7人の聖女プラス1

七転び早起き

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ラバニエル王国編

第23話 エルフィーさんへの貢ぎ物を造る

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 城下町に来て2日目の朝。私はベッドの上で見慣れぬ天井を見てこう言った。

「少しだけ知ってる天井だ」

 ここはカルビーンお爺さんのお家。昨日、第三城壁の手前でガツンとした食事と幼女とのふれあいを楽しんだあと、夕方を過ぎてカルビーンお爺さんの家に戻ると怒られた。
 それは仕方のないことだ。だってサーシャさんが私の為にとご飯を作って待ってたのに一向に帰って来ない私が悪かった。(サーシャさん、ごめんね)

 そして私はテーブルに乗り切らないほどの料理とサーシャさんの笑顔の前で「スモールボアの後ろ足一本食べてお腹満腹なの」とは言えず、今の私に出来る最大限の笑顔でサーシャさんの手料理を頂いた。(うん、めちゃくちゃ美味しい。ガツンな料理もあるしスモールボア狩らなければよかったよ‥‥‥)

 でもカルビーンお爺さんが美味しそうに食べる姿を見て喜ぶサーシャさんが可愛くて、私も幸せな気持ちになれたのでヨシとしよう。
 それから3人で色々な話をして盛り上がった夕食は夜遅くまで続き、私はカルビーンお爺さんのお家に泊まることになったの。
 それでね、昨日の夕食の時1つバカ受けした話があったんだ。それは西の森に行ってる息子さんの話なんだけどカルビーンお爺さんが話してくれたんだ。

「ワシの息子は西の森で狂暴種から人々を守る為に頑張ってるんだ。それはとても立派なことだ。でもなぁ、親としては早く嫁さんをもらって孫の顔を見せて欲しいんだがな。
 もう36歳だぞ?家に彼女を連れてきた事もないんだぞ?あのバカ息子のカールめが!」

「ぶふぉー!い、今なんとおっしゃった?」

 私は飲んでいた水を勢いよく吹き出した。

「うおっ、きたねぇなあ。あぁん?彼女を連れて来た事がないって言ったんだよ!」

 カルビーンお爺さんは私が吹き出した水がモロに顔にかかってご立腹だ。首に巻いていた薄汚いタオルで拭いていた。(それ大丈夫?)

「いや、そこじゃなくて息子さんの名前」

 それを聞いたカルビーンお爺さんは疑いの目で見ながら思案する。そして探るように話し始めた。

「ワシはカルビー‥‥‥‥ンお爺さん。それなら息子はカー○おじさんだな!」

「ぶふっ!的確で攻撃的な回答ありがとう!」

 と、そんな一幕があったのさ。それじゃあ朝ご飯を食べに行くとしましょう。
 私はベッドを下りて借りていたサーシャさんの寝巻きから昨日着ていた服に着替えて台所に向かった。そこにはすでにサーシャさんが朝ご飯を作っている姿が見える。とても元気で楽しそうに料理を作っていた。

「サーシャさん、おはよう!」

 私は元気よく挨拶してサーシャさんの隣に立ち、サラダの食材で切り終えたものを準備していた皿に盛り付けていった。

「ふふ、おはよう奏ちゃん。やっぱり女の子はいいわね。私はね、こうやって娘と一緒に料理する事が夢だったの。それが今叶ったわ」

 そう言って私を見て微笑むサーシャさん。私もお母さんが出来たみたいで嬉しかった。それから少しして外からカルビーンお爺さんが戻って来た。どうやら庭の手入れをしていたみたいだ。首に巻いた薄汚いタオルで汗を拭く姿がとても汚ならしい。

「カルビーンお爺さん、その薄汚いタオルは洗ってるの?汚い顔が余計に醜くなるよ?」

「誰が醜い顔じゃ!汚い顔に訂正せい!」

「どっちも一緒じゃん」

 その私とカルビーンお爺さんの漫才に笑い始めたサーシャさん。小さな両手で口を押さえて笑う姿はまるで可愛い少女のようだ。

「ふふふ、とても楽しいわ。奏ちゃん、あのタオルはね、カルビーンが怪我で軍の仕事を辞めて庭師になった時に私がこれから必要になるからとプレゼントしたものなの。
 洗っても落ちないくらい汚れているのに『これが気に入っているんだ』って、ずっと使ってるのよ。可愛いところがあるでしょ?」

「はは、顔は醜いのに心は男前だね」

「うっさいわい!」

「「ふふふ、ははは」」

 そして3人は楽しそうに笑っている。それはまるで幸せな家族のようであった。

「「「いただきます」」」

 それから朝食の準備も終わり、3人はテーブルに着いて食事を始めた。そして食事中の話題は私の今後のことだった。

「なあ、ほんとに宿を探すのか?昨日も言ったがここで生活してもいいんだぞ。まあなんだ、奏嬢ちゃんはもう娘みたいなもんだからな」

  そう照れながら話すカルビーンお爺さん。そして「そうよ、そうよ」と期待を込めた眼差しで見るサーシャさん。

「あのね、私も2人の事が大好き。でもね、私は1人で生活してみたいの。私は大丈夫。それにちょくちょく遊びにくるから」

「ほんとね?待ってるからね?毎日でもいいのよ?あの客室はすぐに奏ちゃんの部屋に模様替えしちゃうから、いつでも泊まってくれていいんだからね?」

「サーシャ、それじゃあ一人暮らしとは言えんだろ?二日置きくらいにしないとな」

 カルビーンお爺さんがそう言ったあと、3人は見つめ合い笑い合う。

「ふふ、カルビーンお爺さん、サーシャさん、ありがとう。とても嬉しいです」

 そして楽しい朝食は終わりカルビーンお爺さんは仕事に向かう為、私はある事をする為に行動を開始した。(サーシャさんは後片付けや洗濯するって言ってた)

 私は客室にカルビーンお爺さんからもらった小樽を運び込み床に並べていく。その数は3つでその中身はエールだ。1つに2リットルくらい入っているだろうか。それからサーシャさんが何かに使えるかもと残していたチェリー酒の小樽を1つもらってきた。

 これから私がするのは蒸留酒造り。大麦が原料のモルトウイスキーを造ろうと思う。それも聖女の力を使った特別製のものだ。これは素敵なナイフを譲ってくれたドワーフのエルフィーさんへの貢ぎ物にするつもりだ。

 私は以前サバイバル生活でお酒を造った事がある。まあ密造酒ってヤツだ。父親がいつか役に立つからと教えてくれた。(ほんとマジで役に立つ日が来ちゃったよ。もう驚きだよ)

 本来なら大麦を準備し発芽させて乾燥し、綺麗でミネラル豊富な水に混ぜ込んだ後、ウイスキー酵母で発酵させ蒸留して造るのだがそのウイスキー酵母がない。仕方がないので同じ大麦が原料のエール酵母を使って造るエールでモルトウイスキーを造る事にしたのだ。それも市販のエールを使うので、蒸留の工程から始めればいいので楽でいい。
 そしてその蒸留からの工程も蒸留器などを使う変わりに聖女の力で何とか出来ないか、これから試してみようと考えた訳だ。

「さて、蒸留するわけだがその前にちょっとエールの品質を上げておこう」

 私はエールが入った小樽を1つ目の前にして蓋を開け、コップに少しだけ入れて飲んでみる。(味見だね)そして青の聖女の能力『清涼』を使う。

「エールの成分はそのままで、水分から不純物を取り除きミネラル豊富な水質に変わってくださいな!」

 すると小樽の中のエールが一瞬青く輝き波打った。(おっ、反応したという事は成功したのかな?)私は再びコップに少しだけ入れて飲んでみる。(内緒だけどいける口なんだよね)

「おおー!全然違うのです!雑味がなくてスッキリした味わいに大変身してるー!これって大麦から色々やってみたらもっと美味しくなるんじゃない?」

 あまりの違いに私はビックリ仰天だ。

 そして次に蒸留の工程だ。これは沸点が水より低いアルコールの性質を利用するもので、約80℃で沸騰させるとアルコールだけが蒸気となり、その蒸気を集め冷やすとアルコール度の高い酒清が出来上がる。私は再び青の聖女の能力『清涼』を使った。

「アルコール度数が40度前後になるように旨味は残して水分をとばしてください!」

 これはちょっと無理かなと思っていたが青く輝き波打つ小樽の中のエール。私は喜びコップに入れて飲んでみた。

「くぅ~、この舌が焼けるような刺激とカァっと喉と胃が熱くなる感覚。そしてアルコール感溢れる旨味のないガツンとした味わい。正しくこれはニューポットだね」

 ニューポットとは蒸留したてのウイスキーのことで、この時点では透明でカドが立つ口当たりなのだ。それを樽で寝かせる事によって琥珀色に変わりまろやかな口当たりになる。そして樽の種類(材料や入れていた物)によって味わいが色々と変わってくるのだ。その寝かせる年数は最低でも3年で、10年以上寝かせると旨いウイスキーが出来上がる。

 そこで今度は緑の聖女の能力『促進』を使ってこの寝かせる工程を試してみた。

「さあ、小樽と中のエールちゃん。あなた達はこれから20年の歳月を共に過ごして仲良くなるの。それではご機嫌よう!」

 それはもはや詠唱の言葉ではなくただの会話だ。私は「イメージが大切、イメージが大切」と呟きながら成功を祈った。

 そしてそのただの会話(独り言)はいったいどうなるのだろうか。(私は信じてるよ!)
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