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シーズン3-大侵攻の序曲
076-皇女の断罪
しおりを挟むマリアンヌ...アインス、中々恐ろしい奴だった。
俺は彼女に対して責を問うつもりはないが過去は捨てろ、と命令したのだが...
そう命令した瞬間彼女は机に向かい、俺にとある作戦を立案して持ってきたのである。
その内容は、
『クロトザク治世の障害となる、旧体制に従う国民を一掃し、生き残った者を回収して忠誠を誓わせる、もしくはスキルエミッターの原材料へと変える』
というものだった。
俺は当然、戦慄した。
こいつ、国民を売るのか――――と。
「正気か? まあ、立案した以上は実行するが...意図は聞くぞ」
「はっ、資源惑星として運用し、労働力として求めないのであれば、クロトザク臣民には資源として消費するか、技術奴隷として拘束する以外の価値はないと判断しました」
何だこいつ、怖すぎる。
洗脳過程をやりすぎた、そう思ったが、これが彼女なりのケジメなのだろうと判断した。
どうせいつかはやるのだ、今やってしまっても問題はないだろう。
それから数日後。
混乱の続くクロトザク本国の、全ての通信網が突然ジャックされ、皇女マリアンヌの顔が大きく映し出された。
「お、おい! あれ...!」
「マリアンヌ様だ!」
国民たちは、皇女の無事に安堵したが、同時にある一つの疑問を抱く。
艦隊は全滅したというのに、指揮官である皇女はなぜ無事だったのか、と。
その疑問に答えるように、マリアンヌは身を引き、軍服を身に纏った姿を見せながら、信じられないような言葉を口にする。
『国民たちよ、私のもとに集いなさい。そうすれば、私が忠誠を誓う、偉大なる司令官である、シン様が慈悲をくださいます。愚かにも彼に歯向かった私でさえ、生きることを許してくださった彼の下に――――しかし、私が洗脳されたのでは、と思う民もいるでしょう。ですが....大丈夫です、必ず幸福になることができますよ、私のように....』
皇女の言葉に根拠はなかったが、国家という基盤を失った国民たちには強く響いた。
もともとが高貴な皇女に従うように洗脳された国民たちは、その言葉に耳を傾け始めた。
Noa-Tunに対する反抗の意思は自然と削がれ、結束は我先へと救いを求める蜘蛛の糸に縋る餓鬼のような混沌としたものに変わり果てた。
『三日後に、皇城跡に集まりなさい。そこに集まったものたちは、この地獄から救われるでしょう。ただし、一つだけ。星外へと出ることをおやめなさい。今までこの星の外へと出ようとした民たちは、皆死にました。外へと出なければ、シン様の慈悲はあなた達を許すでしょう』
ふざけるな、こんな惨状にしておいて。
外へ出るなだと。
そんな感想を抱くはずの国民たちは、洗脳教育の賜物か皇女にすんなりと従う。
城を破壊し、皇女を拐かしたNoa-Tunだが、皇女が無事であれば、自分たちが余計な事をするのは皇女を危険に晒す事であると理解したのだ。
「ふざけるな! 皇女様! あんな賎民どもなんかより、俺たちの生活を保障しろよ!!」
そう叫ぶ者もいた。
もともとは上級国民だったのだろう、洗脳教育を受けなかった者だ。
上に立つ者が自分たちの生活を保障する――――そう信じてやまない人種だ。
「お....おい、何だよお前ら....なんだ、なんなんだ....その目は!! やめろっ!!」
だが、そんな事を公言すればどうなるか?
結果は見えていた。
怒り狂う国民たちに、その男は集団で嬲られ、当然のように死んだ。
同じように不満を抱く者もいたが、それを見たことで恐怖を覚え、なりをひそめた。
それから三日後。
皇都には、たくさんの人間が詰めかけていた。
クロトザクは環境汚染により、死の雨が降り続いている。
雨から逃れ、少しでも長く生き残るために集まった全ての民がそこにいた。
逆に、Noa-Tunを信用できない者は、そこにはいなかった。
そして、集った者も、集わなかった者も、その選択を後悔することになるということを、彼らはすぐに知ることになる。
「皇女様が映るぞ!」
時間になり、画面が切り替わる。
一瞬映ったクロトザクの紋章に、誰もが皇女の登場を期待した。
「なっ...何...」
「なんてことなの...」
だがそこには、腕組みをして玉座に座るシンと、その素足を舐めさせられているマリアンヌの姿があった。
マリアンヌの顔に不快感は表れておらず、むしろ悦んでいるようにも見えた。
『ようこそ、君たちの墓場へ。バカが餌を用意したらすぐに飛びつくというのは本当だったようだな』
「こ....皇女様を離せ!」
「そうだ! よくも皇女様にそんな辱めを....!」
『いいのか? 大事な国民の嘆願だぞ、ア...マリアンヌ?』
『そんなぁ...やめないで.....』
『だそうだ』
国民の憧れであり、象徴的存在だった皇女が、支配者の足を舐め、悦んでいる。
それは国民たちの脳を即座に破壊した。
呆然とする国民たちだったが、一部の熱狂的な者たちは新たな帝王の登場に沸き立ち、歓声を上げた。
『さあ、アインス、判断せよ』
『サー、イェッサー!!』
その時、シンがそう命じた。
途端、マリアンヌは立ち上がって敬礼し、画面の方を向いた。
『これより、この場におけるクロトザク国民の即決裁判を開始する!』
『それでいい』
「こ、皇女様....?」
「俺たちは何もしてねえっ、皇女様、助けてください!」
『諸君らは戦争に加担し、抵抗の意思も見せずにNoa-Tunの財産に損害を与えた。よって、即決で死刑とする! 偉大なるNoa-Tunに栄光あれ!』
直後、空が輝きに満ちた。
「何かが落ちてくる!!」
「皇女様ぁああああああああああ――――」
皇都にランサー:オーロラグランツによる光の柱が直撃し、そこに集っていた人間達は高密度のエネルギー波によって一瞬で蒸発した。
周辺に拡散した衝撃波は都市を完全に破壊し、周辺地域に分布していた生き残りをも纏めて死骸へと変えた。
「よっ....よく決断を下したな、アインス」
「はっ! 我が心はNoa-Tunにあります! シン司令官様のご命令であれば、即座に決行するまでです!」
敬礼をしたまま動かないアインスに、シンはドン引きしつつオーロラに尋ねた。
「オーロラ、原稿通りにやったが.....これで良かったか?」
『はい――――』
『はいっ! シン様、凄くかっこよかったです!』
「...それはよかった」
かつて栄華を誇ったクロトザク皇国は、元皇女の下した判決により、その国民のほとんどを失って事実上消滅した。
そして、生き残った人間達は皇都に何が起こったかを知り、死なないために、生き残るために地下へと潜み、隠れ始めるのであった。
...すでに回収部隊が動き出している事も知らずに。
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