アナグラムの勇者 ~異世界を書き換えるリライトスキル~

ぎゃもーい

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序章 「現実世界と転生と」

#1プロローグ 現実世界最後の日。空気力学と○○力学

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感神かんしんタイガース大敗やて!」

 昼休み。隣の席のそいつはどこからか取り出したスポーツ紙の一面を見るや否や、大声をあげ、大げさに頭を抱える。
 横から見える新聞には『ファン怒号』『監督涙目』『オーナー株式総会に震える』『今は我慢の時か?』の文字が躍っている。

「うちは怒ってるんやない! 悲しいんや!」

 口ではそう言っているが、エセ関西弁の主――上杉美弥うえすぎみやは怒りを隠しきれないらしい。
 金髪ツインテールの髪を揺らしながら、机をドンドンと叩きまくっている。
 
(なんで女子高校生がスポーツ紙を昼休みに読んでいるのだとか、公共物を大切に扱えとか色々と思うところはあるが、こういう奴だからと結論付けた俺は考えるのをやめた)

「……まぁええわ。きっと二面で注目の若手がこの逆境を救うみたいなこと書かれてるやろうし――ん、集団失踪ってなんやこれ?」

 タイガース好きが高じて、見よう見まねでエセ関西弁になったそいつは素っ頓狂に声をあげた。

あきら知っとるん?」
「いや、有名だろ。毎日ニュースでやってるぞ」

 集団失踪。
 ここ最近相次いでいる一連の事件を指した通称の一つである。
 何でも高校単位で生徒全員が突如消えてしまうという不思議な現象が全国各地で
時々起きているらしい。

 こんな奇想天外な事件をメディアは連日取り上げ、専門家たちが無駄な討論を繰り返しているが原因はおろか何が起こっているかさえ分からない。こんなオカルト的な謎の現象は先の『集団失踪』の他にも、『神隠し』、『政府の陰謀』、『思春期にはよくあること』とか呼ばれている。

「はへぇー、不思議なこともあるんやね」

 こんな有名な事柄を知らないこいつの方が不思議だ。さらに言えば、こいつが読んでいるスポーツ新聞もおかしい。普通ならこの事件の記事は一面。どんな新聞だよ。

「ほーへーう~ん、分からーなるほど」

 美弥は時折頷き、時折首傾げて、新聞の記事を読み進める。そして、大体はその事件を理解したらしく、驚きからその琥珀の瞳が大きく見開かれる。

「これは大変なことやと思うよ」
「そりゃそうだろ」
「うーん、彩ちゃんはどう思う?」

 彩と呼ばれた少女――最上彩もがみあやは俺の後ろの席にいた。

「その事件には興味ないわ」

 振り向くと視界に映るその少女。言わゆる美少女という言葉が似合う彼女。
 均整の整った顔は少し情緒に乏しいが、印象的な大きな瞳は宝石のような艶やかな光を帯びていた。
 
 黒の光沢を帯びた髪は後頭部でまとまられ、凛々しさを感じさせる。
 綺麗な曲線を描いたそれは彼女の手元にある何かの本をめくる度、緩やかに流れるように形を変えていた。

「何読んでいるんだ?」
「空気力学の本」

 ???
 俺がなんだそれという顔をすると、彩は言葉で補足を始めた。

「流体力学の1つで、空気や気体の流れ、そして空気中の物体が受ける力を扱う学問。その中でも航空機を対象にした分野は……」

 俺は馬耳東風を発動した。そして、その解説が終わる頃を見計らい解除した。

「はへぇー、スポーツ紙を読んでいるうちら・・・とはレベルが違うわ。やっぱ天才はちゃうわ」
「いや、お前と一緒にするな美弥。俺は天才こっちの方だ」
「見栄を張るのはよすんや彰。お前はこっちの人間や」
「なんだと! 俺だって空気力学だが食う気力学だが知らんが、三日もあれば理解できるわ!」

 ちなみに食う気力学とはきっと食欲を学ぶ学問だ。食べるということは人が生命を維持し、活動し、そして成長をするために必要なことであり、とっても大事なことなのだ。
 食べることは大事――それを理解している俺は、とどのつまり食う気力学の根底を理解しているといっても過言でもない。

 しかし、先の言葉を微塵も信じていない美弥。呆れるような美弥のジト目がこちらに向けられている。

「それじゃ、読み終わったし貸してあげる」
「え゛」

 さらには藪から棒に、彩から空気力学の本がこちらへ向けられる。
 少しばかり柔和な表情をしながら、彩は囁いた。

「……彰は別に地頭悪いわけじゃない。ただやる気がない。ちゃんとやれば出来るはずなんだけど」
YDKやればできるこやんけ! ただCMの理論やと、うちもYDKやればできるこらしいんや!」
「美弥ちゃんも勉強すればきっといい点とれるよ」

 俺は心の中で思う。多分、こいつには無理だと。多分、YDKやってもできないこか、もしくはYDKやっぱだめだこいつが妥当だ。

「なんやうちもこっち側のグループやったんか。ふふふ、これは学年成績上位者トップ3をうちらで独占するのも時間の問題やなぁ」

 くくくっと八重歯を覗かせながら笑う美弥に苦笑しながら、受け取った空気力学の本を片目に俺は思った。
 これ、理解できるだろうか?

 * * * * *

 昼飯を終えた俺は机の上にあるそれを腕組みしながら眺めていた。
 空気力学の本。どうせ昼休みなんて、友達とくだらないことを駄弁るかスマホを弄るかくらいしかしない。
 だったらたまには学問というものもいいのではないか。

 そんなインテリジェントな思考をしていると、俺はファンタスティックな発見をしてしまう。
 空気力学は英語では、『Aerodynamics』となるらしい。(そう表紙に書いてあるし)
 『aero-』が空気とかの意味で、『dynamics』が力学とかいう意味でそれを繋げて空気力学。
 そこまではなんら変わったことはない。

 ――だが、こうするとどうだろう。
 俺は財宝を掘り当てたトレジャーハンターのように、湧き上がる興奮を抑えながら慎重に左手を本の一部へと乗せる。

 『Aerodynamics』の『A』が左手に隠れ、その存在を無くす。
 視界に広がるのは高貴で下品な文字列。

 『erodynamics』――それは変態の学問。高校生男子が大好きなあの学問。それは『HERO』がエッチで、エロだった時くらいの衝撃を与える。

 『ero-』はエロ。『dynamics』は力学。

 ――つまり、エロ力学!

 なんだこれ。すごいぞこれ。うほほほほほい!

 なんだこれただのエロ本だったのか。

 エロの力学と言ったら、あれがあれとあーなってあーんなことやあれあれなあれがあーんなあれになるやつじゃないかぁあああああああああああああああああ。(自主規制)

 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――阿保みたい。

 熱しやすく冷めやすい鉄みたいな脳が火照りを無くすと、俺は何事もなかったかのように空気力学の本の表紙を捲る。

 空気力学。それは――。

 その後の文が脳へと伝わるよりも早く、それは起きた。

 ビリ。

 何かが割れた。

 ビリビリビリビリッ!!!

 何かが割れる音を感じ取った瞬間、俺は何とも形容しがたい感覚に襲われる。

 視界にひびが入っていた。
 ガラス越しに見たようなその日常風景に、ひびが広がっていく。

 そしてはそれは呆気無く――、

 パリンッ!! 

 割れた。
 視界の破片が崩れ落ちていく。

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