愛してるからこそ…。

おむまめ

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プロローグ

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両親の言いなりの人生は嫌では有るが、本家の会長の言葉だけ受け入れている。

それにだ本家の跡継ぎだってきっと俺と同じ壁にぶち当たるのだろう。

「ごめんな…伊織」 

龍宮総司は夏休みに久しぶり実家に帰ると、両親から本家の会長からの言付けを伝えられた。

その内容を聞き驚きはしたが、本家の会長に嫌だと楯突くほど、総司は愚かではなかった。

『まだ私は高校を卒業していません。
それにまだまだ未熟な若輩者です
ですので本家の会長にはせめて高校卒業まで待って欲しいと伝えてもらえませんか?』

総司は精一杯考えぬいて出した答えだが、両親だって本家の会長に物を言える立場ではない。

『総司…。
あの方は直ぐにでも英(はなぶさ)の令嬢とのご縁談を実現させたいと思われているんだ…。
それだけは理解しておいてほしい。
本家の会長には何とか時間を貰えるよう頼んではみよう。』 

『ありがとうございます』

父はちょっと疲れた表情をしていたが、総司はほっと息を吐いて冷めてしまった紅茶を飲み干そうとした。

『英の御令嬢を我が家にお迎えするなら、今から色々と用意をしないといけないわね』

『ッ…ブホッ!』

ふんわりとした雰囲気を持つ母の発言に総司は思わず紅茶を噴き出しそうになる。

『まぁ…大丈夫?風邪かしらねぇ』

母は基本的に不思議ちゃんであるのを重々理解していたものの、何を考えてその答えに行き着いたのか理解が出来なかった。

『母さん…。
高校卒業まで七ヶ月は有ります、それに卒業後は大学へ通うつもりです。
まぁ、縁があり英の令嬢と婚約したとしても大学在籍中に結婚はしたいと思いません。
なので時間はまだたっぷりと有る筈ですからあまり先走らずにお願いします。』 

『あらあら悠長な事を言って。
縁談が纏まれば英の御令嬢は龍宮家の嫁です。
最低でも二年から三年をかけて、本家そして龍宮家の仕来たりを学ばねばなりません。
そうなると毎日ご実家に帰られるよりも、我が家で寝泊まりする方が御令嬢の負担も少ないでしょうし、それに一緒に暮らしていれば貴方との仲も自然と深まるものよ?
うふふっ、そうなったら私も旦那様だってお祖父様とお祖母ちゃんになっちゃう可能性だってあるじゃない~』

家をリフォームするか新居を建てるか?
ベビー服を用意しなきゃだのと…。
母はその他色々と先走り過ぎた考えをツラツラ口にする。

本当にちょっと黙ろうかお母上!

『ちょっと待って下さい!!』

『貴方こそお黙りなさい!
貴方は龍宮家の跡取りであり旦那様と私のたった一人の息子よ。
婚約を先伸ばしにするのも一つの手でしょうがね…。
ねぇ、総司さん。
本家の叔父様が黙ってるとでも思っているのかしら?
例え今貴方に恋人が居ようが居まいが、叔父様が一度決めた事を覆す事は絶対に出来ませんよ』

いつもと違う母の口調と雰囲気に総司は黙るしか出来ない。

本家の会長が一度決めた事を覆したのなら反逆者として判断される。
例え自分から龍宮を捨てたとしても、この地球上のどこへ逃げても反逆者がまともな生活が出来ないのは目に見えている。

それに本家の会長は血縁関係で息子でも孫だろうが容赦なく切り捨て潰す。

龍宮家は遠縁だし粛清の手は苛烈を極めるだろう。

『ッ…(完全に詰んでる!)』


『母さんもその辺りにしてやりなさい。
きっと総司は分かってくれているよ』

『そうですわね。
総司さんこのお話はまた後日致しましょうね』 

父が間に入りあの時は治まったが、総司は帰寮してから完全に自室に隠るようになっていた。

最初に異変に気が付いたのは半同棲していた恋人だった。

しかしその恋人の声に反応さえ見せず、親友の柊が訪れても総司は頑なに部屋の扉を閉ざし開く事はなかった。

夏休みも終わりに差し掛かれば寮には多くの生徒が戻ってくる。

そんな中でもめげずに部屋の外から声を掛けている恋人の姿は注目されてしまう。

有ること無いこと噂が流れる中、新たな噂を生徒達が耳にする。

『夏休み明けに転校生が来るらしい』

『転校生は編入試験満点だったらしいよ』

転校生の話で盛り上がりる生徒達。

しかしその一方で生徒会室は暗く重苦しい空気に包まれていた。

「こんな時期に転校生だと?」

苛々した声で問いかけているのは生徒会長の霧島だ。

「ええっ、そのようですね」

「ちっ面倒だな…。
おい明日の迎えは後藤田お前に頼む」

「了解しました。
それより伊織、その…大丈夫ですか?」

副会長後藤田の言葉に生徒会室に居る全員がビクリと動き反応を見せる。

誰もが固唾を飲み見守る中で霧島は少しだけ泣きそうな表情をしたが無理矢理笑みを作った。

「大丈夫だ。
それより新たな仲間を受け入れる準備をしよう」

霧島伊織は恋人の変化に戸惑い不安に苛まれながらも、今日も恋しくて愛しい恋人の元に向かうのだった。




「ここなのですね新しいガッコウ」

新たな制服に身を包み、ちょっとモサッとした髪型に分厚い眼鏡をかけた、ちびっこい生徒が厳かな門の前に立っている。

「ふうキンチョウしてきました…。
みぃーさま、まぁーくん…」

インターホンを押す前におまじないをかける毬藻っ子生徒。

「よ~し!!
頑張るぞ~!」

ほわほわとした間抜けな声を出す生徒は勇気を振り絞りインターホンを押すのだった。
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