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[0] 瑠衣は朋を呼ぶ
[Fragment A]
※以後瑠衣ちゃん視点で話が進みます。
九条 須斗羅が死んだ。
不死の存在「形成者」であるはずの九条 贄知の不審死に続いて半年経たずに息子が亡くなった事は、世間を騒然とさせ、連日ニュースで報じられた。
「あいつ、試験前にあんなに丁寧にノート貸してくれたのに」
「ストラくん、いつもニコニコして話を聞いてくれたのに」
お葬式の席で聞こえてくる静かな声、そしてすすり泣きの連鎖。
ああ、彼はこんなにも多くの人に愛されてたんだ。
「……人付き合いの悪い双子の兄と違い、大学の友人を含め多くの人が彼の死を悼んだ」
「安住姉、何で語り役のような台詞を?
あと断っておくが、オレは人付き合いが悪いのではなく、無駄な友人関係を排除しているだけだ」
「と巨乳愛好者は、意味不明の供述をしており動機は不明……」
「いい加減、その認識は止めてくれ。
流石に怒るぞ、と言うか泣くぞ?」
お姉ちゃんの弦と、ストラ君の双子のお兄さんの津阿羅さん。
彼らが漫才のような会話をしているのは、落ち込んでいるアタシを慰めようとしているからかもしれない。
お姉ちゃんがアタシより胸が小さい事を気にしてるのと、お兄さんが胸の大きい女性に鼻の下を伸ばして以降ずっとネタにされているのは事実だけど。
「瑠衣、弟君に最後のお別れを」
不意にお姉ちゃんが真顔になり、アタシに言う。
「あ、うん」
考え事してる場合じゃない。
ちゃんとお別れしないと。
アタシは彼の眠る棺に近づいて……
あ、やばい……発動っちゃう。
アタシは慌てて、目を閉じる。
「両目が金褐色になった状態」を周囲に気づかれないように。
そして、その場にしゃがみ込む。
「……瑠衣?」
「ごめん、ちょっと待ってて」
「う、うん」
お姉ちゃんは多分、私が悲しみのせいでうずくまったと思っているだろう。
だとしたら申し訳ないけど、好都合だ。
そして、ああ……そうだったんだ。
私には視えた、視えてしまった。
━━ここにいるストラ君が、本物ではないと。
かつて自分の能力を制御出来ないストラ君と、アタシは一緒に訓練をした。
その結果彼の、見えない物が視える能力をちょっぴり継承したのだ。
そしてソレの発動が、ここにいるのがニセモノであると告げている。
さて、能力がようやく治まったようだ。
視界が真っ暗になったのを確認して、目を開いて立ちあがる。
そして私はニセモノの遺体に両手を合わせると、再びお葬式に集まった列の中に戻る。
その際、津阿羅お兄さんと一瞬だけ目が合った。
弟を失った絶望に沈んでいるはずの彼の氷蒼色の左の目が、私の「金褐色の残光」を、あるいは「しゃがみ込んだ不自然さ」を、天秤にかけるようにじっと見つめている気がした。
お兄さんには、まだ言えない。
そもそも私の能力はまだお姉ちゃんやパパにも伝えていない。
かつてアタシは、あの九条の館で、ニセモノと言え手に入れた能力を安易にひけらかして多くの人に迷惑をかけた。
今度は同じ失敗をしないように、そう思ったんだ。
「……瑠衣、ちょっといいかな?」
列に戻った時に、そう声をかけてきたのは朤月 朋。
ポニーテールが凛々しいアタシの親友で、空手家にしてバーチャルライバーという二つの顔を持つ女性だ。
「ストラクンの事お悔やみ申し訳あげる……と言いたい所だが」
流石は朋ちゃん、もう察したらしい。
アタシよりずっと頭の良い彼女にだけは、能力の事を教えてあるのだ。
「……ワタシは何をしたらいいかな?
本物の双子弟を探すんだよな」
まっすぐな瞳で、朋ちゃんがアタシにそう言うのだった。
【用語解説:ポルックス】
ふたご座のβ星。α星のカストルとセットで双子の星の扱いとなっている。
ギリシャ神話ではスパルタ王妃レーダーとテュンダレオースの間に双子として生まれ、兄のカストルの死亡と共に天に登ったとされている。
九条 須斗羅が死んだ。
不死の存在「形成者」であるはずの九条 贄知の不審死に続いて半年経たずに息子が亡くなった事は、世間を騒然とさせ、連日ニュースで報じられた。
「あいつ、試験前にあんなに丁寧にノート貸してくれたのに」
「ストラくん、いつもニコニコして話を聞いてくれたのに」
お葬式の席で聞こえてくる静かな声、そしてすすり泣きの連鎖。
ああ、彼はこんなにも多くの人に愛されてたんだ。
「……人付き合いの悪い双子の兄と違い、大学の友人を含め多くの人が彼の死を悼んだ」
「安住姉、何で語り役のような台詞を?
あと断っておくが、オレは人付き合いが悪いのではなく、無駄な友人関係を排除しているだけだ」
「と巨乳愛好者は、意味不明の供述をしており動機は不明……」
「いい加減、その認識は止めてくれ。
流石に怒るぞ、と言うか泣くぞ?」
お姉ちゃんの弦と、ストラ君の双子のお兄さんの津阿羅さん。
彼らが漫才のような会話をしているのは、落ち込んでいるアタシを慰めようとしているからかもしれない。
お姉ちゃんがアタシより胸が小さい事を気にしてるのと、お兄さんが胸の大きい女性に鼻の下を伸ばして以降ずっとネタにされているのは事実だけど。
「瑠衣、弟君に最後のお別れを」
不意にお姉ちゃんが真顔になり、アタシに言う。
「あ、うん」
考え事してる場合じゃない。
ちゃんとお別れしないと。
アタシは彼の眠る棺に近づいて……
あ、やばい……発動っちゃう。
アタシは慌てて、目を閉じる。
「両目が金褐色になった状態」を周囲に気づかれないように。
そして、その場にしゃがみ込む。
「……瑠衣?」
「ごめん、ちょっと待ってて」
「う、うん」
お姉ちゃんは多分、私が悲しみのせいでうずくまったと思っているだろう。
だとしたら申し訳ないけど、好都合だ。
そして、ああ……そうだったんだ。
私には視えた、視えてしまった。
━━ここにいるストラ君が、本物ではないと。
かつて自分の能力を制御出来ないストラ君と、アタシは一緒に訓練をした。
その結果彼の、見えない物が視える能力をちょっぴり継承したのだ。
そしてソレの発動が、ここにいるのがニセモノであると告げている。
さて、能力がようやく治まったようだ。
視界が真っ暗になったのを確認して、目を開いて立ちあがる。
そして私はニセモノの遺体に両手を合わせると、再びお葬式に集まった列の中に戻る。
その際、津阿羅お兄さんと一瞬だけ目が合った。
弟を失った絶望に沈んでいるはずの彼の氷蒼色の左の目が、私の「金褐色の残光」を、あるいは「しゃがみ込んだ不自然さ」を、天秤にかけるようにじっと見つめている気がした。
お兄さんには、まだ言えない。
そもそも私の能力はまだお姉ちゃんやパパにも伝えていない。
かつてアタシは、あの九条の館で、ニセモノと言え手に入れた能力を安易にひけらかして多くの人に迷惑をかけた。
今度は同じ失敗をしないように、そう思ったんだ。
「……瑠衣、ちょっといいかな?」
列に戻った時に、そう声をかけてきたのは朤月 朋。
ポニーテールが凛々しいアタシの親友で、空手家にしてバーチャルライバーという二つの顔を持つ女性だ。
「ストラクンの事お悔やみ申し訳あげる……と言いたい所だが」
流石は朋ちゃん、もう察したらしい。
アタシよりずっと頭の良い彼女にだけは、能力の事を教えてあるのだ。
「……ワタシは何をしたらいいかな?
本物の双子弟を探すんだよな」
まっすぐな瞳で、朋ちゃんがアタシにそう言うのだった。
【用語解説:ポルックス】
ふたご座のβ星。α星のカストルとセットで双子の星の扱いとなっている。
ギリシャ神話ではスパルタ王妃レーダーとテュンダレオースの間に双子として生まれ、兄のカストルの死亡と共に天に登ったとされている。
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