アームス

銀河星二号

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転がるコイン

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 それは黒い金属で出来ているように見えた。光に当てると、表面が白く煌めいた。それが俺の右腕に付いていた物体だった。

「こ、これは?」
「それがアームス。あなたの新しい力よ!」



 少し前の事だ。

 それはほんのちょっとしたきっかけだった。俺は自販機にコインを入れようとして、それを落としてしまったのだ。

 コインはコロコロと転がり、ビルとビルの隙間に入って行った。

 俺はそれを追いかけてビルの隙間に入った。

 狭い。体を横にしてようやく通れる幅しかない。俺はカニ歩きで前へ……いや横へ進んだ。

 コインは潰れた空缶の横に転がっていた。

 手を伸ばす。あ、ヤバい。つりそう。ストップストップ。俺は体を元に戻した。

 少し考える。外の方法が無いかと思ったのだ。何か道具は……箸とかトングとか……無いな。周りを見渡したが、やはり使えそうなものは無かった。やっぱ素手でやるしかないか。

 俺は息を吸い込んで体を横に九十度曲げてコインへ手を伸ばした。指先にコインが触れる。

「もうちょっと……」

 俺は震える指先でコインを挟み、持ち上げて左手で受け取り、そのままズボンのポケットに押し込んだ。

「ふう……」

 俺は安堵して一息ついた。その時だ。その光景が目に入ったのは。



 少し先が開けているのが見えた。ビルの谷間に公園か中庭があるかのようだった。

「何だろう……」

 興味を引かれた俺は更に奥へと進んだ。そこには開けた空間があった。

 一本の木が生えていた。木は高く生い茂っていて、枝の隙間から太陽の光が降り注いでいた。

「いらっしゃい。応募の方ですか?」

 そう俺に問うたのは、樹の下に露天を開いていたある人物だった。いや、人物と言っていいものか……人では無い。エルフだ。女の子のエルフがそこにいた。

 短いツインテールの金髪の髪。黒フチの眼鏡をかけ、その奥には明るい緑色の目。耳はエルフなので当然尖っている。

 服装は質素ながらちゃんとしたもので、白い模様入りの襟シャツに黒いボトムス。首元には蝶ネクタイが付いていた。

「これ、書類なので書き込んで下さい」

 そう言って彼女は机の上に何かの書類とペンを取り出した。

「あ、いや、えっと……」
「初めての方ですか?」

 そう語りかける彼女の笑みに少し戸惑った。

「何の応募か知らないけれど、俺は偶然ここに通りかかっただけで……」
「あれ?そうなんですか?なーんだ……」

 そう言うと彼女は傍らに積んであった文庫本サイズの魔導書を読み始めた。それを見た俺は少しムカついて、話を少し深堀りしてみることにした。

「ところで、何の応募?誰でも可能なの?俺でも?」

 そう言うと彼女は魔導書を置いて、俺をジロジロと上から下まで眺めた。

「ヒューマン……人間の方ですか?何か得意なものはあります?」

 得意なもの……料理なら多少は。目玉焼きには自信がある。妹もウマイって言ってくれるし。

「りょ、料理なら!」

 俺がそう答えると、彼女は露骨にイヤな顔をした。

「……戦闘系で……」

 戦闘系?傭兵か何かなのか……じゃあ無理だな。

「あ、無理そうなんで、また今度と言う事で」

 俺は手を振り、愛想笑いをしてそこを後にする事にし、後ろを向いた。すると、上げた右手をむんずと掴まれた。

「あなた、その手の紋章!」
「紋章……?」

 自分の手を見ると、手の甲にひし形の複雑な光る図形が現れていた。いつの間に?

「なんすか?これ?」

 そう聞いてみたが、女の子はすぐには答えなかった。その目には戸惑いが見える。

[えーと、えーと……アレとは違うし……黒……いやいや。あ、そうだ!」

 そう言うと、女の子は傍らにあった大きなバッグを弄り始めた。良く分からない機器やヌイグルミなどがバラバラと周りに放り出される。

「違う……これも違う……持って来たはずなんだけどな……あった!」

 女の子が手に取ったのは、分厚い百科事典ぐらあある古そうな本だった。そしてパラパラと頁をめくって俺の手の紋章と何度も見比べ、最後に絶望した。

「無い……どこにも無い……未知だわ……」
「分からないの?」

 どうやらその言葉がいけなかったらしい。

「わ、分からない訳無いじゃないですか!こ、この道、百年近くやってるんですよ!まだバイトだけど!」

 百年バイトか。エルフの感覚だと数ヶ月ぐらいなんだろうか。

「そうだ!機械を使いましょう!測定器!これさえ使えば……!」

 そう言って彼女は横にあった機械らしきものを机の上にゴトリと取り出した。おおよそ四角く分厚い金属の物体で、真ん中に白い球体が埋め込まれている。

「この丸の上に手を乗せて下さい?」
「何で疑問形なんですか?」
「使ったこと無いもの!」
「そう自信を持って言われても……」
「は、早くっ!」
「何で避けてるんですか?」

 彼女は大きな本を盾にして、向こう側から片目を瞑ってこちらを覗いている。

「だって、爆発したら危ないじゃないっ!」

 測定器と言ってるから大丈夫だとは思うけど、もしかしたら、人生終わる覚悟が必要かもしれない。……いや、無いな。乗せよう。

「じゃ、乗せますよ」
「早く!」

 俺は測定器に右手を乗せた。機械からピロロンと言う間の抜けた音がした。どうやら爆発は無いらしい。良かった。

「……」

 彼女は相変わらず腰を引いて、本の向こう側からこちらを覗いている。機械はジーコジーコと音をさせて動いている。多分スキャンしているのだと思う。

「あの……これどれぐらい乗せていれば?」
「近づかないでっ!」

 明らかに危険物扱いである。しかし作動中に動く訳にもいかない。仕方が無いので周りの風景を観察してみることにした。

 建物に囲まれている空間だ。片側は俺の良く知る現代的なグレーのビル。もう片側はファンタジーに出てくるような茶色の石造りの巨大な建造物。大きさ的にはビルに負けていない。

 その建造たちが遥か上、五十メーターぐらいまで伸びている。異質な文明が並ぶ様は不思議で迫力がある。

 そして真ん中には巨木。建物群の更に上まで伸びていて、先がどうなっているのかは見えない。

 空気は少し湿っぽい。地面を見ると、固められた土と短い草。所々に水たまりがある。雨でも降ったんだろうか。

 歩道があった。ファンタジー世界側から、石造りの通路が木の下まで伸びている。作りはデコボコとして荒い。

 ピローン。何かが出来上がった音がした。どう考えてもこの機械だ。彼女は恐る恐るこちらに近づいて来て、機械を覗き込んだ。

「どう?」
「エラー…………」
「じゃ、俺はこれで!」

 いかん、ポンコツ娘に違いない。何だよ、謎の紋章で異世界無双するかと思ったら。まあ、現実は甘くない。

「待って!まだ手があるの!」
「え?」
「私と戦いなさいっ!その力、私が直接見極めてやるわっ!」
「いや、確かめるも何も、俺、使い方とか知らないし」
「簡単よ!胸の前に手をこう構えて、こう言うの!」

 俺は彼女の振りを真似て手を胸の前に構えた。

「暗黒神、ハイドリオンの力!今ここにっ!」

 彼女からオレンジ色のオーラが立ち昇った。

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