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1.魔法学院1年生

(10).規格外の才能

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 陛下との打ち合わせを終え、自宅の屋敷に戻ったハロルドは家令のマルクから1枚の手紙を受け取る。
 宛名はフィンシェイズ魔法学院教授デニス。学院で実技の教師を受け持つ後輩からだった。

 頻繁に連絡を取り合う仲ではない。
表からは特に緊急性は感じられず、中身へと目を通す。


(無詠唱、多種属性、精霊の召喚…これは事実なのか?ソフィアが??)

 手紙にはここ数ヶ月の学院でのソフィアの様子が書かれていた。
 こんな優秀な娘さんなら、事前に知らせて下さっても良かったのにと告げてくるデニスの文章からは、少なからず驚きと興奮が伝わってくる。
 常識的に考えても信じられないことばかりである。
 私の娘が…?と、どこか他人事のように感じてしまうハロルドは、もっと詳しく聞こうと思い息子に連絡する。

 ソフィアの事だと前置きしたのが良かったのだろう。飛ぶように帰宅した息子アルフレッドに呆れてしまう。


「普段もそれくらい早く応じて貰えると助かるのだがな。」
「嫌味くらいは受け取りましょう。ソフィアのこと以外でこの速さはあり得ませんから。」


 なんとも憎たらしい返しである。
 研究の手を止めるのに普段はこの何倍もの時間を要していたアルフレッドは、父に向かって笑顔で応える。
 デニスからの手紙を見せると嬉しそうに読み始めた。


「順調な学院生活のようですね。ソフィアは天才ですから。」


読み終わるととびっきりの笑顔を見せて告げてきた息子にハロルドはため息をついてしまう。


「すべて事実なのだな…」
「 勿論です。ソフィアは3歳の頃には風火水土どれも使えてましたからね。今更ですよ。僕としては父上が知らなかった事に驚きです。」

「クロエがいなくなってから魔法師団も落ち着かなかったからな。家に戻るのも惜しいと、切り詰めていたんだよ。お前の事はまだ家庭教師から聞いていたけど、ソフィアについてはさっぱり。その頃はマルクもエマもいなかったし、寂しい思いをさせていたと思う…。」

「放置でしたもんね。それについては僕も同罪です。幼いソフィーの姿を見て驚きました。当時既に僕よりも魔法の扱いに慣れてましたよ。書斎にある父上の本を片っ端から読んでは試し、と繰り返してたそうです。あの子は魔力も多いですからね。子どもらしい遊びは全く知らない癖に、魔法では遊んでたようなので、今の状況は割と想像つきますよ。あのメイドに騙されて起きた恩恵でしょうかね。」

 
 
 当時を思い出しながらアルフレッドは言う。
 ソフィアとの仲を取り戻してからはよく遊んでいたし、学院に入ってからはノアを通して手紙のやり取りをしていた。
 マルクやエマからの報告も聞いていて、大体のソフィアの近況は理解しているつもりである。


「不安はないのか?」
「父上の保護魔法に敵う相手も早々いないでしょう。本人もひ弱ではないですし。いつも一緒にいるフクロウいるでしょ?あれ只者じゃないですよ。いつの間にやらソフィーと一緒に遊んでましたけど、アレ、小さいくせにオーラがすごいです。まだ只のフクロウってしか分からないんですけど、今回のことで精霊も味方につけて、みんなソフィーの守護者なので心配ないかと。」

「そうか…気になるコトが多すぎるな。私が知らないだけであの子の周りはすごいと…今度の休みに帰って来た時に確認してみよう。」

我が子は大丈夫なのか、ハロルドの不安は尽きないが、アルフレッドがこう言う以上は大丈夫なのだろう。



 後の執務室にて、ハロルドは家令のマルクとメイド長エマと向かい合う。


「お前達が知るソフィアはどんな子だ?」

突然の質問にマルク達は戸惑う。


「どんな、とは?お嬢様に何かありましたか?」
「学院で何か問題でも?」


二人にデニスからの手紙を簡単に伝えると、納得したように微笑む。


「お嬢様は旦那様の書斎の本をすべて網羅されておられます。私がお聞きした時には、力や体力で負ける分、知識では負けたくないと張り切っておられました。」
「森でも屋敷でも一緒に魔法で遊んでましたからね。アル様が学院に行かれてからは特に。」


(アルフレッドがいない時?何のことだ?)

話を聞きながら不可解な表情になる当主を見て2人は揃ってため息をつく。


「旦那様、これからはもっとお嬢様とお話されますようお勧めします。父親として失格ですよ。」
「小さい頃の記憶で止まってませんか?食事中にお嬢様の顔見て固まってるようじゃダメですね。」


あまりの言われように頭を抱えたくなる。

「詳しく教えてくれ。」


「ソフィー様はアル様が学院に行かれた当時、裏の森によく出かけておられました。ある日小さなフクロウを抱えて戻って来られたのですが、それがノアです。ソフィー様の頼みでアルフレッド様にはまだ内緒にしてますが、ノアは只のフクロウではなく、話もできますし、魔法も使えます。」

「始めの頃は森で1人とは危険ですし、私達も交代で付いてたんです。ソフィー様に見つからないようにしていたのですが、ノアはきっと気づいてましたね。私がいる方向を避けて動いていたので。」

「私もそう思います。2人は遊んでいるだけなんですが、追いかけっこで身体強化したり、かくれんぼでは目眩しや擬態を使ったりと、遊びに魔法が混じるんです。様子を見る限り、ノアが助言しているみたいで」

「ソフィー様が無茶してもノアが止めている様子を見て、護衛なしで森で遊ぶ許可を当主様にお願いしたのです。とても楽しそうにしておられて、表情も豊かで、ノアはソフィー様にとってとても良い遊び相手なのだと思いました。」


「聞く限りはそのようだな。会うのが楽しみだ。」


 娘の遊び相手でもあり、護衛でもあり、指導者でもある。その魔法も使えるフクロウはいったい何者なんだろうか…ハロルドは考えに没頭するのであった。
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