聖杯の奴隷、唯一無二の魔法学校

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第二話

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勇者パーティーが、魔王に敗北した。

――その報せは、瞬く間に世界を揺るがせ、絶望させた。

誰もが信じていた。
いや、信じたかったのだ。
ハイル・アルフテッド率いる《勇者パーティー》が必ず勝ち、地獄の戦場から生きて帰ることを。

だが、現実は残酷だった。
願いも祈りも、奇跡の剣も、魔王の前では何の意味もなく。
人類最後の希望は、砕け散る。

王国の鐘が沈黙を打ち破り、全土に重苦しい知らせが広がる。
市場で立ち止まる商人、祭壇で祈りを捧げる神官、訓練場で剣を止める兵士たち。
皆がただ、呆然と空を仰ぐしかなかった。

そしてそんな光景を、王都の高台に建つ城の一室から静かに見下ろす男がいた。

王国騎士団の頂点に立つ男――スレイド・アルゴバイト。

彼は机の前に腰を下ろしたまま、肘をつき、こめかみに指をあてて沈黙していた。
深く、重い呼吸。言葉では表現できない疲労が、その表情ににじんでいる。

「……報告に、誤りはないのだな、アレン」

スレイドは、わずかに声を震わせながら尋ねた。
言葉に出すことで、自らを現実に引き戻そうとしたのかもしれない。だが、その声には、今にも崩れ落ちそうな脆さが滲んでいた。

アレン――王国の斥候隊長であり、ハイルたちの遠征にも随行していた男。
彼は、目を伏せたまま、淡々と応えた。

「……はい。間違いありません」

その言葉には、確信と無念がないまぜになっていた。  

「戦死者の数、一万三千五百三十六名。生還、あるいは重傷を負いながらも回収された兵士、三千四百五十名。そして――」

アレンは一瞬、言葉を飲み込んだ。喉がひきつれたように動く。
それでも彼は、斥候隊長としての責務を果たすかのように、淡々と――いや、感情を押し殺して続けた。

「《勇者パーティー》の魔法使い、ライン・ナァーバ・アルトリアは消息不明。……彼が最後に立っていた場所には、彼の魔法の長杖だけが残されていました」

その瞬間、室内の空気が氷のように凍りついた。
息を呑む音さえ、聞こえなかった。その場にいる全員が言葉を失い、目を伏せた。

"消息不明"。
それは、もはや“死”と同義だった。

ましてや、魔法使いの命ともいえる長杖が、その場に取り残されていたのだ。
仮に生きていたとしても――この世界は、魔獣が跋扈する過酷な地。
術なき者が、ただ生き延びるにはあまりにも脆弱すぎる。

すなわち、それは希望すら許されぬ現実の楔。
――夢を見ることすら、赦されなかった。

スレイドは深く、長い呼吸を一つ落とす。
肺の奥まで重苦しいものが張りついたような、そんな感覚が全身を巡った。

「……勇者殿たちは、今……どうしている」

苦しみの只中にある彼ら――仲間を喪い、希望を砕かれた者たち。
あの喪失を、最も受け入れがたい存在である彼らの心が、いかばかりかを思えば……この問いは当然だった。

アレンは眉根を寄せ、小さく息を吐いて答える。

「現在、王家の客室に案内しております。……ですが、彼らの状態は、いまだ正確には把握できておりません。医師団と癒術師が交代で様子を見ておりますが――」

そこまで口にしたところで、アレンの視線が床に落ちた。

スレイドは、彼らが王都へ帰還した瞬間のことを思い返す。
まだ夜が明けきらぬ未明、血と泥に塗れた彼らは、まるで――“戦場から這い戻ってきた亡霊”のようだった。

五体は揃っていた。
だが、それは“無事”だったという意味ではない。

勇者も、聖者も、天才も、誰もが全身を傷に刻まれ、鎧は砕け、服は裂け、表情には魂の気配すらなかった。まるで“体だけが生きている”かのように、誰一人として言葉を発することもなく、ただ運ばれるままに客室へ消えていった。

スレイドはその時の光景を思い出しながら、無意識に拳を握る。
――あれほどの力を持つ彼らでさえ、あの戦場は“地獄”だったのか。
そして、その地獄の果てに――ライン・ナァーバ・アルトリア。あの魔法使いは、帰ってこなかった。

スレイドは深く、静かに息を吐く。少しでも感情を沈めるために。

「……我らにできるのは、生きて戻った者たちへの最大限の支援と――戦場で命を賭した者たちへの、敬意と弔いだ」

せめて――死者が安らかに眠れるように。残された者は、できうる限りの弔いを尽くさねばならない。

『生者にできることは、いつだって限られている』

その言葉を遺した男の姿が、静かに脳裏をよぎる。
若き魔導士――軽口と笑顔で仲間を支えた、あの男の面影が。

『あんたらが戦士なら、俺は盾だよ。誰も死なせねぇ魔法使いってのが、俺の仕事さ』

そう言いながら、迷いなく仲間の背に立っていた――その姿が、今も焼きついている。

スレイドは、そっと目を閉じた。
死者たちに祈りを捧げるように――そして、生者たちの痛みを背負うように。

夜明けはまだ遠い。だが、必ず太陽は昇る。

ならば今を生きる我らは、彼らの死に報いるために。
その光を迎えるために――また、一歩を踏み出さねばならない。
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