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第一部
サユリ
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「なるほど、逸士さんは拓郎さんの存在を小百合さんから知らされたわけですね。それはいつ頃のことですか?」
「え? ああ、小百合……っていうか、俺はさっきまですみれだと思っていたから、あれだが……その、親父や他の兄弟が死んだ事情も集団食中毒だと聞かされていたし、拓朗の存在も含めて、全てフランスから呼び戻された時に聞いたんだ。ただ俺は親父が死んだことを隠さなければ、その……」
「この家に流れる不正な金銭の一部を、あなたが使い込んでいることがバレると思った」
遥の問いかけに、逸士は慌てて立ち上がる。
「使い込んだなんてそんな言い方! 俺はただ、すみれが使ってくれって寄越すから、つい」
勢いを無くした逸士は小百合を横目で気にしつつも、弱々しく椅子に尻をつけた。
「つまり逸士さんも拓郎さんも、小百合さんに金銭的な恩義があったわけですね。だからおふたりは小百合さんに提案された成り代わりの計画を受け入れた。でもおかしいですよね、これ」
遥の視線につられるように逸士、拓郎、そして翔太は小百合を見る。
当の小百合はというと、じぃっと前を見据えたまま部屋の壁の模様を目で追っていた。
「おかしい、って?」
無関心な表情。それに反して、小百合の声色には熱がこもる。
「わたくしはただ、さくらが拓郎との結婚を理由にあなたと涼子さんを屋敷に呼ぶことを知って、先手を打っただけや。この家の秘密がバレたら、わたくしかて立場が危ういんやから。大体わたくし、あなたのこと助けてあげたやないの」
視線噛み合わないまま、遥は小百合の横顔に言葉を投げた。
「そうですね。小百合さんは、さくらさんから私を守ってくれた。でもそれが最初から計画の内だったとしたら? さくらさんが私を襲い、あなたが助ける。あの時、立ち去るさくらさんを追わないように私を引き止めたのも確かあなたでしたよね、小百合さん」
「…………」
「あなたの部屋のモニターを見た時から違和感はありました。今このリビングにあるモニターと違って、あなたの部屋のモニターは相当型の古いタイプ。上部に埃も溜まっていましたし、随分昔からあるものだと感じました。だとするとあのモニターは、私と涼子さんが来ることを想定する、ずっと前からあの部屋に置いてあることになる」
小百合は無言のまま、蝋人形のようにじっと前を見たままだ。
「更に不思議だったのは、そのモニターに映る監視カメラの映像。映像には廊下やリビング、調理場から庭先までもが収まっていました。あれはどう見ても、不審者や部外者を見極めるためのものじゃない。常日頃からこの屋敷を監視し、内部を牛耳るための支配の証。私にはそう見えました」
その時。
ぐりん、と顔だけを遥に向け、座ったままの小百合はニィっと口角を上げた。
「……あんた想像以上やな」
その不気味さに、翔太は反射で遥の前に一歩踏み出た。遥は続ける。
「そもそも、どうしてさくらさんは拓郎さんの存在を知っていたのでしょう。逸士さんですらその存在を最近まで知らなかったという彼を、婚約者として立てるようさくらさんに提案したのは小百合さん、あなただったのではありませんか? あなたは最初から、さくらさんが私と涼子さんをこの屋敷に呼ぶ目的をご存知だった。なぜならあの時、私を引き止めたあなたは言ったのですから」
「わたくしが、なんて?」
遥は己を鼓舞するように、ギュッと拳を握りしめた。
「『大丈夫、お連れ様は無事です』って」
「え? ああ、小百合……っていうか、俺はさっきまですみれだと思っていたから、あれだが……その、親父や他の兄弟が死んだ事情も集団食中毒だと聞かされていたし、拓朗の存在も含めて、全てフランスから呼び戻された時に聞いたんだ。ただ俺は親父が死んだことを隠さなければ、その……」
「この家に流れる不正な金銭の一部を、あなたが使い込んでいることがバレると思った」
遥の問いかけに、逸士は慌てて立ち上がる。
「使い込んだなんてそんな言い方! 俺はただ、すみれが使ってくれって寄越すから、つい」
勢いを無くした逸士は小百合を横目で気にしつつも、弱々しく椅子に尻をつけた。
「つまり逸士さんも拓郎さんも、小百合さんに金銭的な恩義があったわけですね。だからおふたりは小百合さんに提案された成り代わりの計画を受け入れた。でもおかしいですよね、これ」
遥の視線につられるように逸士、拓郎、そして翔太は小百合を見る。
当の小百合はというと、じぃっと前を見据えたまま部屋の壁の模様を目で追っていた。
「おかしい、って?」
無関心な表情。それに反して、小百合の声色には熱がこもる。
「わたくしはただ、さくらが拓郎との結婚を理由にあなたと涼子さんを屋敷に呼ぶことを知って、先手を打っただけや。この家の秘密がバレたら、わたくしかて立場が危ういんやから。大体わたくし、あなたのこと助けてあげたやないの」
視線噛み合わないまま、遥は小百合の横顔に言葉を投げた。
「そうですね。小百合さんは、さくらさんから私を守ってくれた。でもそれが最初から計画の内だったとしたら? さくらさんが私を襲い、あなたが助ける。あの時、立ち去るさくらさんを追わないように私を引き止めたのも確かあなたでしたよね、小百合さん」
「…………」
「あなたの部屋のモニターを見た時から違和感はありました。今このリビングにあるモニターと違って、あなたの部屋のモニターは相当型の古いタイプ。上部に埃も溜まっていましたし、随分昔からあるものだと感じました。だとするとあのモニターは、私と涼子さんが来ることを想定する、ずっと前からあの部屋に置いてあることになる」
小百合は無言のまま、蝋人形のようにじっと前を見たままだ。
「更に不思議だったのは、そのモニターに映る監視カメラの映像。映像には廊下やリビング、調理場から庭先までもが収まっていました。あれはどう見ても、不審者や部外者を見極めるためのものじゃない。常日頃からこの屋敷を監視し、内部を牛耳るための支配の証。私にはそう見えました」
その時。
ぐりん、と顔だけを遥に向け、座ったままの小百合はニィっと口角を上げた。
「……あんた想像以上やな」
その不気味さに、翔太は反射で遥の前に一歩踏み出た。遥は続ける。
「そもそも、どうしてさくらさんは拓郎さんの存在を知っていたのでしょう。逸士さんですらその存在を最近まで知らなかったという彼を、婚約者として立てるようさくらさんに提案したのは小百合さん、あなただったのではありませんか? あなたは最初から、さくらさんが私と涼子さんをこの屋敷に呼ぶ目的をご存知だった。なぜならあの時、私を引き止めたあなたは言ったのですから」
「わたくしが、なんて?」
遥は己を鼓舞するように、ギュッと拳を握りしめた。
「『大丈夫、お連れ様は無事です』って」
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