AKB48⌜翼はいらない⌟オマージュ作品 『翼を捨てた天使たち(早春編~立夏編』学連闘争員サハラリコ〜ある夏の日、私たちは一つになった

リトルマナ

文字の大きさ
25 / 36

涙と夢の方程式~削られる夢

しおりを挟む
それから春が終わり梅雨が来て夏が過ぎた。
話し合いは月1回ほどのペースで進みその都度八木重光が事務所での
莢のデビューに向けての進捗状況を説明した。
それは爽にとっては夢へ一歩一歩近づく道程で本当なら心躍るものになったはずだった。

創部まだ数年の奥多摩大軽音サークルはサークルでのメジャーコンテストの参加は初めての経験だった。それも本選ではテレビ中継もあるあの誰もが知るとポプコンとあっては部員たちが舞い上がらないはずはなかった。それにその先には世界歌謡祭での武道館のステージも待っていると言う。彼女たちの期待と夢は日に日に増すばかりだった。


「全員って・・? どういうことですか?こないだ7人を5人に減らす話をしたばっかりやないですか」
そんな中、莢が当初絶対条件として出した全員案は2年生以上の11人案にあっさり変更された。20人以上は常識外でポプコン史上そんな人数がステージに立ったことは無いのが理由だった。そして会う度に狡猾に半ば脅しをかけられる様に気がつけば人数を削られていった。11人が7人なり、そして5人に減っていた。

その度に莢は重い足取りでその妥協案をサークルに持ち帰りその度に部長の美柳美帆のどんどん深くなる溜息を聞き、部員達の唇を噛む姿を見てはその頭を下げた。

ただもう今度ばかりは持ち帰るのも躊躇うほどで爽は言葉を失った
秋のポプコンの予選会までは莢から離れた両サイドにキーボードを弾く一人とベースギターを弾く一人、二人を置く。
だが本選と世界歌謡祭のステージに立つのは山音爽一人。バックはこちらが選んだバンドで出てもらう。
それが彼が莢に示した最終的な妥協案だった。

「まさか、はじめっからそのつもりで・・」

「そんな訳はない。やっぱり無理があるんだよ。君の才能はこちらとしては精査ずみでその全てを認めている。だがはっきり言って君の大学のサークルの中には君をサポできるだけの技術と才能を持った演者はほぼいない。強いて言えば部長の美柳美帆ぐらいだが、そんな彼女もボーカルで楽器は弾けない。あとはみんな大学に入って音楽を始めた者ばかり。誰も人に聞かせるレベルに達している者はいない。それがこの数ヶ月、私達が調べあげた君の仲間達に対する当事務所の結論だ」

「・・・」

「それは君もわかっているはずだろ?いや、分かっていたはずだろ」

なにか言い返そうとしても息が詰まって次の二の句が出てこなかった。首根っこを押さえつけられて「どうだ小娘参ったか!」と、
そんな惨めな自分が俯瞰で見えていた。

そう、爽はわかっていたんだ。わかっていたはずなのに、莢は敢えて前へ進んだ。この数ヶ月、自問自答の毎日だった。皆と一緒に夢へと昇っていく、そんな身の丈に合わない十字架を自分に背負わせたことを後悔し始めていた。浪花女の変な意地とまだ何も始まっていない歌手山音爽のちっぽけなプライド。
おそらくそれをこの目の前にいる狡猾で強かな業界人に初めから見透かされていたんだ。


「どこまで君は自分の夢を削る気なんだ?」 

彼の言葉がまるでささくれだった竹のように、爽の心の中に入り込む。

「昇っていく者は下を見ちゃだめだ。なぜならつい手を差し伸べてしまうから。後に続くものにね」


おそらくこの人は子飼いの新人たちには何度となく同じことを言ってきたのは容易に想像がついた。
ただそれは爽の今の心を揺さぶるには十分な言葉だった。


「実のところスポンサーサイドは君以外は認めてはいない、それを私達は君の想いに沿うようにこれまで努力はしてきた。ただもう限界なんだよ、私の力では。
だから分かってほしい、こうやって契約段階のステップを踏んでる以上、もう君はアマチュアではない。彼女たちも時が来ればきっと分かる・・」


突きつけられる現実、それはこの業界の大人達の正論。それを頭ではいやというほど莢は理解できていた。そこを押し通れるものだと思い込んでいた。いや自分に無理から言い聞かせていたのかもしれない…。









    

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

短編集

かすみ
青春
気まぐれに書く短編集 短編というか、いろいろな場面を集めたようなもの。 恋愛メインになるかも。 何もわかんない人が書いてます。あたたかい目で見ていただけると嬉しいです。 いつかこのひとつの場面から短編でもいいからちゃんとオチまで書いてみたいなって思ってます。 とりあえず思いつくのと書きおこすのに時間がかかるのでひとつの場面、として公開してます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...