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イルツク 〜再会〜
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この日、“蓮の傘”の店主であるアランは、いつもと同じ日を迎えていた。
朝一番に出発する冒険者や旅人に朝飯を用意し、出て行った客の部屋を空気の入れ替えと掃除に精を出せば、ゆっくりと起きてきた残りの客達とたわいない会話をする。
“蓮の傘”は立地状、冒険者ギルドの側にあるだけあって、客層は冒険者が多く。
仕事の時間が不適期の冒険者にあわせて何時にでも対応できる様に従業員と共に頑張っている。
この日も多くの客を送り出し、もう少しで新たな客が顔を出すだろうと、店先のランプを磨いていた時だった。
「親父さん。久しぶりだ。
俺の事は覚えているかい?」
通りからの声にアランが振り返れば、馬車の御者席から見覚えのある男が見下ろしていた。
「おぉ、なんだ。
ヒューゴさんじゃないか。
また、イルツクで仕事かい?」
このイルツクの街にSランク冒険者が来るのは珍しい。
爽やかな笑顔を見せる男・・・ヒューゴにアランは手を上げて挨拶をした。
「あぁ、そうなんだ。
今回は家族も一緒なんだ。
“蓮の傘”で1部屋空いてないかと思って来たんだが、どうだろう?」
ヒューゴが振り返れば、馬車から子供達が一斉に笑顔で顔を出した。
「これはこれは大所帯で!
あの時の子達だろう?
大きくなって。」
あの時以来、ヒューゴがイルツクに来る時はいつも1人だった。
滞在中はアランと楽しそうに家族の話をしていたヒューゴ。
思い出すように懐かしそうに顔を綻ばすアランに子供達がハニ噛んでいる。
すると馬車の後ろから、真っ白な子狼を抱いた真っ黒な姿の青年が姿を見せた。
「お久しぶりです。
以前はお世話になりました。」
アランは唐突の再会に目を丸くした。
ーーー数年前のあの日。
“エルフの里の戦士”がイルツクの“深淵のダンジョン”に現れたあの時、イルツクの街は恐怖に包まれていた。
旅人や冒険者から“エルフの里の戦士”が各地でダンジョンを壊していると聞いていたアランは「ついにイルツクにも・・・。」と頭を抱えたものだった。
イルツクの“深淵のダンジョン”を目指す多くの冒険者達。
彼らが訪れる事で潤うイルツクの街の商売人達。
冒険者も旅商人も観光客も寄り付かなくなった閑古鳥のイルツクの街・・・。
“深淵のダンジョン”がなくなるかも分からない。
そして、“エルフの里の戦士”がイルツクの街を襲いに来るかもしれない恐怖。
そんな中に現れた真っ黒な衣装を身に纏った青年。
各地から募った冒険者の中において、イルツクの領主アナスタシア・ギロック伯爵が藁にも縋る想いでポーレット公爵に救援を求め、駆けつけてくれたSランク冒険者。
見事、“深淵のダンジョン”に潜り込んだ“エルフの里の戦士”を拘束し問題を解決した青年。
ーーー“黒狼”
時折、宿泊客から流れてくる噂で大怪我って意思不明やら、姿を見せないから行方不明だとか不確かな情報が耳に入っていた。
たまに姿を見せるヒューゴも青年に関しては顔を曇らせていた事もあった。
今も、あの時にはなかった眼帯で右目を覆っているが、記憶にある変わらぬ穏やかな笑顔にアランは溢れそうになる涙を押し止め、何度も頷きニカッと笑った。
「従魔も含めて全員同じ部屋で良いなら安くするよ。
部屋にはトイレも風呂もついている。
飯代は別だが1日1人銀貨1枚で銀貨6枚と従魔達の分の銀貨1枚合わせて銀貨7枚でどうだい?」
以前と全く同じ言葉に青年・・・イオリは困った様に笑った。
「安すぎませんか?」
すると、アランは記憶よりも若過ぎるイオリの頭に優しく手を置いた。
「恩人にはサービスするもんだ。」
※※※※※ ※※※※※
書籍化第4巻宜しくお願いします!
コミカライズも第2巻が書籍化されました!是非、ご覧下さい。
朝一番に出発する冒険者や旅人に朝飯を用意し、出て行った客の部屋を空気の入れ替えと掃除に精を出せば、ゆっくりと起きてきた残りの客達とたわいない会話をする。
“蓮の傘”は立地状、冒険者ギルドの側にあるだけあって、客層は冒険者が多く。
仕事の時間が不適期の冒険者にあわせて何時にでも対応できる様に従業員と共に頑張っている。
この日も多くの客を送り出し、もう少しで新たな客が顔を出すだろうと、店先のランプを磨いていた時だった。
「親父さん。久しぶりだ。
俺の事は覚えているかい?」
通りからの声にアランが振り返れば、馬車の御者席から見覚えのある男が見下ろしていた。
「おぉ、なんだ。
ヒューゴさんじゃないか。
また、イルツクで仕事かい?」
このイルツクの街にSランク冒険者が来るのは珍しい。
爽やかな笑顔を見せる男・・・ヒューゴにアランは手を上げて挨拶をした。
「あぁ、そうなんだ。
今回は家族も一緒なんだ。
“蓮の傘”で1部屋空いてないかと思って来たんだが、どうだろう?」
ヒューゴが振り返れば、馬車から子供達が一斉に笑顔で顔を出した。
「これはこれは大所帯で!
あの時の子達だろう?
大きくなって。」
あの時以来、ヒューゴがイルツクに来る時はいつも1人だった。
滞在中はアランと楽しそうに家族の話をしていたヒューゴ。
思い出すように懐かしそうに顔を綻ばすアランに子供達がハニ噛んでいる。
すると馬車の後ろから、真っ白な子狼を抱いた真っ黒な姿の青年が姿を見せた。
「お久しぶりです。
以前はお世話になりました。」
アランは唐突の再会に目を丸くした。
ーーー数年前のあの日。
“エルフの里の戦士”がイルツクの“深淵のダンジョン”に現れたあの時、イルツクの街は恐怖に包まれていた。
旅人や冒険者から“エルフの里の戦士”が各地でダンジョンを壊していると聞いていたアランは「ついにイルツクにも・・・。」と頭を抱えたものだった。
イルツクの“深淵のダンジョン”を目指す多くの冒険者達。
彼らが訪れる事で潤うイルツクの街の商売人達。
冒険者も旅商人も観光客も寄り付かなくなった閑古鳥のイルツクの街・・・。
“深淵のダンジョン”がなくなるかも分からない。
そして、“エルフの里の戦士”がイルツクの街を襲いに来るかもしれない恐怖。
そんな中に現れた真っ黒な衣装を身に纏った青年。
各地から募った冒険者の中において、イルツクの領主アナスタシア・ギロック伯爵が藁にも縋る想いでポーレット公爵に救援を求め、駆けつけてくれたSランク冒険者。
見事、“深淵のダンジョン”に潜り込んだ“エルフの里の戦士”を拘束し問題を解決した青年。
ーーー“黒狼”
時折、宿泊客から流れてくる噂で大怪我って意思不明やら、姿を見せないから行方不明だとか不確かな情報が耳に入っていた。
たまに姿を見せるヒューゴも青年に関しては顔を曇らせていた事もあった。
今も、あの時にはなかった眼帯で右目を覆っているが、記憶にある変わらぬ穏やかな笑顔にアランは溢れそうになる涙を押し止め、何度も頷きニカッと笑った。
「従魔も含めて全員同じ部屋で良いなら安くするよ。
部屋にはトイレも風呂もついている。
飯代は別だが1日1人銀貨1枚で銀貨6枚と従魔達の分の銀貨1枚合わせて銀貨7枚でどうだい?」
以前と全く同じ言葉に青年・・・イオリは困った様に笑った。
「安すぎませんか?」
すると、アランは記憶よりも若過ぎるイオリの頭に優しく手を置いた。
「恩人にはサービスするもんだ。」
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