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涙と夢の方程式~削られる夢
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それから春が終わり梅雨が来て夏が過ぎた。
話し合いは月1回ほどのペースで進みその都度八木重光が事務所での
莢のデビューに向けての進捗状況を説明した。
それは爽にとっては夢へ一歩一歩近づく道程で本当なら心躍るものになったはずだった。
創部まだ数年の奥多摩大軽音サークルはサークルでのメジャーコンテストの参加は初めての経験だった。それも本選ではテレビ中継もあるあの誰もが知るとポプコンとあっては部員たちが舞い上がらないはずはなかった。それにその先には世界歌謡祭での武道館のステージも待っていると言う。彼女たちの期待と夢は日に日に増すばかりだった。
「全員って・・? どういうことですか?こないだ7人を5人に減らす話をしたばっかりやないですか」
そんな中、莢が当初絶対条件として出した全員案は2年生以上の11人案にあっさり変更された。20人以上は常識外でポプコン史上そんな人数がステージに立ったことは無いのが理由だった。そして会う度に狡猾に半ば脅しをかけられる様に気がつけば人数を削られていった。11人が7人なり、そして5人に減っていた。
その度に莢は重い足取りでその妥協案をサークルに持ち帰りその度に部長の美柳美帆のどんどん深くなる溜息を聞き、部員達の唇を噛む姿を見てはその頭を下げた。
ただもう今度ばかりは持ち帰るのも躊躇うほどで爽は言葉を失った
秋のポプコンの予選会までは莢から離れた両サイドにキーボードを弾く一人とベースギターを弾く一人、二人を置く。
だが本選と世界歌謡祭のステージに立つのは山音爽一人。バックはこちらが選んだバンドで出てもらう。
それが彼が莢に示した最終的な妥協案だった。
「まさか、はじめっからそのつもりで・・」
「そんな訳はない。やっぱり無理があるんだよ。君の才能はこちらとしては精査ずみでその全てを認めている。だがはっきり言って君の大学のサークルの中には君をサポできるだけの技術と才能を持った演者はほぼいない。強いて言えば部長の美柳美帆ぐらいだが、そんな彼女もボーカルで楽器は弾けない。あとはみんな大学に入って音楽を始めた者ばかり。誰も人に聞かせるレベルに達している者はいない。それがこの数ヶ月、私達が調べあげた君の仲間達に対する当事務所の結論だ」
「・・・」
「それは君もわかっているはずだろ?いや、分かっていたはずだろ」
なにか言い返そうとしても息が詰まって次の二の句が出てこなかった。首根っこを押さえつけられて「どうだ小娘参ったか!」と、
そんな惨めな自分が俯瞰で見えていた。
そう、爽はわかっていたんだ。わかっていたはずなのに、莢は敢えて前へ進んだ。この数ヶ月、自問自答の毎日だった。皆と一緒に夢へと昇っていく、そんな身の丈に合わない十字架を自分に背負わせたことを後悔し始めていた。浪花女の変な意地とまだ何も始まっていない歌手山音爽のちっぽけなプライド。
おそらくそれをこの目の前にいる狡猾で強かな業界人に初めから見透かされていたんだ。
「どこまで君は自分の夢を削る気なんだ?」
彼の言葉がまるでささくれだった竹のように、爽の心の中に入り込む。
「昇っていく者は下を見ちゃだめだ。なぜならつい手を差し伸べてしまうから。後に続くものにね」
おそらくこの人は子飼いの新人たちには何度となく同じことを言ってきたのは容易に想像がついた。
ただそれは爽の今の心を揺さぶるには十分な言葉だった。
「実のところスポンサーサイドは君以外は認めてはいない、それを私達は君の想いに沿うようにこれまで努力はしてきた。ただもう限界なんだよ、私の力では。
だから分かってほしい、こうやって契約段階のステップを踏んでる以上、もう君はアマチュアではない。彼女たちも時が来ればきっと分かる・・」
突きつけられる現実、それはこの業界の大人達の正論。それを頭ではいやというほど莢は理解できていた。そこを押し通れるものだと思い込んでいた。いや自分に無理から言い聞かせていたのかもしれない…。
話し合いは月1回ほどのペースで進みその都度八木重光が事務所での
莢のデビューに向けての進捗状況を説明した。
それは爽にとっては夢へ一歩一歩近づく道程で本当なら心躍るものになったはずだった。
創部まだ数年の奥多摩大軽音サークルはサークルでのメジャーコンテストの参加は初めての経験だった。それも本選ではテレビ中継もあるあの誰もが知るとポプコンとあっては部員たちが舞い上がらないはずはなかった。それにその先には世界歌謡祭での武道館のステージも待っていると言う。彼女たちの期待と夢は日に日に増すばかりだった。
「全員って・・? どういうことですか?こないだ7人を5人に減らす話をしたばっかりやないですか」
そんな中、莢が当初絶対条件として出した全員案は2年生以上の11人案にあっさり変更された。20人以上は常識外でポプコン史上そんな人数がステージに立ったことは無いのが理由だった。そして会う度に狡猾に半ば脅しをかけられる様に気がつけば人数を削られていった。11人が7人なり、そして5人に減っていた。
その度に莢は重い足取りでその妥協案をサークルに持ち帰りその度に部長の美柳美帆のどんどん深くなる溜息を聞き、部員達の唇を噛む姿を見てはその頭を下げた。
ただもう今度ばかりは持ち帰るのも躊躇うほどで爽は言葉を失った
秋のポプコンの予選会までは莢から離れた両サイドにキーボードを弾く一人とベースギターを弾く一人、二人を置く。
だが本選と世界歌謡祭のステージに立つのは山音爽一人。バックはこちらが選んだバンドで出てもらう。
それが彼が莢に示した最終的な妥協案だった。
「まさか、はじめっからそのつもりで・・」
「そんな訳はない。やっぱり無理があるんだよ。君の才能はこちらとしては精査ずみでその全てを認めている。だがはっきり言って君の大学のサークルの中には君をサポできるだけの技術と才能を持った演者はほぼいない。強いて言えば部長の美柳美帆ぐらいだが、そんな彼女もボーカルで楽器は弾けない。あとはみんな大学に入って音楽を始めた者ばかり。誰も人に聞かせるレベルに達している者はいない。それがこの数ヶ月、私達が調べあげた君の仲間達に対する当事務所の結論だ」
「・・・」
「それは君もわかっているはずだろ?いや、分かっていたはずだろ」
なにか言い返そうとしても息が詰まって次の二の句が出てこなかった。首根っこを押さえつけられて「どうだ小娘参ったか!」と、
そんな惨めな自分が俯瞰で見えていた。
そう、爽はわかっていたんだ。わかっていたはずなのに、莢は敢えて前へ進んだ。この数ヶ月、自問自答の毎日だった。皆と一緒に夢へと昇っていく、そんな身の丈に合わない十字架を自分に背負わせたことを後悔し始めていた。浪花女の変な意地とまだ何も始まっていない歌手山音爽のちっぽけなプライド。
おそらくそれをこの目の前にいる狡猾で強かな業界人に初めから見透かされていたんだ。
「どこまで君は自分の夢を削る気なんだ?」
彼の言葉がまるでささくれだった竹のように、爽の心の中に入り込む。
「昇っていく者は下を見ちゃだめだ。なぜならつい手を差し伸べてしまうから。後に続くものにね」
おそらくこの人は子飼いの新人たちには何度となく同じことを言ってきたのは容易に想像がついた。
ただそれは爽の今の心を揺さぶるには十分な言葉だった。
「実のところスポンサーサイドは君以外は認めてはいない、それを私達は君の想いに沿うようにこれまで努力はしてきた。ただもう限界なんだよ、私の力では。
だから分かってほしい、こうやって契約段階のステップを踏んでる以上、もう君はアマチュアではない。彼女たちも時が来ればきっと分かる・・」
突きつけられる現実、それはこの業界の大人達の正論。それを頭ではいやというほど莢は理解できていた。そこを押し通れるものだと思い込んでいた。いや自分に無理から言い聞かせていたのかもしれない…。
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