祇音少女

リトルマナ

文字の大きさ
4 / 10

祇音、15の春~革命ってなんどす?

しおりを挟む

それは私が将来への夢を初めて口にした小学校の卒業式の夜のことだった。
 
「八坂さん(八坂神社)がアイドルプロデュースするって知ってる、おかぁはん?」
 
「・・・・」
 
花街では置き屋の仕込みさん(舞妓の見習い)になると女将さんのことをおかあはんと呼ぶ。家族であってもなくてもその置き屋に身を置く限りは女将さんのことはおかぁはんと呼ぶ決まりが花街にはある。

 「八坂さんがアイドルプロデュースやて、なんか夢あらへん?
花街の舞妓ちゃんにも声がかかってるらしいねんけど、おかぁはん何か聞いてない?」
 
「・・・・・・」
 
「なぁおかあはんって…」
 
「聞いてまへんなそんな話。それに夢は夢でしかあらへんえ。大きく見過ぎる夢は目の毒にしかならへん」
 
幼い私には意味が分からず、その時はそれだけで終わった。
けれどいつも以上にぴしゃりと戸を立てるような物言いは子供ながらになにか心にひっかかるものはあった。一番触れてはいけない何かがあるような気がして・・・。
 
それからその事はメディアにも取り上げられニュースにもなったことから、案の定その数日間のお茶席はその話題で持ちきりになった。
 
「祇園300年、そら文化は守らないかん。けど革命がそろそろあってもええ頃やな、祇園からええ娘がおったら出したらどうや、女将」
 
宴の席で京大のどこぞの偉い先生がそんな内容のことを言わはったんを覚えてる。
 
「革命ってなんどす?そんなもんはこの先斗町界隈にはおへんえ。そんなもんがあったらうちが一撃の下に踏み潰してご覧にいれますえ」
 
それはおそらく幼い私に対しての警告。
座敷の片隅でちょこなんと鎮座している祇音にこれ見よがしに言ってのけたのだろう。その祖母の笑みには子供心に私は寒気を覚えた。背中に得体の知れないものが這い回るような悪寒がした。叶わないことは幼いながらも知っていた。ただそんな小さな夢を知って欲しかっただけなのに彼女と共有したかっただけなのに。


 外でも内でも祖母の周りにはいつも笑顔が溢れていて彼女が話し出すと辺りの時間は止まるような気がした。幼いころは座敷に上がるの咎められはしなかったし、上機嫌の時は宴の中、その膝の上で祖母の笑顔を仰ぎ見た記憶さえある。祖母はいつでも綺麗で饒舌で立派で、そしていつも人の真ん中にいた。
言うならばオーケストラの指揮者にその立ち位置に似ていた。
その夜のお座敷の良くも悪くも出来を左右するのは女将のさじ加減、コンタクトの捌きひとつ。特に老舗で一流処のお茶屋にはかならずといっていいほど上得意の常連さんを惹きつけて離さない名物女将が何処にもいた。
 
ただ私はそんな顔を見せるときの祖母は苦手だった。
怖い夢を見そうで寝れない時、ずっと寝るまでそばに寄り添ってくれるそんな祖母が好きだった。
「おかぁはんが夢の中まで寄り添ってあげまっさかい」
お布団の中から仰ぎ見るおかぁはんの顔はお座敷にいるそれとは別人だった。
おかあはんの作ってくれるお弁当。誰のどのお弁当よりも大きなだし巻きは祇音の自慢で、舐めるように綺麗に空になって戻ってきた弁当箱に顔を皺くちゃにして喜ぶ祖母が好きだった。
でも、一二三の老舗の暖簾をその年老いた背中に背負っている祖母はそんな顔を使いわけることは何より大切だということを私も子供ながらに知っていた。
 
いつかは大好きな祖母だけの顔を見れる日がやって来る、祇音はそれを願いつつ日々を生きた。
アイドルになりたいそんな気持ちをこころの奥底に押し込めながら。
 
そして私は母が私を生んだ時と同じ、15の春を迎えた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

処理中です...