続々・拾ったものは大切に大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

文字の大きさ
405 / 453
旅路 〜ダグスクへ〜

403

「潮目が変わってきたかね。」

 老婆は入り江の先端から海を見つめて呟いた。

「婆ちゃん!
 こんな所にいたのか?
 風が強くなってきたから家に帰ろう。」

 迎えに来た孫息子に老婆は顔を顰めた。

「人を年寄り扱いするんじゃないよ。」

「しっかりババアじゃねぇか。
 入り江が荒んでる時は、沖合はもっと酷い。
 船出してる連中も急いで帰ってくるさ。」

 老婆はもう一度海に視線を向けると頷いた。

「あぁ、帰ろうね。」

 差し出された孫息子の手を老婆はしっかりと握った。

「今よ。
 グラトニーのアクセルが工場に来てるんだよ。」

「納品は今朝済ませたはずだろう?
 何ぞ誤りでもあったかね?」

「いや、わかんねぇ。
 婆ちゃんに会いに来たみたいだ。」

「ふむ・・・。」

 老婆は考え込むと、古びた家に戻ってきた。

「あっ。
 エナ婆ちゃん。お帰りなさい。
 お邪魔しています。」

 爽やかな笑顔で迎え出た青年に老婆・・・エナ婆ちゃんは微笑んだ。

「坊ちゃんよ。
 何ぞ誤りでもあったかい?」

 孫息子のディスに支えられて椅子に座るとグラトニー商会の坊ちゃん事、アクセルに顔を向けた。

「いいえ。
 今朝、グラトニーに納品頂いた乾物は確認を終え無事、旅団が王都を筆頭に各地に出発して行きました。
 お伺いしたのは、お伝えする事があって来たんですよ。」

「話が見えないね。
 何をだい?」

 分からないと首を傾げるのはエナ婆ちゃんだけじゃなく、大人しく聞いていた孫息子のディスも同じだった。

「さっき、塩の生産量についての話し合いで公爵様にお会いしていたんです。」

 彼等が言うところの公爵は、自分達の領主であるオーウェン・ダグスクの事だ。
 
 両親との死別を経て若くして爵位を受け継いだオーウェンの苦労は街の住人達の知るとろこだ。
 奮闘する若き領主の努力を知る街の住人達は皆、彼に好意的だ。

「領主様がどうしたね?」

「イオリさんがダグスクに来るんですって!
 今日、イルツクの街を出たから2~3週間は掛かるだろうけれど確実にダグスクに向かってるそうです。
 エナ婆ちゃんに教えてあげてくれって、公爵様に言われて来たんです。」

 それを聞いた孫息子のディスは喜びを隠さずにガッツポーズをした。

「マジかよ!
 良かったな!婆ちゃん。」

 アクセルの報告を聞いたエナ婆ちゃんは安堵するように息を吐いた。

「元気とは聞いていたけれど、旅も出来るように御成なさったんだね。
 良かった。良かったよ。
 ・・・そうかい。あの子がダグスクに。」

 エナ婆ちゃんが喜んでいるのを囲むアクセルとディスも微笑むのだった。


 その頃、噂の人物は・・・。

「前方からコボルトの群れが来るぞ!」

 ヒューゴの叫びに子供達が外に顔を出す。

「うわぁ。ヨダレ飛び散らかせてる。」

「犬っぽくてもコボルトって可愛くないよね・・・。」

「持ってる棒で叩かれたら痛そう。」

「それよりも噛みつかれたら最悪。」

 イヤイヤと首を振る子供達に微笑むと、イオリは真っ黒なコートを翻して馬車の屋根に登った。

「ヒューゴさん。アウラ。
 そのまま直進して下さい。
 眠薬で対処します。」

 イオリは斜め掛け鞄からパチンコと小袋を出すと前方を狙い構える。

「おい・・・ちょっと待て。
 それじゃ、俺たちまで巻き込まれるんじゃないか!?」

「あっ。」

 ヒューゴが叫ぶやいなや飛ばされた眠り薬。
 見事に命中し、コボルトの群れを包む煙が盛大に周囲に広がっていく。
 その中は小さな馬車が突っ込んでいく・・・。


※※※※※ ※※※※※

書籍化第5巻宜しくお願いします。
投稿版、そしてコミカライズも是非、お楽しみ下さい。

あなたにおすすめの小説

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

【完結】能力が無くても聖女ですか?

天冨 七緒
恋愛
孤児院で育ったケイトリーン。 十二歳になった時特殊な能力が開花し、体調を崩していた王妃を治療する事に… 無事に王妃を完治させ、聖女と呼ばれるようになっていたが王妃の治癒と引き換えに能力を使い果たしてしまった。能力を失ったにも関わらず国王はケイトリーンを王子の婚約者に決定した。 周囲は国王の命令だと我慢する日々。 だが国王が崩御したことで、王子は周囲の「能力の無くなった聖女との婚約を今すぐにでも解消すべき」と押され婚約を解消に… 行く宛もないが婚約解消されたのでケイトリーンは王宮を去る事に…門を抜け歩いて城を後にすると突然足元に魔方陣が現れ光に包まれる… 「おぉー聖女様ぁ」 眩い光が落ち着くと歓声と共に周囲に沢山の人に迎えられていた。ケイトリーンは見知らぬ国の聖女として召喚されてしまっていた… タイトル変更しました 召喚されましたが聖女様ではありません…私は聖女様の世話係です

【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】  竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。  竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。  だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。 ──ある日、スオウに番が現れるまでは。 全8話。 ※他サイトで同時公開しています。 ※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

私から略奪婚した妹が泣いて帰って来たけど全力で無視します。大公様との結婚準備で忙しい~忙しいぃ~♪

百谷シカ
恋愛
身勝手な理由で泣いて帰ってきた妹エセル。 でも、この子、私から婚約者を奪っておいて、どの面下げて帰ってきたのだろう。 誰も構ってくれない、慰めてくれないと泣き喚くエセル。 両親はひたすらに妹をスルー。 「お黙りなさい、エセル。今はヘレンの結婚準備で忙しいの!」 「お姉様なんかほっとけばいいじゃない!!」 無理よ。 だって私、大公様の妻になるんだもの。 大忙しよ。