上 下
59 / 86
3.魔法学院3年生 前編

(58).計画と精霊召喚

しおりを挟む
 王太子妃教育の日、クレイグを伴い離宮につくと、皇后の側にはランベールがいた。


「しばらく会えてなかったからね、無理を言って参加させてもらったんだ。」

「ふふっ。陛下から話は聞いたわ。学院主体でも卒業生の協力も必要でしょう?ソフィアちゃんの提案らしいけど、貴方にとっても良い練習になるわ。どの規模にするのか、招待状の出し方とか相談にのるわ。」

「ありがとうございます。」


 心強い味方を2人も得たことで、ソフィアの気持ちはだいぶ楽になった。
 留学生にとっての社交の練習という今回の趣旨を伝えると、皇后は招待状リストの添削を始めた。



「彼らの国はまだ発展途上よ。あまり広域にしすぎると負担になるわ。商業に特化している中級貴族中心に、上位貴族は人を見る必要があるわ。王家に首を垂れても、よその国はバカにする人たちは呼ばなくて結構。争いの元になるからね。」


(うぉーすごい。あっという間にリストが出来上がってく。)


「人を見る目が問われるよね。夜会の度に更新されていくから僕が思うのともまた違う。」

「今回呼ばれるのは学生と卒業生でしょ?親がダメでも子どもは大丈夫って思うなら入れて大丈夫よ。」

「なら、こことここ。ここは大丈夫ですね。フィーの下の学年に子どもがいる家は大丈夫。」

「なるほどね。学院でソフィアちゃんの味方なら将来有望だゎ。」

「味方というか、信者?クレイグの仲間だよね。」


突然話をふられて焦っているが、リストの名前を見て笑顔で答える。


「同士ですね。自主練仲間です。」

「そ。自主練に参加してる子たちはフィーを崇拝してるから大丈夫。」


(本人蚊帳の外で、好き勝手言われているような?んでも、確かにこの子たちはクレイグみたいに話しかけてくれてるし悪い印象ないわ。)


そうこうしているうちにリストは完成。
会場や当日のスケジュール、護衛の話になる。


「交流がメインだから、立食パーティーね。軽食中心にシェフに頼みましょ。若者ばかりだからお酒は控えめに。ジュースやカクテル系を充実させましょ。」

「ダンスばかりじゃ疲れちゃうので、ゲームの時間があっても良いかも?有志で司会者募れば学生同士で盛り上がるでしょうし。」

「いいね。イベント案は学生にアンケートで募っても良いかもね?良い案が出るかも。」

「会場は学院の講堂のみにすれば警備は重点的に出来るわ。王族と留学生の周りにしっかり配置しておけばあとは避難経路しっかりしてれば問題なしよ。」


 次々と話が進み、形になっていく。
 護衛として話を聞くだけのクレイグは他3人の会話を聞きながら尊敬の念を増やしていた。考えている視点が自分とは違う。
 それぞれの意見を反映しながら話を膨らませている皇后の手腕と他2人のアイディア。この人たちの国で生まれ育って良かったと心から思う。



「こんなもんかしら。あとは学生の意見を聞いてからね。」

「企画するのも楽しいですね。楽しみになってきました。」

(リスクマネジメントはこっちの仕事。アルと詰めないとな。)



 その頃、学院では1年生恒例、精霊召喚の実技の時間だった。デニス教授が見守る中、生徒が順番に召喚術を試していく。
 リュディガーは火の精霊を呼び出していた。小さなトカゲのような見た目のサラマンダー。相性が良かったようで、既に会話をしている。
 イアンは風の精霊。キレイなインコのような鳥を手に留め撫でている。

 順調に精霊との結びつきが進む中、デニスが期待しているダレンの番がきた。魔力も実力も十分。ソフィアのような複数の契約や、人型も夢ではない。
 ワクワクして様子を見守っていると召喚陣が光りだす。中にはダレンより小さな少年と少女が立っていた。
 ニコニコしてダレンと手を繋ぐ様子はまるで兄妹のようである。魔力質で調べると雷の精霊と雨の精霊のようである。
 通常の属性ではなく、複合型で人型、ソフィア以来の成功パターンにデニスは感激していた。ダレンが魔法を試していると、雷は光や音の役割も出来、雨は水や風の役割もできる。使いようによっては4属性、いや、組み合わせではそれ以上にも。
 陛下に報告せねば、と授業を終え、デニスは早々に立ち去るのだった。



 訓練場横の木の上ではノアが様子を見ていた。
 留学生たちの様子をソフィアに報告する役目もある。ダレンに対する違和感も気になり、様子をじっと見ていた。

 何となく、魔力の質が自分たち番人に似ている気がしてならない。新たな番人なのか、創造主か?しばらく平和に過ごしていたノアは用心深く見つめる。
 ふと、訓練場にいるダレンと目が合ったような気がした。ノアが目を凝らすとダレンは精霊たちと話をしており、こちらは見ていないようだった。
 だいぶ距離があり、気のせいだろうと思い、中庭へと向かう。飛び立つフクロウの遠い背中を、訓練場のダレンと精霊たちの視線が追っていく。
しおりを挟む

処理中です...