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時を告げる
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「せんせぇ! はやくはやく!」
「走ると危ないですよ」
そう言いつつ、先生は駆け足で追いかけてきてくれた。そんな小さな行動が嬉しくてたまらない。待ちに待ったデートだから、テンションが上がりすぎているのだろうか。
私たちは今、動物園に来ている。おうちデートもいいけど、思い出の品を作るにはやはり外がいいだろう。
入園して最初に目に入るのはホッキョクグマエリアだ。階段を登り、上から見物する。2頭はそれぞれ陸でウロウロしたり、プールで泳いだりしていた。
「シロクマさーーん!!」
隣で見ていた5~6歳くらいの女の子が叫んで手を振った。お父さんらしき人が微笑ましく見守っている。
「小さい頃を思い出します。私も父と来て、あんな風に手を振ってました」
「素敵な思い出ですね」
「私たちも作りましょう。行きますよ!」
私は先生の手を引いた。
猿、キリン、カバ、ゾウ……いろんな動物たちと相見える。ライオンの檻の前では写真を撮った。
実は小1の時、同じく父と写真に写った。でもその時の私は泣き顔。なぜなら百獣の王ライオンに背中を見せたら、襲われるのではないかと怖かったから。
今では笑い話だが、当時は号泣するほど怖かった。
帰ったら父にこの話をして、写真を見せよう。きっと成長したなと褒めてくれるだろう。
この動物園にはアトラクションもある。ランチの後はそこで遊ぶと決めていた。コーヒカップ、空中ブランコ、バイキング。小1の時は身長制限で乗れなかったものもあった。私は先生の手を握って楽しんだ。
池のほとりを散歩していると、対岸をスケッチしているおじさんに出会った。見せてもらったが非常に上手い。プロなのかと思ったが、本人はただの趣味だと言っていた。
「そろそろ時間ですよ」
おじさんとの会話に花を咲かせていると、先生が遠慮がちにそう言った。私はおじさんにお礼を言って、先生とギフトショップへ向かった。
「わー、いっぱいある。先生、どれがいいですか?」
「君の好きなものがいいですね」
どうせなら動物モチーフのものがいい。ハンカチか、シャーペンか、マグカップか……手ぬぐいや、がま口財布なんかもある。
「あ、これはどうですか」
迷いまくって決められない私を見かねたのか、先生がひとつ指差した。
「ライオンのキーホルダー?」
「日常使いできるもので、長持ちするものといえばこれです」
雄々しいたてがみがお洒落なシルバーのキーホルダー。たしかにこれなら長持ちしそうだし、大人の先生が持っていても違和感がない。私にとっても、幼稚に見えないのは助かる。
「いいですね、これにしましょう!」
私の答えに、先生はニッコリと微笑んだ。
その時、閉園間近を伝える鐘が鳴った。
帰宅して、父にも買っておいたお土産を渡す。『うさぎのフンチョコレート』を見てちょっと引き攣った顔をしたが、食べると美味しかったらしく、選んでよかったと思った。
「ねぇ父さん。今日ね、ライオンと写真撮ったよ。今度は泣かなかった」
「おお、そうか。成長したな」
父はチョコレートがついたのとは反対の手で私の頭をなでた。
「もう10年か」
「うん……」
私がこの家に来てから、今年で10年になる。
テーマ「時を告げる」
「走ると危ないですよ」
そう言いつつ、先生は駆け足で追いかけてきてくれた。そんな小さな行動が嬉しくてたまらない。待ちに待ったデートだから、テンションが上がりすぎているのだろうか。
私たちは今、動物園に来ている。おうちデートもいいけど、思い出の品を作るにはやはり外がいいだろう。
入園して最初に目に入るのはホッキョクグマエリアだ。階段を登り、上から見物する。2頭はそれぞれ陸でウロウロしたり、プールで泳いだりしていた。
「シロクマさーーん!!」
隣で見ていた5~6歳くらいの女の子が叫んで手を振った。お父さんらしき人が微笑ましく見守っている。
「小さい頃を思い出します。私も父と来て、あんな風に手を振ってました」
「素敵な思い出ですね」
「私たちも作りましょう。行きますよ!」
私は先生の手を引いた。
猿、キリン、カバ、ゾウ……いろんな動物たちと相見える。ライオンの檻の前では写真を撮った。
実は小1の時、同じく父と写真に写った。でもその時の私は泣き顔。なぜなら百獣の王ライオンに背中を見せたら、襲われるのではないかと怖かったから。
今では笑い話だが、当時は号泣するほど怖かった。
帰ったら父にこの話をして、写真を見せよう。きっと成長したなと褒めてくれるだろう。
この動物園にはアトラクションもある。ランチの後はそこで遊ぶと決めていた。コーヒカップ、空中ブランコ、バイキング。小1の時は身長制限で乗れなかったものもあった。私は先生の手を握って楽しんだ。
池のほとりを散歩していると、対岸をスケッチしているおじさんに出会った。見せてもらったが非常に上手い。プロなのかと思ったが、本人はただの趣味だと言っていた。
「そろそろ時間ですよ」
おじさんとの会話に花を咲かせていると、先生が遠慮がちにそう言った。私はおじさんにお礼を言って、先生とギフトショップへ向かった。
「わー、いっぱいある。先生、どれがいいですか?」
「君の好きなものがいいですね」
どうせなら動物モチーフのものがいい。ハンカチか、シャーペンか、マグカップか……手ぬぐいや、がま口財布なんかもある。
「あ、これはどうですか」
迷いまくって決められない私を見かねたのか、先生がひとつ指差した。
「ライオンのキーホルダー?」
「日常使いできるもので、長持ちするものといえばこれです」
雄々しいたてがみがお洒落なシルバーのキーホルダー。たしかにこれなら長持ちしそうだし、大人の先生が持っていても違和感がない。私にとっても、幼稚に見えないのは助かる。
「いいですね、これにしましょう!」
私の答えに、先生はニッコリと微笑んだ。
その時、閉園間近を伝える鐘が鳴った。
帰宅して、父にも買っておいたお土産を渡す。『うさぎのフンチョコレート』を見てちょっと引き攣った顔をしたが、食べると美味しかったらしく、選んでよかったと思った。
「ねぇ父さん。今日ね、ライオンと写真撮ったよ。今度は泣かなかった」
「おお、そうか。成長したな」
父はチョコレートがついたのとは反対の手で私の頭をなでた。
「もう10年か」
「うん……」
私がこの家に来てから、今年で10年になる。
テーマ「時を告げる」
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