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塩対応さんは感情表現が苦手なご様子です。

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 超能力が世界に存在すると信じている人は、どれくらいいるのだろうか。子供っぽく思われたくないからとインタビューでは頭ごなしに否定しても、内心は『あってほしい』と願う人は、少なからずいるだろう。

「……雅人(まさひと)、そっちじゃない。それは、去年のやつ。題名が今年のと違う」
「……よく分かるな……」
「在校生として、当然のこと」
「学校が出してる季刊誌なんて、ロクに見ないだろ……」

 雑用係をやらされている雅人も、超能力を割と本気で実在していると思っている男子高校生だ。幼い時代にテレビのバラエティー番組で海外の超能力者特集を見て、憧れていたのは黒歴史になる。

 その雅人の隣で指示を出しているのは、同じく厄介ごとを背負わされた不運な女子生徒、麗(れい)だ。誰にでも塩対応で有名な彼女は、どこか神聖なところがある。ギャップが一切存在しないのが、存在の神格化に拍車をかけている。

「……それは、関係ない雑誌。持ち込んだ人、校則違反」
「いいじゃないかよ、これくらい」
「ダメなものはダメ」

 感情の欠片も見えない。最新技術で作られた人工知能よりも人間味が薄い。

「……ところでよ、麗。超能力って、信じるか?」
「……随分非科学的なもの過ぎる。そんなもの、信じない」

 そして、現実主義者である。どちらかと言えばネガティブ思考であり、下にブレ幅がある選択を拒む。

 雅人が超能力を話題に出したのは、別に麗に揺さぶりを掛けたかったわけではない。副産物で感情を引き出せやしないかと狙ったが、本題は違うところにある。

 今朝目が覚めた時、ゲーム機が散乱している勉強机に一枚の紙が置かれてあった。筆ペンで書く理由があったのかどうかは分からないが、

『あなたは、今日一日限り他者の好感度数値を映し出すことが出来ます』

 広告の裏にそうインプットしてあったものを、誰が信じるだろうか。雅人も、最初はいたずら書きが風に乗って窓から入り込んできたものだ、と考えていた。

 ところが、である。好感度が見たいと念じたところ、街を行く人々の頭のてっぺんに数字が表示されていたのである。騒いでいる様子もなかったことから、見えているのは雅人だけのようだった。

 数値は全てが『0』。それはそうだ。赤の他人なのだから。

 ……そういえば、麗にはまだ試してなかったな。

 クラスで一番の容姿を持つ女子にも使ってみたが、見事に一桁台であった。矢がグサッと心に刺さったが、仕方がない。

「……ところでよ、麗。誰かを好きになったこと、あるか?」

 麗に向かって、好感度パラメータの出現を念じる。

「……ある。でも、そんなことは雅人に関係ない」

 相変わらずの仏頂面だ。

 数字が、麗の真上に浮かび出た。

『89』

 えっ、と驚きが口から飛び出しそうになった。でたらめな数字が出ているのではないか、とも思ったが、数字が出現すること自体が超能力以外で証明できない。

「……動きが止まってる。続き、早く」

 雅人は作業を再開させたが、異様に高い好感度のことが頭から離れない。

 ……黙々と取り組んでいる雅人の目が届かないところで、麗の唇がふっと下方に緩んだ。
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