番なんて要らない

桜 晴樹

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プロローグ

出会い

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俺、ひいらぎあおいは男Ωオメガだ。
いつかは番を探さねばならない。
Ωに生まれた者は、αアルファの人間と交わり、子を成すのがこの世界の常識だ。
だが、俺は発情期ヒートは嫌だし、αも嫌いなんだ。
俺の周りのαは傲慢な奴が多い。そんな傲慢不遜なαと一緒になりたくない。
ひっそりと一人・・でいる事が出来ないのか。
そう思う事は、この世界では常識外れな事だろうけれど、どうしてもそういう風に思ってしまう。
それに、そういう意味で肌を交わるのは、男女問わず気持ち悪い。

多分、10歳の頃に起こった出来事が原因なのだろう。

あの日、俺は夏休みで、遊ぶ相手が偶々いなかったから近くの公園に遊びに行った。
一人でいたら、目の前に10代後半から20代前半位の女性のΩが現れた。
発情期ヒートを起こしている様で、誰もいなそうな公園に身を隠そうとしたのかもしれない。
それをΩの女性と同じ位の年齢のαらしい男が追いかけてきていた。
追いつかれて男αに項部を噛まれた女Ωを目撃してしまい、子供の俺には到底理解できない現実が襲いかかり吐いた。
気絶した女の人を抱き、見映えだけなら王子に見えなくも無い男に、大切そうに抱えられる姿は、夢見る乙女ならば堪らないだろう。
だが見たのがまだ10歳の子供。
しかも女の人は、明らかに男の人に捕まりたく無い様に見えた。
逃げていたし。
その男女の姿が異様に感じ、そして目が合った男のα特有の威圧する姿に、俺はいつの間にか倒れていた。
αは、兎に角いるだけでもオーラが凄い。それなのに威圧をするのはやめて欲しい。
その威圧は、屈服されてしまう性であるΩの事は考えていない。
まだ10歳は未熟な身体であるし、発情期ヒートを起こす性を現実に直視出来ない。
その後のことは、あまり記憶には無いが、いつの間にか男女が居なくなっていて、ただ数日の間、眠りについていたらしく病院で目を覚ました。
その頃から、俺は自分の性が怖くなった。
αも怖く、勿論Ωも怖い。
βはあまり怖くは無いが、それでも近寄れなくなってしまい、引きこもりを起こした。


現在、この春から中学3年生になった。今も、保健室登校でなんとかさせてもらっている。
高校は行きたく無いが、働かなければならなくなるし、つがい探しのパーティーに参加させられるくらいなら、大学までは何とか通わなくてはならない。
自分家が中流家庭でも比較的上の家庭でよかった。
もし、高校出れないくらいの家庭環境だった場合、中学卒業と同時に国の政策で、αと番にさせられていた。

もう少しこのまま引きこもっていたかったが、教室に顔を出さねばならなくなってしまった。
クラスの奴らは気心知れた奴等だけど、入学式とレクリエーション以来、実は来てなかったりする。ここ一か月近くは保健室に通っていた。
そんな中、αの男が転校してきた。
どうしてこんな中途半端な時期に?って思ったけど、あまり教室にいない俺には関係無いと思ったんだ。

先生の後から教室に入ってきた男は燃える様な赤髪の175はありそうな、中学男子にしては長身の男だった。
紅拓人くれないたくと
そう自己紹介された男は、しかし俺の事を見て驚いていた。

「‥Ω‥」

Ωなんて珍しくも無いだろうに。クラスにも少数だが、俺の他に3、4人程いる。
なのに、そいつは俺を見てハッキリと言った。

「‥運命の番‥。」

因みに俺は何も感じませんでした。
近寄ってくる奴に対して、椅子から立ち上がり逃げる体制をとる。

「っっ!!???」

奴が一歩近寄る度に、3歩下がる。
教室中の皆の視線が俺達に集中する。

「君の名前は?」

いつの間にか、転校生が俺の前に来て両手を握っている。逃げるのに失敗した。
結構な距離だったはずなのに、どうなっているんだαの運動神経。

「っ!?さ、触るなっっ!!!」

怖い。怖い。怖い。なにこれ怖い。
凄い恐怖が押し寄せてくる。
それと同時に安心する様な、落ち着く様な甘い花の匂いがした。

「怖がらなくても良い。俺は何もしないよ。君の名前が知りたいんだ。教えてくれるよね?」

懇願する様に俺の両手にキスをしてくる転校生に引き攣る悲鳴を飲み込んだ。

「は、な‥せ‥よ‥っ!」

渾身の力で振り解き、保健室に逃げ込んだ。
いや、今回はされたのだろう。
Ωの力ではαには敵わない。直ぐに離れる事が出来たのは、アイツが俺に危害を加える気が無い事を伝える為だろう。
だが、甘かったな。俺は二度と教室には通わん。このまま、保健室通いかオンライン授業にするわ。
自称運命のつがい君さらばっ!
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