気配

桜 晴樹

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通りすがり

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それは真夜中の事だった。
急な尿意に目が覚めトイレへと向かった。
彼の名は、柳瀬隆やなせたかしという。
柳瀬は、独り暮らしの独身男性だ。
3LDKに先月引っ越してきた。元々は、女性も一緒にいたのだが、彼女とは数日前に別れた。
その理由は、この部屋には別の何かがいる。と、彼女は彼氏の柳瀬にずっと訴えてきた。
だが、彼女の言い分に耳を傾けなかったばかりに、ある日を境に彼女は実家に帰ってしまった。
そうして、彼女と同棲する筈だった部屋には寂しい男が独りでいる事になった。
真夜中の事、時間にして3時くらいの事だ。柳瀬は尿意で目が覚めトイレに行く事にした。
トイレに行き、手を洗っていた所、誰かが隣を通りかかった。
寝ぼけていた柳瀬は、一瞬此処が自宅だと分からなくなった。
公共の場なら人が通るのは当たり前であるから気にもしない。
だが、今は真夜中の3時過ぎだ。
その事を思い出した柳瀬は、急いで振り返った。だが、振り返った先は壁があり、人が通れる筈もない。
そして柳瀬は思い出した。
『たかちゃん、ここ気持ち悪いよ‥。たかちゃんがいない時に、誰かが家の中にいる気配がするんだよ‥』そう言った彼女に、柳瀬は『はあ?何言ってんだよ。』と言った。
またある日の午後、『たかちゃん、たかちゃん‥。私やっぱりココ怖いよ‥。』そう言った彼女は翌日には、この家から出て行った。
彼女は何を見たのか‥。柳瀬は身震いをして、その後に戸締り確認をしたが、全ての扉窓は閉まっている。その確認が終わり、数日後には柳瀬もその家を出て行った。
彼らは何を見たのか。



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