アナグラムの勇者 ~異世界を書き換えるリライトスキル~

ぎゃもーい

文字の大きさ
16 / 63
第一章 「魔物使いとアナグラム遊び」

#16 変わらないもの

しおりを挟む
 トラッキーが態勢を立て直し、ミヤをなんとか背中に乗せる。
 しかし、その後も俊敏なトラッキーの動きは見られない。

 湿原に足を取られ、動きは遅い。またパールドたちを庇いながらの戦いだから、自由に動けないらしい。
 トラッキーは劣勢を覆すためにホーリーフレイムを吐くが、湿地帯だからかいつもより威力が弱いように見える。

「これはもう……」

 中年冒険者の言葉通り、明らかに今度はトラッキーが防戦一方だった。
 そして、ぬかるむ地面にトラッキーが足を取られ、動きが止まった。

 その隙を大王河童ロブスターは逃さない。

 ハサミが降ってくる。鈍い音が辺りを響く。

 それはトラッキーの肉体が悲鳴を挙げた音。
 トラッキーは身を挺してミヤを守ったらしいが、もうボロボロでふらふらだった。

「おしまいだ。あれじゃもう――ってお前どこにいく!?」

 その言葉を背中越しに聞きながら、俺は湿原を駆けた。

『いつか後悔するぞ』

 そうミヤに言ったことがある。

『うちは馬鹿やからなぁ~難しいことは考えんことにしてんねん』

 ミヤは笑った。

『でももし……』

 そして恥ずかしそうに、

『うちが間違ったことをしようしてたら止めてな』

 そう付け加えた。

「……普通の問題は解けないくせに、こういう時だけは」

 間違ったことがないな、俺は笑いながらそう悪態をついた。

 大きなハサミの手があがる。
 それがミヤへと振ってくる。

 ギロチンのように。それは振り落とされる。
 トラッキーが最後の力を振り絞り逃げようとするが、弱弱しく態勢を崩し、ミヤと共に崩れ落ちる。

 その一瞬の間で、そのハサミが迫る。
 もう、それから、逃げきれない。

 ――だったら、逃げなくてもいいようにするだけ。

 ゴガッ!!

 という鈍い音の後。
 水飛沫が上がり、その腕の軌跡は変わる。

「キャエェエエエエエエ!!!!」

 そして、大王河童ロブスターの悲鳴。
 ハサミの腕を上げながら、そいつは悶える。

 腕に刺さった、こん棒。
 俺が投げたそれは、大王河童ロブスターの攻撃の軌跡を変えた。

「――遅れて悪かったな」

 その言葉に、ミヤは泣きそうな顔をしながら、おかしそうに噴出した。

「ふはは……遅すぎやわぁ」

 その会話を邪魔する、パールドの声。

「バカ! まだ攻撃が」

 そして、大王河童ロブスターの攻撃。
 上から振ってくるのは、大きなハサミの拳。

 大木以上の大きさのその拳を見ても俺は恐怖を感じない。

「トラッキーとは互角の勝負をしてたみたいだけど」

 俺は、地面に落ちたこんぼうを拾い上げ、一振り。

「――だったら、負けるわけないわ」


【 名 前 】 アキラ
【 職 種 】 魔法使い
【 レベル 】 4
【 経験値 】  0(次のレベルまで1)
【 H P 】 921/921
【 M P 】 10/10
【 攻撃力 】 2510
【 防御力 】 614
【 俊敏性 】 100
【  運  】 100
【 スキル 】 なし
【特殊スキル】 アナグラム……【アナグラムで遊べる】


 水飛沫が上がるほどの衝撃と共に、その腕が吹っ飛ぶ。
 間髪入れず、俺は大王河童ロブスターの頭へこん棒をぶん投げた。

 爆風のような衝撃で、大王河童ロブスターの頭は破裂した。

 絶命した大王河童ロブスターの身体が、地面に叩きつけられる。
 辺り一面の水を飛ばす勢いのその衝撃で、水しぶきの雨が降ってくる。

「――お前一体何者なんだ?」

 俺を見ながら目をぱちくりさせるパールドのその疑問に、

「強いて言うならば、こいつの保護者だな」

 俺はそう一言を返した。

 何を言っているか分からないという表情を浮かべるパールド。
 疲れて気を失ったらしいミヤをおぶりながら、俺は思い出したように声を上げる。

「あ、後これ返すわ」

 俺はパールドにペンダントを投げた。

「……何でこれを?」

 パールドは、安堵したようなそれでいて不思議そうな顔を浮かべながら、こちらを見た。

「拾った。大切なもんならちゃんと持っとけ」

 俺はそう言い残すと、ミヤを背負いながら踵を返した。
 トラッキーもボロボロな足取りで、それに続く。

「"妹"さん、元気になるといいな」

 去り際の一言。それに伴い、聞こえる嗚咽の声。

 水しぶきの雨に包まれた湿原。
 その雨がやみ、太陽の光が届くと、そこには綺麗な虹が出来た。


 * * * 


 冒険者ギルドで、ミリアさんは不思議そうにそれを見ていた。

「大王河童ロブスターのドロップ品ですか……? いくら私によいところを見せたいと思ってもさすがにそれは……」
「いや、これはほんまにアキラが倒したものやで」

 意識を取り戻したミヤは口々に弁明するが、俺はそれを制した。

「これはミヤが手に入れたものです」
「はへ?」

 そう不思議そうな顔がおかしく、俺は笑い声をあげた。
 納得いかないミヤだったが、俺は無理やりその言葉を押し通した。

 確かに大王河童ロブスターを倒したのは俺かもしれないが、だがそれ以上のことをミヤはしたと俺は思っていた。

 宿への帰り道。 

「アキラなんであんなことしたん?」

 まだ納得していないミヤに対し、

「なんとなく」

 そう俺は答えた。

「意味分からへん」

 そう口々に不満を言う美弥だったが、

「腹減ったし、飯いこうぜ」

 その一言で、すぐに機嫌がよくなった。

「ええな! うちぺこぺこやねん!」

 人懐っこい猫のような笑みをこぼすミヤに、俺もまたつられて笑顔になる。

 俺たちは、昨日と同じ飯屋へと向かう。
 "変わらない"一日がまた終わろうとしていた。

* * * * *


『うちは馬鹿やからなぁ~難しいことは考えんことにしてんねん』

『でももし……』

『うちが間違ったことをしようしてたら止めてな』

 いつか聞いたその言葉に、俺はこう答える。
 今のところは大丈夫だ、と。

 そして、こうも思う。

 願わくば、
 異世界ここでも、
 こいつが変わらないでほしい、と。



第一章「魔物使いとアナグラム遊び(ミヤ編)」
         完
しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月9日電子版解禁です!! 紙は9日に配送開始、12日ごろに発売となります。 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...