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シーズン1-序章

037-空中戦 中編

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加速を続けるクロノスのコックピット内では、アラートが常に鳴り響いていた。
先程減速したときに、各部のスラスターに高負荷が掛かり、結果として数基が起動しなくなっているのだ。
私はそれらが発するエラーを一つずつ取り除いていく。
正規の手段で停止しないと、予期しないエラーを招くからだ。

『おーい、着いたぞ! 指示を頼む!』
「ああ.......並列処理開始、戦闘指揮に移行します」

エラー処理を並列処理に任せ、私は前を向く。
モニターの向こうには、警備船が次々と発艦していく基地が見えていた。

「なるほど.......分かりました、降下ルートを算出します」

下手に飛び出すと、発艦中、もしくは発艦直後の警備船に狙われる。
上部パルスレーザーとは違い、両側についたレーザー砲は脅威だ。
しかし、レーザー砲は取り回しが悪く、正面に居る敵しか基本的に狙えない。
つまりは旋回させないように裏を取り続ける必要があるのだ。
私は、発艦時に警備船が取る軌道と、そこから機体を安定させつつ旋回させるにはどうするかを慎重に考える。
勿論、思考加速の上であるので、熟考といっても数秒程度だが....

「.......構築完了、不完全ですが乱数を考慮に入れていません、ですから――――」
『細かい事は後から考える! 突撃ッ!』

一瞬コックピットが軋み、モニターに表示された速度計が一気に増加する。

「は.....速すぎます! 速度を落として......」
『まずは一隻!』

遂にクロノスが、こちらの指示を無視した。
そして、プラズマキャノンが放たれた。
中距離からプラズマ弾を受けた敵艦は、プラズマ弾の破裂によって装甲を破壊される。
そして、次なるクロノスの拳によって機関部を貫かれ、轟沈した。

『ハハハ、オレの拳には勝てなかったか!!』
「クロノス!!」

私は叫ぶ。

「いい加減にしてください、クロノス! ここは戦場です、あなたの遊び場ではないのですよ!?」
『わ、悪い......でもよ、ちょっとくらい』
「作戦指揮を再開します、指示に従って降下してください」
『頼むぜ.....』

クロノスは空を切って降下し、一機ずつ警備船を破壊していく。
そして、低高度に到達する。

「基地の破壊を優先します、パイルアンカー射出」
『オッケー!』

クロノスがアンカーを射出し、杭は基地の壁面に突き刺さる
そのまま巻き上げを開始して、私たちは全速で基地に迫る。

「プラズマキャノンを発射準備状態にしてください!」
『もう出来てるぜ!』
「………五発に分け、滑走路を塞ぐように発射してください」
『了解!』

私たちの目的は基地の破壊ではなく、発進を阻止することにある。
他の基地の破壊も目的にある以上、時間を掛けてはいられない。
私はもっとも効率的な射撃ポイントを5点提示し、クロノスに転送する。

「任意のタイミングで発射してください」
『じゃ早速!』

クロノスは真横に滑空しながらプラズマキャノンを連射する。
微妙にずらしながら撃っているのは、この速度だと真っすぐに飛ぶわけではないからだ。
更に、数発に分けたのも理由がある。

『な、何だ!?』
「落ち着いてください、基地の対エネルギーシールドです」

一発目が着弾した途端、基地のエネルギー偏向シールドが負荷に耐えきれずに砕け散る。
流石に軍用プラズマキャノンに耐えられる程の耐久性はなく、あくまで制圧防止用のシールドであるからだ。
シールドのなくなった基地に、順番にプラズマ弾が命中し.....クロノスが離脱すると同時に小爆発が巻き起こる。

「格納庫ハッチの破損を確認、安全プロトコルの発動条件を満たしました。これで当該基地は機能を喪失したものと認定されました」
『次行くぞ!』
「うっ......加速時には一度停止してください!」
『わりぃ!』

クロノスが急加速したことで、一瞬視界にグリッチが掛かる。
実は、私自体はあまり負荷に耐えきれる構造ではない。
帰ったら、ある程度自力で重力制御できるユニットを提案してみる必要があるかもしれない。

「警告、後方より二機が追随してきています」

既に発進した警備船が、通報を受けてかこちらを追ってきていた。
恐らく振り切れるだろうが......

『倒すか?』
「得策ではありませんが、民間への被害の可能性がないとは言及できません」
『じゃ、やっぱり倒そうぜ』

クロノスは大きく旋回してスピードを落とし、

『飛ばすぞ』
「はい」

しっかり警告を飛ばした直後に急加速した。
警備船はクロノスの急加速に対処できていない。

「恐らく、対象は自律制御下にあります」
『狂ってねえのか?』
「いえ、異常制御下にあるのは確かですが、メインコンピューターの制御下にない状態です」
『まあいいや、ブッ壊せばいいんだな!』
「あっ、被弾に注意してください」

結論を待たずにクロノスはライフルを構える。
そして、前面装甲を前にしながら一隻の前に一瞬躍り出る。

「ッ.....」
『心配しなくても.....馬鹿正直に当たりに行かねえさ!』

被弾を警戒する私を無視してそのまま旋回、パルスレーザー砲が回転する前に一、二射して離脱。

『急上昇するぞ、歯、食い縛れ!』
「はい!」

フルオートではないので、的確にコアブロックを撃ち抜いたようで警備船は浮力を失って墜ちていく。
それを尻目にクロノスは上へ上へと上昇する。
警備船の射程外に飛び出た瞬間、スラスターを起動して速度を殺し、

『降りるぞ.....って、どうした?』
「ブレーキをする際も、お願いします.....」
『わりー!』

クロノスは真下に向けて加速する。
下向きの重力に乗り、その速度はどんどん上がっていく。

「................」
『行くぞ!』

そのまま通り過ぎるのではなく、斜めの角度で進入。
一射、二射と放ちながら速度を生かして離脱する。

「撃破確認、任務再開してください」
『忙しいな、全く......』

加速を維持しながら、クロノスは次の目標地点まで急行するのだった。
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