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21話 一つのベッドで(エロではありません)


 食事も終わり、扉で移動して入浴も終えた。

 お風呂ではあちこちの傷が染みたが、それが私を現実に繋ぎ止めてくれた。
 一人になると、呻き声も助けてと言う声も大きくなったのだ。抱き締めていたはずなのに、どんどん消えていく感覚もまだ鮮明だ。


「白樹、いつ寝に行くの?」

 何故か白樹が部屋に帰らない。ストライプ柄のソファでくつろいでいる。

「今日はここで寝る」
「……はい?」

 幻聴だろうか。白樹がここで寝ると言った気がする。

「今日は真理花と寝る。手は出さないから安心しろ」
「……私とって、このベッドで寝るの?」

 私が使わせてもらっているベッドは広い。白樹と二人で寝ても余裕がある。 
 でもね、同じベッドだよ? 手は出さないって言ってくれたけど、同じベッドってありなの? あ、一応夫婦だからありなのか? 
 でも、だって、と頭の中で自問自答していれば、ひょいっと白樹に抱っこされてベッドへと運ばれてしまった。

「……白樹は抱っこするの好きだよね」
「好きな女に触れたいのは当然だろ? ほら、寝るぞ」

 白樹は私の口元まですっぽりと布団をかけると、自身もまた布団に潜る。そして、私を優しい力で抱きしめた。

 白樹の好きな女に触れたい発言と、簡単に逃げ出せてしまうほどの優しい腕に動悸どうきが止まらない。

「俺が部屋に帰ったら、真理花は寝ないだろ?」
「そんなことない」

 寝るつもりはある。けれど、目を閉じるとまぶたの裏によみがえる光景に、まだ眠れそうもない。
 だから、もう少しだけ組紐を編もうかと思っているだけ。

「私、もう少し起きているから、白樹は部屋に帰ってゆっくり休んで?」
「嫌だ。今日は真理花と寝ると決めた。一緒にいて欲しいと言っただろ?」

 少し口を尖らせて言う姿は、拗ねているみたいでちょっと可愛い。

「でも、まだ私は寝ないから。白樹にはゆっくり休んで欲しいな」
「真理花と一緒にいたい。駄目か?」
「……だめじゃないけど」

 その聞き方はずるいと思う。好きな人にそう聞かれてだめだと言える人っているの? 私には無理だ。

「眠くなったら寝る。俺のことは気にするな」

 優しく私の頭を撫でたあと、その手はゆっくりと私から離れていった。

 ちりーん、という風鈴の音とともに三十センチないくらいの扉が現れる。そこを開けて白樹は一冊の本を取り出すと、ぱらりとページをめくった。

 一緒にいたいと言ってくれてるけど、本当は心配で一緒にいてくれてるんだろうな……。心配だからと言えば、私が大丈夫だと突っぱねるから。

 ありがとう。

 心の中で何度目か分からないお礼を言って、私も組紐を編む。だが、糸がすぐに足りなくなってしまった。

「白樹、糸ってさっきの小さい扉みたいなのから出せる?」

 本から視線を上げた白樹と視線が交わった時、ちりーんという音とともに小さな扉が現れた。扉を開いてくれ、そこには糸があったのだが……。

「少ないな」
「少ないね」

 私が大量に使ってしまったせいだろう。糸がほとんどない。

「明日、買いに行くか」
「えっ?」

 今、誘われた? いや、一人で行く感じかもしれない。独り言という線も捨てきれな──。

「ついでに街を見て、昼食もとろう。まだ街を案内していなかったな」
「……討伐は?」

 また明朝に討伐に行くと言っていたはずだ。

「休みになった」
「そんなこと、あります?」
「何で敬語なんだ?」

 可笑しそうに白樹は笑うが、私の頭の中は疑問でいっぱいだ。
 凶暴化した獣を放っておけば大変なことになる。それは私よりも白樹の方が分かっているはずだし……。 

「凶暴化した獣は善と悪がいれば倒せる。今は新たな報告もない」
「そうなんだ」

 あれ? それなら何で討伐に行くことになっていたんだろう。そんな私の疑問を表情から感じてくれたらしく、白樹が言葉を付け足してくれる。
 最近は言葉が足らなくて分からないことも随分と減った。

「毎日、森の方から凶暴化した獣の報告が上がる。だから、朝から森にいるんだ」
「そうなんだ。……それなら、明日も森に行った方がいいじゃないの?」

「……ドクターに怒られた」
「えっ?」

 ドクターに? 何で? 

「働きすぎだそうだ。善と悪でも倒せるのだから、たまには休めと言われてしまった」

 それで明日がお休みなわけか。確かにここ最近は討伐ばかりだったもんね。

「私が森に行くのはありかな? 白樹の代わりに行って、浄化を──」
「駄目だ!! 真理花、明日はおとなしく俺と出掛けろ」
「えっ、でも……」

 白樹が休みなら余計に大変だし、浄化ができた方がいい気がするけど。
 それに、私は絶対に浄化をしなくちゃいけない。

「言い方は悪いが、真理花を守るのにも人員がいる」

 あ、そうか。そうだよね。
 浄化ができるというだけで、戦闘経験はない。武術の経験もない。足手まといになる未来しかないのか。
 絶対についていくと勝手に決めたけど、私が行くことで困ることもあるんだよね。

「真理花の今の仕事は組紐を編むことだろ? まずは糸を買いにいこう」
「分かった。無理言って、ごめんね」

「いや。真理花が皆のためを想ってくれているのに、すまない。でも、俺は嬉しいんだ。明日は真理花と出掛けられる。そのことか嬉しくて仕方がない。真理花は違うのか?」

 またそういう言い方!! そんなこと言われたら、嬉しいに決まってる。

「私も、嬉しいよ」

 こんなに幸せでいいのかと思うくらいに。 

「明日、楽しみだな。嫌という程、編むことになるかもしれないぞ」

 からかうような口調で白樹は言う。けれど、本当に嫌という程の数が必要なのだ。
 まずは組紐をたくさん編むのが最優先。討伐に着いていくのは、もう少し先になりそうだ。
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