気配

桜 晴樹

文字の大きさ
上 下
3 / 8

幻聴

しおりを挟む
「美加。」
声が聞こえた。美加は、二階の自室から、階下へ降りた。声が聞こえた場所は客室だ。
「はーい。なーにー?」
客室を開けたが誰もいない。
「?」
最近、何度かそんな事が、繰り返し起こる様になった。
気の所為かと思い、勉強しに自室に戻る。
戻って少し勉強してから、ふっ。と、気付いた。
(あれ?今、私だけしかいないよね?)
今、家に居るのは美加だけだ。それでは、先程聞こえた呼ぶ声は誰だったのか。
(声はお母さんの声に似てた。だからお母さんだと思ったんだよね。)
だが、現在の時間、17時27分。そして、今は平日だ。
母親の帰りは19時過ぎ。父親の帰りは21時過ぎ。
時計を見ながら、ゾクっと寒気がした。
(き、気のせいだよね。)
階下から足音が聞こえる。
(?足音?)
足音は、階段下の所で止まった。
(え、え、ちょっと、何で?何で、何で?!)
なのに、気配は自室の扉の廊下側からする。
ゾクっとした寒気がまた始まった。それと同時に金縛りが起こった。
(嘘噓嘘嘘嘘嘘っ!!!)
気が動転する。汗が噴き出る。心臓の音が鼓膜に響く位に煩い。
ぞくぞくぞくぞくぞくぞくっ
(嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌っ!怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いっっ!!!あっち行って!!!!)
半狂乱になる美加だが、無常にも扉がノックされる。
〈トントントン〉
「美加、お母さんよ。開けて。」
心臓が〈ドクン!〉と、嫌な音が聞こえる。耳が心臓になったみたいに煩い。
「どうしたの?美加。お母さん手が塞がっていて開けられないの。」
美加は、金縛りで動けない。視界が滲む。汗と涙が自然と出て苦しい。
(いやほんとやめてよ!あんたなんかお母さんじゃないし怖いしあっち行ってよ!)
ドクドクと心臓は煩いのに、母に似た声は、凄く良く聞こえる。
「しょうがないわね。美加、開けなさい!」
〈ドン!ドン!ドン!ドン!バン!バン!バン!バン!バン!〉
激しく叩かれる扉の音が辺りに響き、それと同時に、部屋の中からも音が響き渡っていた。
美加は、失神したいのに出来ない己の精神と異常な事態に、錯乱状態だ。なのにも関わらず、身体が勝手に扉に向かっていく。
(いやいやいやいやなんで私の身体動いているの!?お願いだから止まってよ、扉開けないで!!)
無常にも開かれる扉。
そしてー
「開けてくれてありがとう。良い子ね。」
誰もいない、廊下に声が響いて聴こえる。
その声は、先程の母親の声ではなく、複数の老若男女の声だった。
「「「あはははははっ!!!」」」
笑い声がこだまし、美加の身体に、スゥーッと何かが通り抜けていった。
しおりを挟む

処理中です...