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祇音、15の春~革命ってなんどす?
しおりを挟むそれは私が将来への夢を初めて口にした小学校の卒業式の夜のことだった。
「八坂さん(八坂神社)がアイドルプロデュースするって知ってる、おかぁはん?」
「・・・・」
花街では置き屋の仕込みさん(舞妓の見習い)になると女将さんのことをおかあはんと呼ぶ。家族であってもなくてもその置き屋に身を置く限りは女将さんのことはおかぁはんと呼ぶ決まりが花街にはある。
「八坂さんがアイドルプロデュースやて、なんか夢あらへん?
花街の舞妓ちゃんにも声がかかってるらしいねんけど、おかぁはん何か聞いてない?」
「・・・・・・」
「なぁおかあはんって…」
「聞いてまへんなそんな話。それに夢は夢でしかあらへんえ。大きく見過ぎる夢は目の毒にしかならへん」
幼い私には意味が分からず、その時はそれだけで終わった。
けれどいつも以上にぴしゃりと戸を立てるような物言いは子供ながらになにか心にひっかかるものはあった。一番触れてはいけない何かがあるような気がして・・・。
それからその事はメディアにも取り上げられニュースにもなったことから、案の定その数日間のお茶席はその話題で持ちきりになった。
「祇園300年、そら文化は守らないかん。けど革命がそろそろあってもええ頃やな、祇園からええ娘がおったら出したらどうや、女将」
宴の席で京大のどこぞの偉い先生がそんな内容のことを言わはったんを覚えてる。
「革命ってなんどす?そんなもんはこの先斗町界隈にはおへんえ。そんなもんがあったらうちが一撃の下に踏み潰してご覧にいれますえ」
それはおそらく幼い私に対しての警告。
座敷の片隅でちょこなんと鎮座している祇音にこれ見よがしに言ってのけたのだろう。その祖母の笑みには子供心に私は寒気を覚えた。背中に得体の知れないものが這い回るような悪寒がした。叶わないことは幼いながらも知っていた。ただそんな小さな夢を知って欲しかっただけなのに彼女と共有したかっただけなのに。
外でも内でも祖母の周りにはいつも笑顔が溢れていて彼女が話し出すと辺りの時間は止まるような気がした。幼いころは座敷に上がるの咎められはしなかったし、上機嫌の時は宴の中、その膝の上で祖母の笑顔を仰ぎ見た記憶さえある。祖母はいつでも綺麗で饒舌で立派で、そしていつも人の真ん中にいた。
言うならばオーケストラの指揮者にその立ち位置に似ていた。
その夜のお座敷の良くも悪くも出来を左右するのは女将のさじ加減、コンタクトの捌きひとつ。特に老舗で一流処のお茶屋にはかならずといっていいほど上得意の常連さんを惹きつけて離さない名物女将が何処にもいた。
ただ私はそんな顔を見せるときの祖母は苦手だった。
怖い夢を見そうで寝れない時、ずっと寝るまでそばに寄り添ってくれるそんな祖母が好きだった。
「おかぁはんが夢の中まで寄り添ってあげまっさかい」
お布団の中から仰ぎ見るおかぁはんの顔はお座敷にいるそれとは別人だった。
おかあはんの作ってくれるお弁当。誰のどのお弁当よりも大きなだし巻きは祇音の自慢で、舐めるように綺麗に空になって戻ってきた弁当箱に顔を皺くちゃにして喜ぶ祖母が好きだった。
でも、一二三の老舗の暖簾をその年老いた背中に背負っている祖母はそんな顔を使いわけることは何より大切だということを私も子供ながらに知っていた。
いつかは大好きな祖母だけの顔を見れる日がやって来る、祇音はそれを願いつつ日々を生きた。
アイドルになりたいそんな気持ちをこころの奥底に押し込めながら。
そして私は母が私を生んだ時と同じ、15の春を迎えた。
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