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第二章

別離

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 突如目の前に現れたアンクに、ナミは目を見開く。抵抗する間も無く、アンクはナミの額に手を当てた。すると、ナミは膝をついて倒れ込み意識を失う。アンクは全身びしょ濡れだった。

「川に放り込まれて助かった。ナミ殿の記憶からナギ殿との仲違いの記憶は消した故、これからは黄泉の王としての役割をしっかり果たしてくれるだろう」
「アンク! そんなことよりショウを見てくれ! 消えかけてる!」

 デンの叫びに、アンクは慌ててショウに駆け寄った。その状況を見て、表情が陰る。

「すまない、私に治癒の能力はないのだ。すぐに地上に戻り、シエルを探して——」

 ショウがアンクの腕を掴んだ。

「もう、いいや。僕はこのまま消滅するよ」
「何を言うんだショウ! アンに会うんだろう? 母上が意識を取り戻し呪いが解ければ、アンだって黄泉に来ることができる。お前たちはなにも悪くないんだ、閻魔王だって分かってくれる! 輪廻の塔でふたりで幸せな来世を送るんだ!」

 デンの言葉に、ショウは瞳から感情をスッと落とす。そうして、今までのことを悔いるように、自分の運命を受け入れたようにフフっと、笑った。

「無理むり。僕たちが何人もの人間を呑んだこと、忘れたの? 本当なら試練に落ちて、永遠に苦しむことになってもおかしくない。むしろこれで消滅出来るなら幸せだよ」

 ショウは手に握っていた小さな赤い球を、アンクに差し出す。

「これは僕の核。これをアンに飲ませれば、腹の中の神は吐き出されると思う。それでもダメだった時は、そこにある“薙の刀”でアンを切って」

 ナミの手から離れた刀が、なまめかしく光る。デンは涙を流した。 

「ショウ。ちゃんと愛せずに、すまない」
「もういいよ」
「ショウ。絶対に忘れないから」
「ははっ、忘れてくれ」
「ショウ……」
「もう、しつこいな。次は何だよ」

 デンは胸から喉に込み上げる痛みを、奥歯を噛み締めて堪える。最後に見せる顔くらい、目一杯の笑顔でいようと思ったのだ。

「お前は、俺の息子だ。たったひとりの長男だ」

 ショウは目を細めた。

「ありがとう、父さん」

 だんだんと消えていくショウを、デンは腕の中が空っぽになっても尚、抱きしめ続けた。
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