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三廻目 雀の千声、鶴の一声
第61話 力の差
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「はぁっ……! はぁっ……!」
――どれだけの時間が経ったのか、殴られすぎて身体の感覚が麻痺しているのだろう。もはやどこが痛みを発しているのかすら分からない。分からないのに身体は鉛のように重かった。こうして立っていられるのが不思議なほどだ。
花柳にダメージがあるのかも分からないが、流石に疲労しているのか、微かに息切れの音が聞こえてくる。
蛍は――見ていられなくなったのか、いつからか姿が見えなかった。当然だろう。今この場を目にする人がいたなら、殴り合いではなく一方的な暴力に曝されている被害者だと、そう誤解するほど俺と花柳のダメージ差は激しいのだから。
「……正直、ここまで立ち続けるとは思わなかったわ。そんなにあの子のことが大事?」
「はぁっ……はぁっ! 今っ、そんなこと関係ないだろ……っ!」
蛍が居ないのをいいことに――いや、仮に居ても同じことを言ったかもしれないが――そんなことを聞いてくる。
「いや、関係大アリでしょ。……まぁでもわざわざ聞く必要も無いことかしらね。そんなにボロボロになっても負けを認めないんだし」
「それは――」
違う、と咄嗟に否定したかったが、続く言葉が出てこない。木流さんにも同じ事を言われたが、その通りなのだろう。現にここまでする義理は無い。見過ごせなかったから、意地になって――というのもあるが、一番の理由はやはり蛍の事を……。
……いや、そんな無駄な事を考える意味も必要も、今は無い。
「……はぁ……これだけボコボコにしても外れてほしいネジは外れない、か」
「なに?」
「けど、そうね。もしその身体が理由なんだとしたら、痛めつけるだけ無駄ってことかしら」
「…………何のことだ?」
「恍けたって無駄よ。――その目、どこまで見えてるの?」
その一言に、時が止まった感覚を味わう。
「……どうしてそう思ったんだ?」
「やたらとピークポイントからズレた殴り方してくるもんだから、最初は単に空間把握能力が乏しいだけだと思ってたけど、あーしの攻撃に直前まで反応しない角度があることに気付いて、もしかしてと思ったのよ。……で、どこまで見えてるの?」
流石は百戦錬磨の達人といったところだろうか。そこまで確信をもって指摘されてしまっては言い逃れのしようもない。だが――。
「そんな事、馬鹿正直に教えるわけないだろ?」
「……まぁ、そうね」
花柳の指摘を認めた上で、これ以上自分の状態を晒す訳にはいかない。
いずれにせよ、今だけはこの場に蛍がいないことに感謝するべきだろう。
「それは先天性のもの? それとも……」
「後遺症だ。天寿症のな」
「ということは他にも――」
「お喋りをしに来たわけじゃないんだろ?」
なおも口を動かそうとする花柳に煽るよう言葉を被せる。
他の後遺症については、目の状態に比べれば大したことではない。
……とはいえ、ただでさえ天と地ほどの差があるのに、こちらの窮状まで知られてしまっては、いよいよ進退窮まったというべきか。
――いや、元から正攻法で勝ちを拾えるとは思ってなかった。諦めず粘る。それが勝利への唯一の道なら、ただそうすればいいだけだ。
「磨けば光るとは思ってたけど。……あーしの審美眼もまだまだってことかしら」
「っ!」
この闘いが始まってから初めて見る花柳の大きな隙。こんな絶好の機会を見逃す手はない……! 罠かもしれないという考えはすべて捨て、拳に込めて渾身の力で以てして花柳の顔面を殴りつける。
「うおおッッ‼」
「ぐっ‼」
身長差があった為、これまではボディばかりでなかなか顔を狙うことはできなかったが、ここにきて初めて確かな手応えを得ることができた。
よろけた花柳の鼻からは、その証拠とも取れる鮮血が流れ落ちる。
「よしっ!」
「――待ちなさい」
今が最大のチャンスとばかりに追撃しようとすると、花柳は血の出た鼻を抑えていない反対の手を広げて、こちらに向けてくる。
何か思惑があるのかとも思ったが、先ほどまでの威圧感は嘘のように消え去っていて、その姿にはまるで闘う意思が感じられなかった。
「……今のは、あーしの過ちに対する謝罪でもあるわ」
言いながら鼻に親指を当てて、ふんっと血抜きする。
「……どういう意味だ……?」
「あーしの負けってことよ」
「…………は?」
――どれだけの時間が経ったのか、殴られすぎて身体の感覚が麻痺しているのだろう。もはやどこが痛みを発しているのかすら分からない。分からないのに身体は鉛のように重かった。こうして立っていられるのが不思議なほどだ。
花柳にダメージがあるのかも分からないが、流石に疲労しているのか、微かに息切れの音が聞こえてくる。
蛍は――見ていられなくなったのか、いつからか姿が見えなかった。当然だろう。今この場を目にする人がいたなら、殴り合いではなく一方的な暴力に曝されている被害者だと、そう誤解するほど俺と花柳のダメージ差は激しいのだから。
「……正直、ここまで立ち続けるとは思わなかったわ。そんなにあの子のことが大事?」
「はぁっ……はぁっ! 今っ、そんなこと関係ないだろ……っ!」
蛍が居ないのをいいことに――いや、仮に居ても同じことを言ったかもしれないが――そんなことを聞いてくる。
「いや、関係大アリでしょ。……まぁでもわざわざ聞く必要も無いことかしらね。そんなにボロボロになっても負けを認めないんだし」
「それは――」
違う、と咄嗟に否定したかったが、続く言葉が出てこない。木流さんにも同じ事を言われたが、その通りなのだろう。現にここまでする義理は無い。見過ごせなかったから、意地になって――というのもあるが、一番の理由はやはり蛍の事を……。
……いや、そんな無駄な事を考える意味も必要も、今は無い。
「……はぁ……これだけボコボコにしても外れてほしいネジは外れない、か」
「なに?」
「けど、そうね。もしその身体が理由なんだとしたら、痛めつけるだけ無駄ってことかしら」
「…………何のことだ?」
「恍けたって無駄よ。――その目、どこまで見えてるの?」
その一言に、時が止まった感覚を味わう。
「……どうしてそう思ったんだ?」
「やたらとピークポイントからズレた殴り方してくるもんだから、最初は単に空間把握能力が乏しいだけだと思ってたけど、あーしの攻撃に直前まで反応しない角度があることに気付いて、もしかしてと思ったのよ。……で、どこまで見えてるの?」
流石は百戦錬磨の達人といったところだろうか。そこまで確信をもって指摘されてしまっては言い逃れのしようもない。だが――。
「そんな事、馬鹿正直に教えるわけないだろ?」
「……まぁ、そうね」
花柳の指摘を認めた上で、これ以上自分の状態を晒す訳にはいかない。
いずれにせよ、今だけはこの場に蛍がいないことに感謝するべきだろう。
「それは先天性のもの? それとも……」
「後遺症だ。天寿症のな」
「ということは他にも――」
「お喋りをしに来たわけじゃないんだろ?」
なおも口を動かそうとする花柳に煽るよう言葉を被せる。
他の後遺症については、目の状態に比べれば大したことではない。
……とはいえ、ただでさえ天と地ほどの差があるのに、こちらの窮状まで知られてしまっては、いよいよ進退窮まったというべきか。
――いや、元から正攻法で勝ちを拾えるとは思ってなかった。諦めず粘る。それが勝利への唯一の道なら、ただそうすればいいだけだ。
「磨けば光るとは思ってたけど。……あーしの審美眼もまだまだってことかしら」
「っ!」
この闘いが始まってから初めて見る花柳の大きな隙。こんな絶好の機会を見逃す手はない……! 罠かもしれないという考えはすべて捨て、拳に込めて渾身の力で以てして花柳の顔面を殴りつける。
「うおおッッ‼」
「ぐっ‼」
身長差があった為、これまではボディばかりでなかなか顔を狙うことはできなかったが、ここにきて初めて確かな手応えを得ることができた。
よろけた花柳の鼻からは、その証拠とも取れる鮮血が流れ落ちる。
「よしっ!」
「――待ちなさい」
今が最大のチャンスとばかりに追撃しようとすると、花柳は血の出た鼻を抑えていない反対の手を広げて、こちらに向けてくる。
何か思惑があるのかとも思ったが、先ほどまでの威圧感は嘘のように消え去っていて、その姿にはまるで闘う意思が感じられなかった。
「……今のは、あーしの過ちに対する謝罪でもあるわ」
言いながら鼻に親指を当てて、ふんっと血抜きする。
「……どういう意味だ……?」
「あーしの負けってことよ」
「…………は?」
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