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31話・準備
しおりを挟む水の精から会って二ヶ月ちょっとが経ち、召喚術は体力を無駄に消費することも少なくなり、上手く使えるようになった。
あの日、街に散歩に行った日から王太子とは会っていない。
会って散歩に誘われたら断れる自信がないから。
私もすっかり弱くなったものだ。
半年前までは、誘われて断れないなんて事態想像もしなかったから。
きっと当時の私なら話を聞くこともなく、無視していただろう。
あの頃の自分に戻りたいような気もするが、もう戻りたくないような気もする。
私は昼の食事を終え、立ち上がる。
少し魔力を溜め、右手を一振りすると指先から魔法陣が出て来てそこからヴァッサーヌが飛び出して来る。
「久しぶりね、ヴァッサーヌ」
私は小さい女の子の妖精に向かって笑顔を見せる。
ヴァッサーヌは久しぶりの再会に喜んでいる様子だった。
『何で召喚してくれないの?待ちくたびれたわ』
小さく欠伸をしながら普段と同じように私の体の周りをぐるぐる回る。
「少し忙しかったのよ、今日は街に出かけるからね。一緒に行きましょう?」
今日は妹がパーティーな為義母が付き添いで家にいない。
その隙を見て街で買いたいものを買いに行くのだ。
妖精達は自分たちから姿を現そうとしない限りは、他人には見えないらしいので召喚していても差し支えない。
ヴァッサーヌはここ一ヶ月の間、ずっと一緒に外に出たいと言っていたので、一緒に行こうと思い召喚したのだ。
『行く~!ソフィーを危ないものから守る』
ヴァッサーヌは元気よく部屋の中に雨を降らす。
「ヴァッサーヌ、部屋の中に雨を降らすのはやめて頂戴」
少し元気すぎるのが玉に瑕だがなんとか上手くやっていけてる。
『はーい。ソフィー、私美味しいもの食べたい』
「はいはい、何か買ってあげるわね」
私は行く気満々なヴァッサーヌを少し見たあと、自分も準備に取り掛かる。
一回しか人前に出てないとはいえ、前回は目立ってしまったので顔を覚えられているかもしれない。
やっぱり変身魔法は必須だ。
今日もこの前と同じ姿でいいか。
私はゆっくり魔力を込め、見た目を変える。
大人しめの服装を見に纏ったあと、メーリスにだけ出掛ける事を伝える。
家から妹達が出て行った事を確認した後、今も元気に動き回っているヴァッサーヌに面倒ごと起こさないように、と釘を刺した。
ヴァッサーヌが頷いたのを見て、私も頷く。
久しぶりの散歩、楽しまなくちゃね。
私はゆっくり背伸びをした後、お屋敷を出た。
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