陰陽師〜安倍童子編〜

桜 晴樹

文字の大きさ
上 下
5 / 23
第一話 安倍童子、賀茂忠行に師事する。

百鬼夜行

しおりを挟む
その日、忠行は貴族に相談を受けた。相談事が解決し屋敷からの帰宅途中だった。
お供には、牛飼童と安倍家の童子、その他2、3人程の共がおり、牛車に乗っているのは忠行だけだった。
辺りが暗く少し湿気も多い時期だった。
忠行は、疲れの為かうたた寝をしていた。辺りには、霧が少し発生し、それまで鳴いていた虫の声がしなくなった。遠くから音が聞こえ出した。
笛の音や太鼓の音や騒がしい声。
牛飼童や他の共の者達は、気にも止めていないかの様に前へ進む。
童子だけは、気になりそちらの方を目を凝らし見詰めた。
遠くの方から、一つ目の傘や頭が牛で身体が人の身体、二足歩行の狐、三つ目の赤い鬼、白い布が宙を浮いている一反木綿、火車等、様々な妖物が道を練り歩いていた。
真っ直ぐに童子達の方に向かって来る。
直ぐに童子は、忠行を起こしに向かった。
「忠行様、忠行様、至急知らせたき事がござりまする。」
忠行は、中々起きない。
「忠行様、忠行様!」
牛車を止めてもらって乗り込んで肩を揺さぶり起こす。
「うーん、‥なんじゃ?」
少ししてから、忠行が起き出した。
「直ぐ側まで、怪しき者達が迫っておりまする。」
童子に云われ、忠行が御簾を開けて見てみれば、直ぐ側まで百鬼夜行が迫っていた。
前の時は、保憲が居たが、今は側には居ない。
一人で数人を陰陽で護るのは骨が折れるが致し方ない。
「‥急急如律令!」
呪文を唱えた後、急ぐ為に、急々に律令のごとくに行え、の意で唱えた。
妖物の目には、見えない様に唱えたが、忠行には、火車がいるのが気になった。
火車とは、死者の魂を運ぶ車だ。コレがいるという事は、死者が出る事を意味する。
最近は、流行病で死者が出始めている。先程の屋敷でも、風邪をひいたから簡易的な疫病払いをした所だ。
後日、本格的に疫病祓いを行う予定ではある。
だが、他にも気になる星の動きがあるのを忠行は、懸念していた。
しおりを挟む

処理中です...