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第二章 「神に愛されなかった者」
#21 勇者にも魔王にも
しおりを挟むにやりと笑うフィリーの言葉に、俺は動揺する。
なんで分かった?
そんな疑問が脳へ渦巻くが、フィリーの次の言葉がその思考をピシャリと断った。
「ちゃっちゃっと倒しちゃって」
俺の後ろの方向に、指をさすフィリー。
「もう、後ろにいるよ」
振り向けば、ピンクスライム。
目と鼻の先にいたそいつは、ぴょんと勢いよく地面へと跳ね、俺の懐へと飛んでくる。
……できるだけ手加減しよう。噂にもなっても面倒だ。
そんな思いを抱きながら、俺はこんぼうを振る。
できるだけ、ゆっくりと、振りぬいたそれ。
だが。
ボガンッ!
という轟音を響かせた。
スイカが破裂したかのようにスライムの破片を飛び散った。
「……あれ?」
手加減できない?
河童ロブスターの時からも思っていたけど、明らかにオーバーキルなんだが。
「……う、そ」
肩越しに聞こえるフィリーのその声は。
「想像を超えるというか……範疇外というか……ははは」
苦笑いが混じったその声を聞きながら、俺は間違いなく失敗したと思った。
いやさっきのクリティカルヒット的なことにすれば、まだごまかしが……。
「451。手加減してこの数値って」
後ろから聞こえるその451やら数値やらに幾何の疑問を覚えながらも、
俺はすごーくすごーく手加減しようと心がける。
が、しかし。
まるで爆弾のように、
俺の一閃はスライムを粉々にする。
「522」
明らかにオーバーキルな攻撃がこんぼうからスライムへと伝わる。
「498」
手加減してるにもかかわらず、その攻撃力が落ちる気がしない。
明らかにTPOを無視したそれを繰り出してしまう。
「852」
終盤のやけくそと化した一撃で、最後の一体が無残に飛び散る。
唯一残ったピンクスライム玉をぼんやりと眺めながら俺は思う。
うん、言い訳も何もできる気がしない。
明らかに口の軽そうな風貌のフィリーのことだ――もう明日には噂になってそう。
もういっそ割り切ろうか、そんな思いを悶々と抱いていると。
「アキラ……君はいったい何者?」
先ほどまでの雰囲気は一転し、真顔になるフィリー。
「天才が一生努力しても届かないほどの攻撃力を持っている」
努力が馬鹿らしくなるほどのその才能、とフィリーは苦笑いをする。
「この世界を救う救世主――勇者? それとも破壊の限りを尽くす魔王かい?」
現実味のないその言葉がフィリーの口から吐き出された。
流石にその言葉を俺は、否定する。
「いや俺はそんなんじゃない――俺は」
何といえばいいんだろう?
この能力を正直に話していいのだろうか?
そんな言葉をフィリーが逆に言葉を遮る。
「うん無理に話したくないなら、話さなくていいよ……何か人には言えない役目があると見たから」
勘違いしているらしいフィリーはうんうんと頷く。
そんな人に言えないような高尚な役目とかはないんだが。
「後、安心して、こんな面白いこと誰にも話さないから」
「……助かる」
フィリーが付け加えたその言葉に、俺は少しばかりほっとする。
何か勘違いしてくれるならそれはそれで儲けものだ。
フィリーは暫く俺はを興味深く見ていた。
何の変哲もないこんぼうをまじまじと観察しながら、まるでおもちゃを前にした子供のように感嘆の声を上げた。
一通り観察したらしいフィリーは満足したらしく、しばらくして思い出したように声を上げた。
「……あ、そうそう! 面白いもの見せてもらった代わりといってもは何だけど――私のことも少し話してあげる」
おそらく君が一番知りたいことだろうからね。
そう言うと、彼女はステータス画面のスキル部分を俺に提示した。
【解析】
【鑑定M】
「このスキル、分かる?」
俺は首を振る。
「それじゃ、簡単に説明してあげる」
彼女の説明だと以下のような効果を持っているらしい。
【解析】……【やくそうの回復量】や【モンスターに与える攻撃量】など数値が関わる事象を、数値として認識できる
【鑑定M】……自分よりステータスが弱い対象者のステータスを見ることができる
「さっき私が数値を口頭で言っていたのは【解析】のスキル。君がピンクスライムに与える攻撃量を数値として、表現させてもらったよ」
さっきの451とか522とかはそう言う意味があったのか。
数値的にもやっぱりオーバーキルだな。
「で、【鑑定M】は他人のステータスを見る能力。もっとも、私より弱い人じゃないとステータスを見ることはできないんだけど」
聞けば、フィリーの目が光ったあの事象はこの能力を使っていたかららしい。
先ほどの事象も含め、俺は合点がいった。
フィリーは言葉を続ける。
「もちろん、初めてとは言わないけど、私より強いやつなんて数えるほどしか知らないのに……こんな依頼で会えるとは思わなかったよ」
呆れるように笑みを浮かべるフィリー。
「それも超弩級。エルバッツ内でも3大勢力はおろか、あのエルバッツの姫騎士様ぐらいしか君と互角に戦えないと思うよ」
笑っちゃうよとフィリーは続ける。
「ただ……」
先ほどの表情と打って変わり、納得のいかなそうな表情を浮かべる彼女。
「君は強い。呆れるほどに強い。だからこそ、少し疑問――君は明らかに手加減していたのにあんな攻撃量を出したの?」
恐らく俺が手加減したのに、451、522といったような数値を出したことへの疑問だろう。
いや、逆に俺が聞きたい。
「もしかして、力の加減が制御できない?」
俺は少し回答に迷ったが、それを肯定の合図としてその言葉を頷いた。
それを受け、フィリーは頷く。
「だとしたら、君は爆弾だ」
「魔王になるなら、簡単かもしれない」
「ただ勇者になりたいなら少し大変かもね」
ふっとした表情で笑うフィリー。
俺はその言葉が脳で消化できず、ただ唖然としていた。
彼女が何を言っているか、魔王や勇者という言葉の意味が分からない。
言葉を失い、幾何の時の静寂が、続いていく。
その時、
静寂をガサリッという物音が切り裂いた。
視界の片隅で何かが動いた。
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