SAVE_YOU

星逢もみじ

文字の大きさ
9 / 180
一廻目 PLOW

第9話 ホログラム

しおりを挟む
 確か入場ゲートで案内をしてくれた女性の名前もリリィだったが、まさかあの女性を呼ぼうとしているのだろうか? 周りにそれらしき姿はないし、無線機のようなものを使っているようにも見えないが――。

「――どうかしましたか? 春ちゃん」
「うわっ⁉」

 背後から急に女性の声が聞こえて、思わず飛び上がりそうになる。

 反射的に振り向くと、そこには入場ゲートで話した女性――リリィが立っていた。こんなに近くにいたら気付くようなものだと思うが、入場ゲートの際もリリィの存在に気が付けなかったことだし、気配を消すのが相当上手いのだろう。

「あ、来た来た。ちょっと頼みたい事があってね!」

 対する春佳は、最初からリリィが近くに来ていたのを知っていたのだろう。驚くような素振りは一切見せずに、平然とした様子で話している。

「悪いんだけど、簡単でいいから志樹にPLOWの説明をしてあげてほしいの」
「志樹?」

 リリィは首を傾げながら俺を見る。

「あら、またお会いしましたね!」
「どうも」

 軽く会釈をする。

「え、なになに? もう知り合いだった?」
「ちょっと話した程度だよ」

 食い気味で聞いてくる春佳を冷静に制す。

「ふぅん?」
「春ちゃん、せっかく来てくれたのにお話だけで時間を取らせても申し訳ないから、そろそろ」
「それもそうだね、じゃあお願いっ」

 リリィは春佳の言葉に柔らかな笑みを浮かべた後、急に真面目な表情に変わった。所謂いわゆる〝仕事モード〟というやつだろう。

「それでは、今からPLOWについて説明をさせていただきますね。まずは私について話しておきましょうか」
「え~、もう話しちゃうの?」
「ここについてほとんど知らないなら、多分私の事も勘違いしていると思うから、ね?」

 口を尖らせてブーイングする春佳をリリィは優しくさとす。
 ……しかし、勘違いとはなんのことだろう?

「む~……。まぁいっかぁ」
「あまり情報を仕入れていない柊さんでも、ここPLOWには最先端の人工知能――AI技術が使われていることは存じていると思います。PLOWの枕詞まくらことばにもなっていますし」
「ええ、それは知ってます」

 最先端のAIが安全管理をしているということで、ニュースで話題になっていた。今さらだが、その時ホログラムについても耳にしていたような気もする。

「ここでは、そのAIがお客様の案内もしているんです」
「……AIが?」

 確かに最先端の技術を用いているとは聞くが、しかしAIに細かい案内など出来るだろうか? 記録している情報量こそ多いだろうが、人間の機微きびを汲み取る力があるかについては疑問を感じざるを得ない。

 ……いや、そもそも話の流れからしてリリィの話をするんじゃなかっただろうか?

「はい。かく言う私もPLOWで働くAIなんですけどね」
「……え?」

 思わず頓狂とんきょうな声を上げてしまう。これは彼女なりの冗談なのだろうが、どうツッコミを入れていいものか。助け舟を求めて春佳に視線をるも、ニヤニヤしながら俺の顔を見ているだけで、まるで頼りになりそうにない。

「えっと、これは嘘や冗談でもなく本当にそうなんです」

 俺が戸惑っている事に気付いたのか、リリィが本当なのだと補足してくる。

「いや、本当って言われても……」

 どこからどう見ても普通の女性。姿形に違和感は無く、こうしてやり取りをしていても会話に齟齬そごはまったく無い。そんな女性に私はAIです、などと言われても当然信じる事はできなかった。

「リリィの言ってることは本当だよ。本当にAIなの」

 ようやく助け舟を出してきたと思ったら、春佳までそんな事を言い出し始める。

「……あまりツッコミに期待されても困るんだが」
「う~ん、じゃあ証拠見せよっか」
「証拠?」
「リリィを触ってみれば分かるよ」
「触ってみればって……」

 女性の身体にそう気安く触れていいものではないだろうと躊躇ためらっていると、それを察してらちが明かないと思ったのか、リリィが近付いてきて俺の胸の前で手をかざす。

「失礼します。……驚かないでくださいね?」

 そう言うや否や、かざした手をゆっくりと俺の胸へ近づけてくる。

「っ……!」

 頭ではそんなわけが無いと思っているものの、心では何かがおかしいと感じているのか、心臓が早鐘はやがねを打つ。
 そうして、少ししてリリィの手が俺の胸に触れ――。

「――えっ⁉」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

下宿屋 東風荘 7

浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..☆ 四つの巻物と本の解読で段々と力を身につけだした雪翔。 狐の国で保護されながら、五つ目の巻物を持つ九堂の居所をつかみ、自身を鍵とする場所に辿り着けるのか! 四社の狐に天狐が大集結。 第七弾始動! ☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..☆ 表紙の無断使用は固くお断りさせて頂いております。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

【完結】一番腹黒いのはだあれ?

やまぐちこはる
恋愛
■□■ 貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。 三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。 しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。 ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」

masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。 世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。 しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。 入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。 彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。 香織は、八重の親友。 そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。 その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。 ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。 偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。 「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。 やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。 その中で、恋もまた静かに進んでいく。 「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。 それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。 一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。 現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。 本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。

沢田くんはおしゃべり

ゆづ
青春
第13回ドリーム大賞奨励賞受賞✨ありがとうございました!! 【あらすじ】 空気を読む力が高まりすぎて、他人の心の声が聞こえるようになってしまった普通の女の子、佐藤景子。 友達から地味だのモブだの心の中で言いたい放題言われているのに言い返せない悔しさの日々の中、景子の唯一の癒しは隣の席の男子、沢田空の心の声だった。 【佐藤さん、マジ天使】(心の声) 無口でほとんどしゃべらない沢田くんの心の声が、まさかの愛と笑いを巻き起こす! めちゃコミ女性向け漫画原作賞の優秀作品にノミネートされました✨ エブリスタでコメディートレンドランキング年間1位(ただし完結作品に限るッ!) エブリスタ→https://estar.jp/novels/25774848

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...