魔甲闘士レジリエンス

紀之

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第20話 新たなる力・新たなる姿 風の四元将テベリス 人型UMAヒトガタ 登場

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ここで少し時間を巻き戻る事をご容赦願いたい。

「テベリスが無差別攻撃を?」

異世界

自身の治める都市の城塞の中庭でエリクシリオはサンダーバードからその報告を聞いた。

「テベリスの装着者は人間ではない。人間に極めて近い怪物だ。奴はパノプリアの時と違い完全にその力を熟知し、制御している」

「私に彼を助けろというのですね」

作物の安定した収穫の為、彼女はこの鎧の持つ『分解吸収』の魔法を応用した土地改良法を都市の科学陣に命じたばかりだった。

彼女はその指揮に忙殺されていた。

しかし彼女は達人を助けたかった。

ただ立場がそれを許さない。

しかし守護者である、サンダーバードの後押しがあればそれもできる。

しかし

「お前も人間である以上、テベリスの力の前では例え二人掛かりでも敵うまい。我の力をあのレジリエンスと呼ぶ鎧に貸し与える為の儀式は現当主たるお前にしか出来ぬ。行方の分からぬ先代当主であり、鎧の開発者たるお前の父とそのような契約を結んだのだ」

「それは精霊の力の私物化ではありませんか!我らが守護者よ、父の罰当たりな行為をお許しください。そのまま戦
う訳にはいかないのですか?」

エリクシリオはひれ伏しながらその疑問を霊鳥に投げかける。

「我自身は神に人間とその被造物を殺さず破壊しない誓いをしているのだ。だがこの契約はその抜け道らしい。お前の父はどうやらこのような事態を見越していたようだな」霊鳥本人はさほど気にしていないらしい。

「分かりました。早速始めましょう」

エリクシリオは引継ぎの為パリノスを呼び出した。

そして彼女以外入れぬ神域である神殿奥に入っていった。

その秘儀ついては今を持って門外不出という事もありよく分かっていない。

重要なのは儀式は成功したというその1点である。


そうした経緯を経てレジリエンスを狙う一条の稲妻を媒介にサンダーバードは顕現した。

精霊級UMAの突然の乱入はテベリスの予知でもできなかった。

「サンダーバード?まさか実在していたとはね。しかしあなたは私を攻撃できないはずだ。同じ魔法の鎧を持つ者を、つまり人間を襲う事はあなたの種族には出来ない様に定められている」

「我は古の契約によりお前に我が力を授ける。その為に来たのだ」

テベリスの言葉を無視しサンダーバードは達人に語り掛ける。

「鎧が光っている?そうかモスマンとの戦いの時と同じ反応か。だがあの時よりも強い」

「この魔法は世界で初めて使われる。お前の好きなように呼ぶがいい」

「精霊合身!」

レジリエンスからサンダーバードへ光が放たれる。

光を受けてサンダーバードの姿が金属状に変化する。

翼と首、頭が体から分離する。

首が縦に分割されレジリエンスの両脛に装着

頭は兜の額に装着

両足が180度回転しレジリエンスの背中に装着。

翼が杖の側面に装着され巨大な剣となる。

「なんだその姿は!?そうか!あくまでレジエンスの力という事か」

その姿に本能的な危機を感じてテベリスが飛翔する。

「逃がさん」

新レジリエンスも背中に回した足の爪から赤い光と電光を発して空へと飛翔する。



文明存続委員会の面々もレジリエンスの新たな姿に驚愕していた。

彼らはその戦いを始めの方からドローンからの映像で見ていたのだ。

「あんな機能は四元将にもない。アゲシラオス博士は私すら知らない魔法を試作機に組み込んでいたのか?」

一番ショックを受けていたのはアトランティス人のティブロンだった。

「あの鳥はUMAですよね?それと合体する魔法か機能を付けるなんて。どんな発想をしているのかしら」笠井恵美も彼と同様にショックを受けていた。

「性能向上の為だろう」

技術者の為か三人の中で黒川博士が一番冷静だった。

「さしずめサンダーナイトとでもいうべきか。奇しくも我々のマルスと同じ発想という事だ」

「感心している場合ではない。これでまた計画を修正せねばならない」

黒川の言葉にティブロンが吐き捨てるように言う。

「そのためにもデータを集めねば」

「了解です」笠井が黒川の言葉に応答し、各種計器を操作する。

「信じられない・・・サンダーナイトの加速力は・・・・・マッハ3を計測!?」

映像内で新たな姿となったレジリエンスいやサンダーナイトがテベリスへ向けて突進し撥ね飛ばす。

だが力を制御できていないのかそのまま彼方へと飛んでいく。

加速時に放出された金色のエナジーが稲光を発する。

「周囲への影響はないようだな?」

ティブロンが画像を切り替えるとサーモグラフィー状のデータが現れる。

「特殊なバリアーの様な物で衝撃波が周囲に拡散しないようになっているようですね」

笠井の指摘にティブロンが応じる。

「その影響か装甲が融解を始めているな。サンダーバードが現界していられるのは精々が5分ほどだが合体時間は更に短いと見るべきだな」

その声には安堵がある。

(未調整かあえてそうしているのか?どちらにせよこちらの脅威にはなり得んな)


「黒川博士、こちらもマルスを出さずに済みそうですね?まだ例の機能が不安定でしたから」

黒川博士は黙って頷く。

「しかし厄介だな。超高速能力と雷と炎熱の能力は」



急旋回したサンダーナイトの加速力はテベリスを圧倒し吹き飛ばす。

更に周囲に稲妻が3条発生し、周囲を高熱と電光に包む

「グワッ、なんという速さだ。だがそのザマではね」

「痛ッ、何とかスピードに慣れなければ」

サンダーナイトは自身の力を制御できず、勢い余って進路上にある半壊したビルに突っ込んでいた。

その隙に逃走を図るテベリスにレジリエンスは左手で逆三角形を描き薙ぎ下部分を横薙ぎに払いながら

「逃がすか、トイコス」(壁の意)と唱えるが魔法は発動しなかった。

「我は火の精霊だ。つまり我と合体している限りはレジリエンスも火の魔法しか使えん」

サンダーバードの声が兜に響く。

「雷はなぜ使えるんだ?」

「雷と光は火の元素に付随している。だから使える」

「待てよ。ならテベリスが属性の違う雷を使えるのはなぜだ」

「風は火を凝結させたものだ。大気変換の応用で風を『蒸発』させることで雷を使えるのだろう」

「なら相性が悪いという事か」

「そうだ。奴が混乱している今が好機だ。速さと攻撃力ではこちらが上だからな」

「よし、行くぞ。しかし奴に確認したいことがある。それを確かめたい」

ヘルメット越しに聞こえる声からテベリスの正体について達人は思い当たる節があった。

再びサンダーナイトが空へと飛び立つ。

テベリスはその超加速からの突撃に吹き飛ばされる。

飛ばされた地点へ向けて頭上から落ちてきた稲妻がテベリスに直撃する。

高熱と電撃が鎧を通して装着しているヒトガタを焼く。

(正体が判るまでは殺しはすまい)

そう確信しているから鎧が機能している内に逃走を画策しているのだ。

ヒトガタはUMAだがその反射神経や認知機能そのものは人間と同等である。

音速で迫る敵にはたとえ心を読んだとしても対応できない。

いつしか二人(と一羽)はga市の上空に来ていた。

「これで決める!」

サンダーナイトが電光を纏った剣を投げる。

手を離れた瞬間剣は音速の速さに達しテベリスに向かう。

剣が突き刺さる直前、テベリスの全身から煙を吹き出し中から達人がo湖で出会ったあの男が出てきた。

直後テベリスの胸を剣が貫き爆散させる。

頭と手足のパーツが周囲へと散乱する中男の体が銀色の宇宙人のような姿に変化しながら道路に落下する。

「どこに行くつもりだ?まさか?」

受け身を取りつつ人間の姿に戻りながら走る男は達人の母親がいたあの住宅街へと逃げ込む。

やがてあの家の前まで来た男をそのただならぬ様子を心配した男の妻子が表へ出てくる。

「あなた、大丈夫ですか?」

「パパ!」

「家族、だと!?」その三人のやり取りに達人は動揺する。

心のどこかではそうだと気が付いていたが認めたくない事実だった。

そしてサンダーナイトはレジリエンスとサンダーバードに分離する。

高熱に曝され続けた鎧の各所から煙が上がり、所々溶けている。

「どうした、サンダーバード」

「時間切れだ。これ以上は現世に留まれん。また会おう」

そう言うとサンダーバードは異世界へ去って行く。

「そうだな。ここからは俺の問題だからな」

達人はレジリエンスの鎧を脱ぎ捨てる。

「もしかしたら、もしかしたら、母さんではないですか。芹沢達人です。覚えていませんか?

幼い頃俺を殺そうとする父を止めてくれた」達人は一家の前に一歩進み出る。


「知らない、いえ判らない。私は10年以上前の記憶がないの」

「こいつママをいじめるな」

頭を押さえて苦しむ母とその原因であろう見知らぬ男を見比べ少年がその間に立つ。

「あんたがこの二人を保護してくれたのか?」達人が男に尋ねる

「ああ。UMAにするためにね。人間社会に行き場のない女ならいっそUMAになった方が自由に生きられる。私は大して力がないから周りの生物をUMA化するにも相当に時間がかかるがね」

そう言いつつ男の体が銀色の宇宙人に似た姿に、次にニンキナンカとテベリスの姿に変わる。

「変身能力?」

「そう。姿形だけで能力は伴わない」そして驚く家族に向かって

「これが私の正体だ。二人とも私のようになればもう苦しい思いはしなくて済む。今に人間の世は終わる。二人には私同様新たな地球の支配者の一員にきっとなれる。二人にはその素質があるのだ。テベリスがそう教えてくれたのだ」諭すように歩み寄る。

「私はあなたについていきます」

そう言いながら夫に歩み寄る妻

「母さん!」

「僕は嫌だ。パパもママも人間のままがいい。怪物なんかになりたくないよ」

少年は泣きながら母に縋りつく。

「いやな事はしなくて良くなるぞ。嫌いな奴も一ひねりだ。それのどこが不満なのだ」

説得を続ける父にただ「嫌だ」を繰り返すだけの子供。

「仕方がない。何かに囚われている以上は解放しなければならない。つまり死だ。さようなら」

苛立ったヒトガタはニンキナンカの姿となり男の子へゆっくりと腕を伸ばす。

夫と子の間で葛藤していた母は子をかばうべくその身を盾にすべく割って入り、距離を置く。

「そうか。では親子仲良くあの世に行くがいい」

「やめろ!」

レジリエンスを装着した達人はヒトガタの腕を取り路地に飛び出す。

右腰のスイッチを操作し異世界への入口を開いて共に飛び込んだ。

照りつける太陽

吹きすさぶ風。

どこまでも続く荒野

慣れ親しみ始めた異世界の光景で達人はヒトガタに問うた。

「ここに連れてきた理由がわかるか?」

「さあね。気まぐれでなければなんだ?」

「判らないか?子供の教育に悪いことをするからだよ」

「ハハハ、いいねえ。しかし家族の問題に立ち入るのは無粋だな」

「お前は俺の父と同じだ。自由だなんだといっても結局子供や他人を支配しようとしているだけだ」

両腕で三角形を描き右手で上方を横薙ぎにしながら「プノエー」(突風の意)と唱える。

魔法の風に拘束されたヒトガタに向けて元素変換した水のエナジーを利用し両腕で逆三角形を描き今度は「トリキューミア―」(大波の意)を唱える。

今度は魔法の大波がヒトガタを押し流す。

「ぐうう、今度は火球だと。馬鹿め。水の後では威力も落ちるぞ」

構わず両腕で三角形を描きレジリエンスは最大火力の「フロギストン」(燃素の意)を放つ。

火球が着弾すると同時に逆三角形を描き下方を横薙ぎにしながら「トイコス」を唱えヒトガタの周囲に展開する。

「しまった、閉鎖空間では爆発は何倍にも増幅される」

その言葉通り壁内の爆発に呑まれヒトガタは赤い光となって爆散した。




「会って行かなくて本当にいいの?」

「ああ」

数日後

芹沢達人は八重島紗良と共にヒトガタの家に行った。

あの母子がまだUMAとなっていないか確かめたかったのだ。

しかしその日家の前に一台のトラックが停まっており、荷物を運びこんでいた。

作業に勤しむ母とそれを手伝う少年の表情はどこか晴れやかだった。

それだけ確認すると達人は踵を返して駅へ向かった。

「2人が無事ならそれでいい。もしあの人が俺の母さんであっても今母さんを必要としているのはあの子であって俺じゃないからな」

「達人」

紗良は隣でそう語る同い年くらいの男がひどく大人びて見えた。

「よーし今日は昼おごっちゃる。何食べたい?」

(紗良について来てもらってよかった。あの明るさには助けられているからな)

「カレー」

「えらく庶民的ね。まあいいか。お財布にも優しいし」

商店街へ向けて2人は歩き出した。

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