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最後のピース

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 遥は目の前の建造物を見上げる。

 三角錐のそれは、教科書で見たまさしくピラミッドだった。
 
 そもそも、鉱山を抜けたあのオアシスの先がこんな砂漠だなんて、誰が想像するだろうか。そのチグハグ加減に慣れている自分を適応能力が高い、なんて心の中で褒めてみる。


「これが扉か」

 
 ピラミッドの内部へと進むと、床に鉄製の板を見つけた。一畳ほどの大きさの板の中央に、正方形を九等分にした小さな鉄の板が八枚はまっている。
 それぞれに文字や図形がついているが、パズルのように全てで一枚になるようなものには見えない。
 
 文字は兎、牛、鳥、花、風の五つ。
 図形は丸、三角、ダイヤの三つ。
 
 全てを取り外すと、正方形の型の内側には雲島の地形の線が掘って描かれていて、中心にはバツ印。方角を示す記号も左上の角に彫ってある。
 
 遥は方角を示す記号を見ながら、自分の上が北になるように場所を移動した。
 
「花……カエルレアの、花……」
 
 遥は、みのりに聞いた昔話を思い出していた。

 アンクは花を探し求めて旅をする。友の鳥、神からの愛、集めたガラス……
 遥は記憶を手繰り寄せた。
 役場前の石看板にあった撫子の花の横に書かれていた花言葉は『純愛』だ。

 カナリアは鳥、撫子の花は純愛、そして玻璃はりは水晶、ガラス。

 遥は型に彫られた雲島の地形をじっと見つめ、村の配置通りに中段の右に鳥。下段の真ん中に花、そして中段の左に水晶の形である丸の板を、それぞれ村の配置にはめてみた。

 特に、変化はない。
 
 板は全部使うのか。板の枚数から考えても、真ん中のバツ印に板は置かないのか。

 上段に当てはまるのは、地形的におそらくここ白群にまつわるなにかだ。頭の中で白群と雲島の地図を重ねる。ダイヤモンド島と呼ばれる雲島、その地形の上部に三角形を当てはめれば、菱形のダイヤが完成する。遥はさらに、上段の真ん中に三角の板をはめ込んだが、それでも何の変化も見られなかった。
 
「……だめか」
 
 遥は一旦立ち上がり、ピラミッドの内部を見上げるようにして眺める。床の鉄板以外、特に変わったものはない。壁に文字があるわけでもなく、天井の真ん中には魔除けの猫を象ったモチーフが吊るされて揺れていた。
 
 遥は再び床の板に戻る。残りの板を適当にはめては、取り出す。

「こんなことをしている場合じゃ、ないのにな」

 この扉が開いたところで何の当てがあるわけではない。明日に迫る会見に向けて、正和の不正を暴く準備もある。そんなことを考えながらふと、バツ印の上に手に持っていたものを置いた、その時だった。

「え——」


 
 カチッ、と。小さく響いた解錠音は、遥の耳にしっかりと届いた。
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