事から十分後、亮平の筋肉は悲鳴を上げ、筋肉痛が修学旅行が終わるまで続いたという。----------
(テレビ使っていいのかよ。というかあったのかよ)
両隣の部屋からは音はしていなかったので、亮平は気づかなかった。
冊子にテレビのことについては書かれてはいない。亮平からは何も言えない。考えてみれば、ホテルの部屋にテレビが備え付けていない方がおかしい。
何を見ているのかが気になって頭と頭のスキマからのぞいてみると、クイズを解いている芸能人の姿が映っていた。
クイズ番組で放送時間が短いものはほとんどない。自分も見たい気持ちがあるが、『どいてくれ』といったところでどいてくれるとは思ってはいない。
「俺が持ってきてる物といえば、トランプ……」
亮平は『トランプ』という言葉に、敏感に反応した。表情が瞬間的に疲れた表情に変わる。
「ストップ! トランプはやめてくれ!」
「俺も霧嶋に賛成。トランプは飛行機の中で散々やったからな」
次いで、横岳も亮平の意見に賛同した。亮平と同じことを思っていたとしか思えない。
休憩時間を除いても、すでに三時間ぐらいは飛行機の中でトランプをしていた。これ以上は、トランプのマークを見るだけで頭が壊れる。
トランプがカードゲームの定番なのはわかる。だが、他のカードゲームもたくさんあるはずだ。なぜこんなに、トランプしか持ってきていない人が多いのだろうか。
外は太陽がまだ高い位置にあるが、時間は五時半。しかし、まだ夕食の時間までにはあと一時間ほどある。寝てもいいらしいのだが、起きなくなりそうで怖いのであまりしたくはない。目覚ましがあっても起きないのだから。
かといって、暇を持て余してしまうのも嫌だ。ゴロゴロしておくというのも、飽きてしまうだろう。暇ではなくなるのなら、なんでもいい。
「そんなに暇なら、いっそ筋トレでもするか?」
横岳が割と珍しく真面目な顔になっている。
「それはちょっと……」
訂正。なんでもいいわけではない。ホテルにまで来て筋トレはしたくない。
しかし、他の方法も見つからない。女子ならおしゃべりだけで乗り切れるのだろうが、あいにく亮平達は女子ではなく男子。五分しのぐのが精いっぱいだ。
「……いいんじゃない、暇じゃなくなるなら……」
(みーなーとー、お前もか)
暇では無くなれば何でもいいというわけでもなかろうに。そう思っても、湊には伝わらない。
このままでは、間違いなく筋トレに決まる。三人しかいないので、味方を増やしようがない。
(ほかの部屋に行く?)
亮平の頭の中に、その言葉が再生される。表情がほのかに明るくなる。
「ごめん、俺他の部屋に行く約束してたんだ。後は二人でどうぞ」
言い終わらないうちに、亮平は部屋の出口に向かって出ていく。
(簡単な事じゃないか!)
最初からこうすればよかったのだ。適当に他の部屋にいれば、退屈することもないだろう。
と、左腕に強烈な力がかかった。体が前に進まない。そのまま部屋の中に引き戻される。
振り返ると、腕をつかんでいたのは横岳ではなく、湊だった。
「……演技、下手。……ず何号室にいくつもりなんだ……?」
亮平の動きがぎこちなくなる。まさか、湊が止めてくるとは。
隣の部屋なら、大丈夫なはず。番号さえ間違えなければ、大丈夫なはずだ。
「隣の部屋だよ。303号室」
湊は表情を変えない。そして、意外なことを提案した。『暇だから一緒についていく』と。
拒否すると余計に疑われる。それに、無理やり約束していることにすれば大丈夫だ。若干嫌な予感はしたが、しぶしぶ湊の提案を呑んだ。
そのまま303号室の目の前まで来る。静かなのは亮平と横岳が302号室に来た時から変わっていない。全員どこかの部屋にでも行ってしまったのだろう。中で静かに何かをしていると考えるのは、不自然だ。
「ガチャガチャ」
ドアノブを下にしようとするが、鍵がかかっていて開かない。鍵をかけて全員で他の部屋に行ったという可能性は考えられなくもないが、可能性はかなり低い。それに、もし本当にそうなら、亮平が嘘をついたのがバレてしまう。すでにバレている可能性は高いが。
部屋の扉を必死にノックする。しかし、一向に誰かが来る気配はなかった。
「くくっ」
後ろで横岳が口を押さえて笑っていた。笑いをこらえているのが亮平でも分かる。
湊が、冊子のあるページを開いて、亮平の目の前に突き出した。部屋の割り振りのページだ。
(まさか……)
すぐに『3階』と書かれた欄を確認する。303には、誰の名前も入っていなかった。つまり、空室だ。
「霧嶋、お前面白かったぞ。必死にノックし続けているところはお笑いみたいだったぞ。『冊子をきちんと見ろ』っていってたのは誰だよ」
特大ブーメランが、亮平の心に突き刺さる。湊が無言でうなずいているのも、さらに亮平の心に突き刺さる。
「霧嶋君は罰ゲームで筋トレをするように」
反論はできない。しても意味がない。強引にやらされるだけだ。
亮平は別に運動不足というわけではない。が、それでも筋トレはキツイ。
----------この出来事から十分後、亮平の筋肉は悲鳴を上げ、筋肉痛が修学旅行が終わるまで続いたという。----------
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