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55話・心の変化
しおりを挟むお屋敷に戻った時に、義母に『そのドレス、どこで貰ってきたの!?』とギャンギャン騒がれたが、私は無視して自分から地下に戻った。
あの様子から見ると、きっとメリチェリアのドレスは義母も着た事がないのだろう。
義母の驚いた顔と言ったら、今思い出しても笑える。
欲に塗れた顔で、欲しそうに手を伸ばしていた。
確かに、このドレスはなかなか手に入らないし、すべての女性の憧れかも知れない。
でも、私が嬉しかったのは、王太子が私の事を思って選んでくれていた、という所だった。
勿論、メルチェリアのドレスだったので尚嬉しかったが。
きっと、そこら辺に売っているドレスでも、王太子が私にくれたのならどれも素敵な宝物になるだろう。
この気持ちを、義母に言っても伝わるわけが無いけど。
あの人も、昔は父を愛していたのでは無いか、と思うがもしかしたら違うのかも知れない。
財力を目にして婚約したのかも、知れない。
今になっては、分からないが。
私は、いつか何年後でも良いから王太子に会える日が来ると、少しの希望を持ち生きることのした。
いつになっても良いから。
メーリスにはドレスを脱いだ方がいい、と言われたが脱いでしまうと、義母に盗まれるかもしれないし、着ていると王太子の太陽のような笑顔を思い出すので、今日一日は着ていようと思う。
そういえば、今日帰ってきた時に小耳に挟んだ話だが、どうやら公爵が他の令嬢と結婚した事をとうとう妹は知ったらしい。
嘘をついた私にも怒っていたし、義母も掌を返すように『可哀想に』と言っていた。
私は、あんなワガママな子が公爵の婚約者にならなくて、本当に良かったと思う。
私は今でも後悔していない。
あそこで、上手い嘘がつけて良かったと思っている。
私は少し笑って、配膳された食事を口に放った。
再び太陽のない生活を送り、早一ヶ月が経とうとしている。
時の流れは早いものだ。
こういう風に一生を終えると考えると恐ろしくて仕方がないが、今は頑張って生きるしかない。
そう思っていたので、王太子にあったあの日からなるべく食事は取るようにしていた。
自分が弱ってしまったら、逃げるチャンスも掴めなくなってしまうから。
ここ、というチャンスを見つけたら直ぐに逃げなくては。
そんな事を思い、寝起きの目を擦っていると何やら上の階が騒がしい事に気がついた。
誰かのうるさい声が響いている。
私は身体を伸ばしながら、耳を傾けた。
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