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3話 パーティ
しおりを挟む数日かけてパーティ会場であるライウィズ公爵家に着いた。
公爵家と言うだけあって、豪華な装飾につつまれた大きな家だった。僕の家の屋敷も大きいが、迫力が違う。屋敷の大きさに驚いていたのは僕だけのようで、父上と兄上は周りも見ずに先を歩いていっていた。
少し小走りで二人の元にかけより、三歩後ろを歩く。
ドアの目の前まで行くと公爵家の召使いが立っており、流れるようにボールルームまで案内をされた。
ボールルームには豪華な食事や綺麗な置物が置いてあったが、貴族特有の嫌味さは無かった。これだけでもここの公爵様がいい人なのがうかがえる。
父上や兄上はもう顔見知りらしき他の貴族に囲まれていて、僕は一人呆然と突っ立っていた。
パーティの楽しみ方なんかを知らない僕は食事をしようと近くによったが、あまり人が手をつけていないのを見て混乱し食べようとした手を引っこめた。
まだ食事をしてはいけないのかな、それとも食事自体手をつけちゃいけない...とか...?
暗黙のルールがあってそれを僕がやらかしてしまったとしたら家に迷惑がかかる。食事をするのはやめておこう。
色々な貴族達が挨拶回りをしている。媚びた目をしている人、好奇な目をしている人、純真な目をしている人が交差していく。
僕、ここにいる意味あるのかな。父上の意図が掴めない。
急に棒立ちしている僕を数人が見始めた。不釣り合いな僕を笑っている。顔を落として、人の顔を見ないようにした。
「君、暇?」
僕の肩をトンと叩かれてビクリと前を向いた。大抵の貴族の名前と顔は昔資料を頭に叩き込んだはずなのだが、資料で見た事の無い人だった。
「ひ、ひま、じゃ、なぃ、です」
「いや笑暇そうだけど笑」
「ぇ、と、だ、だれ、でしょぅか、」
「あー、それ重要?」
「ぇ、ぅ、はぃ、」
「君の名前、先に教えてよ」
「り、リト・レオルドで、す...」
名前を言うと、一瞬相手が嘲笑を含んだ笑みを浮かべたような気がした。
「やっぱり!君があの、ねぇ」
僕について何か知っているような口ぶりで嘲られ、顔を近づけられたので反射で一歩下がってしまった。
「一緒に踊ってくれませんか。リト・レオルドさん」
断ろうとしたが、有無も言わさずに強引に連れてかれてしまった。
ダンスなんてした事が無い。ダンスは文献や資料だけでは学べないからだ。
流れている曲のリズムに身体を預けて何とかそれとなくしてみるが、第三者視点から見て見ないとどうなっているかは分からない。幸いな事に皆各々自分達のことに夢中で僕のことを見ている人は少なそうだったので良かったけれど。
これくらいのローテンポのダンスなら...。と考えていたのもつかの間にどんどんとテンポを狂わせて踊られる。手を引かれている僕も振り回される様に激しいダンスをしていた。
足が、追いつかな
「ぁの、ぇあ、や、やめ、」
「ん?」
ははは。と笑われ、怖くて足がすくんだのを狙い目に、後ろから足が伸びてきて、僕は転んだ。
「ぃ、痛ぃ...」
クスクスと足をひっかけたであろう令息と一緒に踊っていた令息、加えて数人の仲間らしき人々が笑っていた。
大胆に転んだこともあってか、挨拶回りをしていたり、パーティを楽しんでいた方々が僕を一気に見つめた。皆、嘲笑ったり迷惑そうにしている。
僕は異様に恥ずかしくなって急いで手をついて起き上がろうとした。けれど、受身を上手く取れず足をやってしまったようで上手く立つことが出来ない。
「少し失礼します、ご令嬢方」
貼り付けた笑顔でルクニアスが会話を終わらせて、リトの元へ近寄っていく。どこから見ても怒っている様子だ。
だが、それよりも早く黒い影がリトへ手を伸ばした。
「大丈夫か?怪我してるみたいだ」
恥ずかしさで少し滲んだ目元を拭わずに顔を上げると、シャンデリアに照らされて煌々と輝く黒髪に、深蘇芳の瞳を併せ持った綺麗な人が僕に手を差し伸べていた。
この人は...。
主催である公爵家の次期跡取り、ギルベルト・ライウィズ様だ。世界単位で黒髪はとても珍しい。黒は武神が創造した色だと言われており、剣才に秀でている証明とされている。王を支えてきた騎士の家系であるライウィズ公爵家にふさわしい色だ。
ギルベルト公爵子息様の紅いマントには黒のファーが着いており、髪や瞳にとてつもなく似合っていた。僕の父上のように威厳のある面持ちでありながら、奥底には優しい面が見える。ぎこちなく手を差し伸べる仕草が、なんだか心にとても染みた。
「...大丈夫か?、」
僕の事情を知らないであろう人からの優しさの純粋贈与。胸がドクリと音を立てる。
なんだろう。これ。心臓が痛い。
そんな感覚に囚われていた時、兄上が間に入って強引に僕の腕を掴み無理やり起き上がらせた。
「あにうぇ...」
「すみません、弟が。失礼をしましたね」
「いや、失礼などされていない。弟君を休ませてやってくれ」
「私も休ませようと思っていた所です。気遣いありがとうございます」
兄上に腕を引っ張られ、おぼつかない足で歩いた。というよりも引きづられた。
パーティの行われていたからかなり離れ、外とも言えるところまで来た。
「なぁ、何してんの?」
「ご、ごめ、んなさい」
挫いた足を踏み潰される。
「ぃた、いたい、あにうぇ、あ゛」
首を強く握られて、呼吸も出来ない。両手で兄上の手を握るが、意味が無いことを知っている。
「声を出すな」
コクリと頷き、少し緩められた手に安心するも、まだ首に手は置かれたまま。それから数分なじられて、本題とも言える事を話し出した。
「父上に愛されるべきは俺なのに」
そう。僕は兄上のコレが、両親に愛されたいが故の壮大な空回りだということを知っている。
知っているから僕には止められない。逃げ出せない。僕と同じ辛さ苦しさを抱えた兄上を放っておくことが出来ない。
「ごめんなさい...」
首にかかる力が強まった。
浴びせられる罵詈雑言が何故か今日は異様に刺さる。
本当にこのまま...。意識を手放せば、きっともう、楽になれる。
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