【幼馴染×漫画家】ツインファニーキャンバス(両片思い編)

紅茶風味

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大好きな気持ちの伝え方④-1

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「課長も酷くない? なんで毎回私に聞くんだつうの」

 居酒屋の小さな個室の中、先輩が酒をあおり毒づくように言った。そうですね、と返しながらも、思考は別のことでいっぱいだ。何杯目か知れないジョッキに口をつけ、そっと息を吐く。

 ここのところ、未羽の家に行っていない。いつもなら最低でも週に二日は顔を出していたのに、最後に会ってからもう二週間も経つ。

 車でセックスをしたあの日から、どうにも調子がおかしくなってしまった。あの時はただ、目の前の幸福な時間に夢中で、家に帰ってからもしばらくは余韻に浸っていた。けれど、やはり日常に戻ればその現実に打ちのめされた。あれはその日限りの幻想だ。未羽は恋人でもないし、俺を好きなわけでもない。

 なんとなく気軽に家に行くのが憚られて、未羽から連絡がくるのを待った。それから一週間経っても音沙汰がなく、向こうも俺に対して引け目を感じているのだと分かった。

 同じ思いならまだいい。万が一、嫌われてしまっていたらと考えると後悔が押し寄せてくる。促されたとはいえ、まるで恋人のように抱いてしまった。感情が抑えきれなくなって、独り善がりな行為だった。

「矢野君、聞いてる?」

 突然目の前に手が現れ、ひらひらと揺れた。思考が一気に戻り、店内のジャズが耳に届く。

「あ、すみません……。課長がなんでしたっけ?」
「どこまで戻ってんの。飲み過ぎ」

 向かいに座る先輩が心配そうに言い、俺の握っているジョッキを見た。

「今日すごい呑んでるよね。なんかあった?」
「いえ……」

 同じ課の先輩に飲み行こうと誘われたのは、今日の終業間際だった。ちょっと相談したいことがあるからと言われたら断ることも出来ず、そもそも他に予定もないので断る理由もなかった。

「あの、相談したいことっていうのは……?」
「あー、うん。それね」

 店に来てから、かれこれ二時間以上は経つ。本題はいつなのかと待っていたが、愚痴が続くだけで一向に触れてこなかった。

「矢野君てさ、けっこう遊んでるって噂聞くけど本当?」
「なんですかそれ」
「女の子とっかえひっかえしてるって」

 思わず顔をしかめてしまい、その反応が面白かったのか笑われてしまった。

「ただ長続きしないだけです」
「うん、そうだよね。遊ぶような感じじゃないもんね」

 どこから聞いたのかは知らないが、きっと以前呑みの席でそういう話題になった時、周囲のノリに流されて言った事実が面白おかしく伝えられたのだろう。

「でも、フリーになってもまたすぐ彼女作るんだから、それなりに女の子好きなんでしょ」
「いや……、俺から声かけてるわけじゃなくて」
「あ、モテる発言だ」
「なんなんですかこれ……」

 相談ごとは何かと聞いたはずなのに、気づけば全然違う話題になっていた。正直、こんな話をするのなら早く帰りたい。そんな思いが酒のせいで顔に出てしまい、同じく酔った先輩はそれを見て爆笑する。

「もうちょっと付き合ってよ。明日休みじゃん」
「俺はいいけど、先輩は大丈夫なんですか、時間」
「で、なんで長続きしないの?」

 人の話を聞いていないうえ、直球で痛いところを突かれてしまった。答えられずに言葉を詰まらせる俺に、何故か一瞬だけ笑顔を崩し、すぐに笑う。

「今は彼女いるの?」
「いないです」
「来る者拒まずって状態?」
「まぁ……」
「私でも?」

 その言葉に驚いて固まった。意味を考えずとも、そういうことだろう。

「……まじっすか」
「まじっす」

 相談というのも、嘘だったのかもしれない。そうでも言わないと、俺は来ないと思ったから。途端に目の前の会社の先輩が、一人の女性として映った。いつもより洒落た格好をしていることに、今さら気づかされる。

「……もう一杯呑んでいいですか」
「じゃあ、お店変えよう。ここのお酒飽きちゃった」

 店を出ると、外はどっぷりと夜の色に染まっていた。少し涼しくなった風がゆるく吹き、火照った身体を撫でていく。

 時計を見れば、すでに夜の十時を回っている。今から店に入ると、確実に終電に間に合わなくなる。

「帰りの時間、大丈夫ですか?」

 隣を歩く先輩に聞けば、その足が止まった。じっと見上げてくる瞳がはっきりと意思を示していて、心の中で察する。ネクタイに手が伸ばされ、俺を試すかのように僅かに引っ張られた。

 働かない頭で、ぼんやりと思う。俺、今度はこの人と付き合うのか。細い腰に手を回し、顔を近づける。唇が寄せられ、先輩の目が閉じられた。べつにいいか。どうせまた、すぐに別れることになるのだから。

 Yシャツの胸ポケットで携帯が震え、咄嗟に動きが止まった。唇が触れる寸前で顔を上げ、そんな自分の行動に戸惑う。先輩が目を開き、見据えてくる。なんで止めたんだ、俺。今さら躊躇う必要なんて無いはずなのに、何故かこの先に進むことができない。

「矢野君、もしかして、忘れられない人がいるんじゃないの……?」

 冷静な声が、静かに耳に届く。どうして分かってしまったのだろう。女の勘というやつなのかもしれない。なんと答えたらいいか分からず、「すみません」と消え入りそうな情けない声で言った。

 先輩は嫌な顔一つせず、今日は帰ろうと笑顔を見せた。自分の幼稚で浅はかな行動が嫌になる。

 帰りの電車の中で携帯を見れば、先ほどの着信は未羽からだった。見計らったかのようなタイミングに息苦しさを感じながらメッセージを開けば、明日一緒にご飯を食べよう、と可愛らしいスタンプと共に送られていた。
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